楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol㉖
モノからコトへ、そして「トキ」消費へ!
【時間を費やすことは大変か?】
「新型コロナウイルス」の影響は長引き、私たちの生活に大きな影響を及ぼしています。
自粛生活、「Stay Home」を余儀なくされ、時間を持て余している方も多くいるようですね。
前回のコラムで「90,000時間」と「125,000時間」という話をしました。前者は大学を卒業して62歳まで40年間働いた時間。後者は62歳で定年退職して現在の男性平均寿命に照らし合わせ、20年間を過ごした時間です。
今回の自粛で、忙しい時は過ぎ去るのが早い時間も、やることがないと長く感じる。こうした時間を、現役世代の方は定年前に事前体験させられている気さえします。
【人間は時間を消費している】
「モノからコトへ!」というキーワードを更に進化させ、博報堂生活総合研究所がスマートフォンとSNSが普及した、今日的消費スタイルを「トキ消費」と名付けました。その内容とは、同じ志向を持つ人々と一緒に、「その時、その場」でしか味わえない盛り上がりを楽しむ消費のことであり、「非再現性・限定性」、「参加性」、「貢献性」という3つの要素を併せ持った消費と提唱しています。
例えば「AKB48」のファンは、劇場にライブを見に行きます。これは「非再現性・限定性」であり、まさに「そのトキ限定」です。彼らは同じAKB48ファンという共通の仲間で「参加性」が高いコミュニティと言えます。そして彼らは握手券の付いた音楽ソフトを購入し、総選挙で自身のお気に入りを投票します。つまりAKB48は、「自分たちが育てたアイドル」と自負しており、これは「貢献性」にあたります。こうした3つの側面から、モノを購入したり、コトに参加するという行動は、最終的に時間を消費しているということになります。
【「トキ消費」は人間の本質的な欲求を満たす】
私が「トキ消費」から感じることは、人間の本質的欲求に忠実な消費活動であると同時に、若い世代のみならず、シニア予備軍であるABS世代にも十分当てはまるということです。
復活ディスコは「トキ消費」の良い例で、「一夜限りのイベント」は大変人気を博しています。そこには共通の興味・関心事であるディスコ好き仲間が集まり、イベントやその前の会食などの写真をいっぱい撮って、主にフェースブックで公開し、口コミ波及しています。こうした一連の流れは、まさに「トキ消費」であり、そのトキに彼らが求めている理想な状態、つまり本質的なニーズ(欲求)は、「ドキドキ・ワクワク」したいことです。これは老化の進行を遅くするハッピーホルモンが分泌することも、「ジェロントロジー学」で論証されていると以前お伝えしました。
【トキ消費の成功は「人をワクワクさせる」提案をすること!】
その「トキ消費」のニーズを満たす「モノ・コト」の提案は、まさにビジネスチャンス。
そもそも「モノ消費からコト消費」と言われたのはバブルの頃からです。モノに満たされた当時のABS世代は、モノ(車や洋服)を買い、その結果ワクワクするコト、つまり体験(ドライブやデート)を消費していたのです。その欲求とは男の子・女の子ともに、「彼氏や彼女を作りたい、モテたい」欲求に基づいた行動と、前に当コラムでお伝えした調査結果からも明らかです。
従来の固定観念では、高齢の人が「ドキドキ・ワクワク」する体験は少ないだろう、、と事業者は考え、また本人も年齢を重ねて定年退職し、健康に何らかの不具合が出てくると、「老けたと思い込んでしまう」のです。しかしデジタル社会の夜明けは1990年代後半であり、当時30代から40代だったABS世代は、今までのシニアと大きく異なり、スマートフォンやSNSを普通に使いこなし、ECサイトを活用します。
そして参加性と貢献性の根源は、まさしく「承認欲求」であり、70年代後半の若者カルチャーから、バブル期の体験があるABS世代は、とりわけ承認欲求が高い人が多いことも、トキ消費との親和性は高いと考えています。
私はトキ消費を「人間のニーズ(欲求)」の視点で言い換えると、以前にもお伝えした「ワクワク消費」と提唱しています。今回のコロナの影響で、社会が大きく変化する中で、「人間をワクワクさせる・ハッピーにする」といったビジネスを行う上での哲学は、これから更に問われると感じています。
■ABS世代 昭和30(1955)年から43(68)年生まれで現在51歳から65歳の、若者時代にバブルを謳歌した世代。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント
マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視したマーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。