急激に増加しているフィッシング詐欺件数
EC事業者のみならずインターネットビジネスに関与する事業者にとってセキュリティ対策は必要不可欠であることは言うまでもありません。しかしながら2020年に入りフィッシング詐欺が急増し今もってその増加傾向が著しい事実を皆様はご存じでしょうか。今回のコラムはフィッシング詐欺に関するデータならびにクレジットカード不正利用の被害額に関する実際のデータを紹介し、その実情をご認識頂ければと思っています。
フィッシング詐欺報告件数の月次推移
次の棒グラフは一般社団法人JPCERTコーディネーションセンターが事務局の「フィッシング対策協議会」が毎月発表しているフィッシング報告件数の月次データです。ご覧の様に全体的に右肩上がりではありますが、2020年に入ってからその勢いが増していることがよくわかります。2017年で最も多かった月は1,396件(10月)でしたが2022年9月には過去最高の107,948件を記録しました。5年で77倍に増加した計算になります。尚、この件数はフィッシング対策協議会に報告があった件数です。したがって実際に発生した件数の一部分であり実態としてはもっと多いフィッシング詐欺が発生しているものと推測されます。
フィッシング報告件数(海外含む)の月次推移(単位:件)※2022年9月分まで
(出所)フィッシング対策協議会発表情報
フィッシング詐欺件数の増加の背景にはコロナ禍でインターネットやEC利用の増加がそのベースになっていることは明らかでしょう。筆者の推測も含まれていますが18歳から親の承諾なしでクレジットカードを作ることができるようになったことも要因にあるように思えます。SNS利用の一般化も事態を後押ししているかもしれません。また、国境をこえて海外の犯罪組織が日本の消費者をターゲットにしているケースも多いと考えられます。いずれにせよ時間とともに犯罪手口が巧妙化しイタチごっこの状態が続いているものと思われます。
クレジットカード不正利用の被害額
フィッシングによって入手されてしまう情報の代表格はクレジットカード情報でしょう。次のグラフは一般社団法人日本クレジット協会発表の「クレジットカード不正利用被害の発生状況」に関するものです。こちらも右肩上がりで増加している様子が見て取れます。2017年Q1(1~3月)の被害総額は57.2億円でしたが2022Q2(4~6月)には106.4億円にまで拡大しています。内訳を見ると偽造カードによる被害額は近年ほとんどなくなり、その代わりに番号盗用による被害額が増えています。2017年Q1の番号盗用被害額は40.3億円でしたが、2022年Q2には100.8億円にまで拡大しています。不正利用の被害額が増えている理由はフィッシング件数の増加によるものでしょう。関係者による努力は最大限行われていると推測しますが残念ながら番号盗用被害額は時間の経過とともに増えています。
クレジットカード不正利用被害の発生状況(単位:億円)
(出所)一般社団法人日本クレジット協会発表
尚、番号盗用被害額について同協会は国内・別内訳も公表しています。それを見ると2021年の年間比率は国内対海外で75:5%:24.5%、また2022年Q1、Q2の合計では75.1%:24.9%となっています。即ち海外が全体の4分の1を占めています。過去からの経過をみると徐々に国内の比率が上昇しているのですが、これはコロナ禍における渡航制限等の影響があるのかもしれません。しかしそれでも4分の1を海外が占めていることから、海外の犯罪組織による犯行が一定数行われていることを意味しています。日本の消費者をターゲットにしようと企む海外の犯罪組織が益々増えればこの数値も増えることになります。そのような事態は絶対に回避すべきでしょう。
ギアをあげる必要性
これまでの傾向を見る限りにおいて、フィッシング詐欺報告件数およびクレジットカードの番号盗用による被害額は今後も増加するかもしれません。官民挙げて様々な対策が講じられているとは思いますが、ギアをもう一段上げる必要があるのではないでしょうか。消費者の立場で捉えれば、いかなるやりとりであっても不用意にクレジットカード番号を含む個人情報を安易に入力送信してしまうことは避けなければなりません。また事業者の立場で捉えれば、今以上に対策を講じるとともに消費者に対する注意喚起を行う必要がるでしょう。EC市場規模や小売市場規模に対するクレジットカード被害額の比率は大きくないかもしれません。しかしながらセキュリティ対策は事業の根幹であります。フィッシング詐欺やクレジットカードの不正利用がEC市場活性化の重石になることだけは絶対に避けるべきであり、犯罪者に対しては今よりももっと厳しい刑事罰を与える必要があると考えます。
JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役