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「自粛でもうダメ!」と悲鳴をあげる前の生き残り策

■相次ぐ閉店とオンライン化、どうマネすべき?
2020年6月19日、東京銀座にオープンした巨大な店舗「UNIQLO TOKYO」を尻目に、ユニクロ超えのファストファッションの巨頭「ZARA(ザラ)」はコロナ禍で大量閉店を早々に決行しており、米アップルストアも営業再開した主要店舗を数日で再休業を余儀なくされるなど、出口がまだまだ見えない状況です。そのような中、各社が新たに取り組むオンライン対応をみかけるたびに、果たしてどれをお手本にすべきなのか悩ましいところではあります。

そもそも、こうしたオムニチャネル戦略で好調に売上げを伸ばしてきた生活雑貨やアパレル・家電などの業態には大きく2タイプあります。失敗しないためにも、自社はどちらのタイプなのかを見極めておく必要があるでしょう。

例えば「ファスト・ファッション」とひとくくりにされていても、「ユニクロ」と「ZARA」では対象層と方向性がまったく異なります。かたや子供からご老人までを対象とする、機能・価格に加えて立地条件と出店数がモノいうネット依存比率が少ない「リアル店舗タイプ」の「ユニクロ」。かたやトレンドや高い感性など服慣れしている生活者を対象とする「ZARA」では、自力で選べる・探せる生活者が多いためネット向きであり「オンライン店舗タイプ」です。こうしたタイプの違いを見据えて、オムニチャネル事例と導入比重は判断してゆくべきで、特にECメインの店舗などでは、この比重を無視して「あそこがやってるならウチもやる!」と息巻いて、完璧にマネしたつもりが手痛い失敗を負う、というケースは年に数回見聞きするところです。

■リアルのピーク期を逸するも挽回「土屋鞄製造所」
ランドセルという業界にもリアル型、EC型があります。まずランドセル業界のカレンダー的には予約のピークは、下図のとおり7月です。

メーカーは「専門大手」「流通系」「中小規模系」と3つに分類でき、それぞれハシモト、三越伊勢丹、池田屋、などが有名です。共通しているのは予約ピーク期の前に「新作展示会」がデパートなどのリアル店舗で開催され「相談会」などで人気商品から順番に売り切れてゆくという傾向です。ご存じの通り、今年は3月からの自粛でこうしたイベントが軒並み延期となりました。通常なら商機を逸せざるを得ないとあきらめるところです。
しかしそのような中で、ひとり気を吐いていたのがオンライン通販を基軸に成長してきた中小規模系の「土屋鞄製造所」さんです。

例年土屋鞄製造所さんでは「売り切れを気にせずにご注文いただける期間」として、顧客満足度を高めるイベントで、欠品なしの全商品ラインナップから生活者がランドセルを選べる企画を実施されていました。具体的には、全国15店舗ある「リアル店舗」の他、ホテルの催事会場など約20箇所の1〜2日限定の「出張店舗」も含めた「オムニチャネル企画」が展開されます。つまり、職人による「ハンドメイド」が売りの土屋鞄製造所さんでも、ランドセル業界のカレンダー通り、前年3月からリアル店舗を中心とした展示会イベントは重要なイベントだったのです。もともと土屋鞄製造所が対象としている生活者はEC向けで、30代後半以上の男性が大半なのですが、こと「ランドセル消費」においては20代後半から40代前半を中心とした女性が圧倒的シェアを占め(SimilarWeb.com等の統計サイトより)、いわゆる「リアル店舗タイプ」で、リアルイベントは必須の対象層となっています。

■オンラインで「説明会・接客・試着」を実施
イベントができない!時間が無い!そんな土屋鞄製造所のランドセル部門が取られたオンライン企画は、1)オンライン接客、2)オンライン説明会、3)オンライン試着 の3つでした。

1)オンライン接客
テレビ電話システムを通じて、パソコンやスマホの画面上でリアルタイムにランドセルを詳しく見てもらいながら、ご家族一組につき25分間じっくりとスタッフが説明する、という内容で、ASPサービスのテレビ電話予約システム『コネクトさん』を利用されていました。筆者も同時期にこうしたオンライン接客やオンライン・レッスンなどのサービスを導入検証していたのですが、ZOOMやGoogleカレンダーで即席で立ちあげた場合、ネットに詳しくない生活者が離脱してしまいます。おそらく「コネクトさん」を選択された理由は、空き時間が選びやすいカレンダー予約画面やスケジュール忘れ防止メッセージなど、類似サービスから一歩抜きん出る点がユーザ目線を重視する土屋鞄製造所さんの方針に合致したからではないかと想定されます。

2)オンライン説明会
先ほど図示した土屋鞄製造所さんのランドセル対象層リサーチ結果のとおり、SNSサービスのインスタグラムの動画機能「IGTV」とライブ配信機能「インスタライブ」はインスタグラムユーザ層ともマッチしており効果的です。いずれもインスタグラムが提供するごく普通の動画サービスですが、今回土屋鞄さんがマーケティング面で工夫されているな、と気づいた点が、3回に分けて配信された点です。第1回:ランドセルの基本について、第2回:土屋鞄の新作モデルについて、第3回:多かった質問へのお答え、と段階をおって自社ブランドへ興味関心の少ない生活者層から広くとりこみ、自社ブランドへ誘導し、最終的にライブ配信で強力な購入検討層へと絞り込んでゆく、いわゆる「購入者の心理ステップ」を活用されています。毎週1回行われ、第一回と第二回は「IGTV」動画でそれぞれ6分、10分と短めで構成もシンプルな動画です。最後の第三回は「インスタライブ」で午後8:30からLIVE配信されていました。この事例をご紹介すると、意外に10分間の動画や1時間のライブなど長尺の動画が配信できることをご存じ無い方が多かったので、以下にインスタグラムが実施している動画サービスをまとめておきます。

3)オンライン試着
こちらはちょっとしたアイデア賞で、インスタグラムの「ストーリー」で使える「GIFスタンプ」機能を流用した試着コーナーです。ストーリー機能は、TikTok的な一発芸にも近いインパクトから、タイムラインよりも見られる傾向が高い上、拡散力も大きく、これらの楽しさと拡散力を上手くキャンペーンにも活かした事例では無いかと思います。

こうした土屋鞄製造所さんの取組がまとめられたページが「おうちでたのしむ土屋鞄」です。SNS黎明期時代から、ネット活用では達人レベルの土屋鞄製造所さんならではの「リアル店舗タイプ」の生活者への想いが詰まった愛のあるアイデアと、自粛不況を打破するテック企画を短期間で立ちあげられる「オンライン店舗タイプ」の社内体制の機動力、絶妙なバランスのさじ加減は2020年上半期で上位TOP5に入るマーケティング施策だったのではないでしょうか。

URL:https://tsuchiya-randoseru.jp/pages/ouchide-tanoshimu

JECCICA客員講師

株式会社ISSUN 代表取締役 宮松利博

1998 年に公開したフリーウェアがヒット。その知見でECを立ち上げ、半年で月商1億円の単品記録となり多くのメディアに取り上げられる。蓄積したノウハウで開発した商品がECコンテスト12部門受賞、3年で年商20億円に成長(現ライザップ)。同社の上場と同時に保有株を売却し、ECコンサルティング会社を立ちあげ、業界No.1クライアントを多数抱える。日本イーコマース学会 専務理事。


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