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2021年 年頭所感 宮松利博

2021年の新春を迎えまして、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

・突然変異レベルで加速した2020年デジタル化の波

「3密」「ステイホーム」「おうち時間」、いずれも昨年おもな流行語大賞で1位となったワードです。これらのワードが示すとおり2020年を境に、私たちは今までと全く異なる生活様式へと「変容」を求められました。
その代表的なものの一つが、CMなどにも取り上げられたデジタル化(DX:デジタルトランスフォーメーション)の流れではないでしょうか。テクノロジーだけで無く、経済などの専門家も口を揃えて『この1年で10年分は進化した』とも評されることが多かった様に感じた1年でした。ただしデジタル化といっても量子コンピュータのようなハードルの高いものでは無く、身のまわりのことでいえば、会議室での打ち合わせや商談は「zoom」などのオンラインミーティングに取って代わられ、オフィスに出社すること無くタイムカードや稟議決済などの事務処理が進むようになり、あの日本独特の「ハンコ」文化ですらオンライン化が一般化されたり、といった程度の話しです。

・デジタル化で発生しているウィズ/アフター現象

こうしたデジタル化への変化は「ウィズ/アフターコロナ時代」のひとつとして語られますが、2021年は「ウィズDX/アフターDX時代」としての気配り、優しさが必要では無いかと感じています。デジタル化に対しては多くの企業では「対応できた」「対応中」「対応できなかった」と大きく分かれるようですが、中小企業の中には「あえて対応していない」というお声も漏れ聞こえてきます。
例えば、前述のような変化以外に我々が『この1年で10年分は進化した』と感じる体験の一つが「ランチはアプリですぐ宅配」が挙げられます。具体的には「ウーバーイーツ」などのスマホを数回タップすれば20分後には手元にステーキが届くサービスです。しかし飲食店さん側からすると、「取り組んではみたいけど、断念せざるを得ない」という状態がまだまだ多いようで、手数料が利益を圧迫する、お酒がセットじゃないとウチは儲けにならない、お届けする状態や品質は下げたくない、など採算が合わないといった理由が多いようです。

しかし、こうした光景にデジャヴ(既視感)を感じるEC関係者は多いでしょう。20年前はほとんどの事業はまだリアル店舗一辺倒でした。そのようななかで訪れたEC化の波を、上記と同じような理由から、『簡単に解決できる方法はある』にもかかわらず「断念せざるを得ない」と頑なにチャンスを見送ってしまった事業者を私たちEC立ち上げちゃった組は数多くみてきたはずです。

・「正しい答え」を受け入れる余裕
かつてECがゆっくりと進化したのとは異なり『この1年で10年分は進化した』デジタル化の波は、店舗経営だけでなく、リモートワークなどで組織が抱えるスタッフなどにもストレスを与え始めています。
デジタル大好きの私からすれば、一部の企業でしか認めて貰えなかった電子署名や移動時間のロスがないリモート会議が一気に浸透してゆくスピードは、まさに10倍ほどの体感値で心地よく感じました。しかしその一方で、「この流れのまま進んで大丈夫なの?」「もしかするとこの感覚がDXを阻害しているのか」と感じる場面が多くなった気もしました。
たとえば最近だと、弊社もご多分に漏れずスタッフがほぼ全員リモートワーク化したためにオフィスを縮小移転することになり、オフィス選びで物件を回ったりカタログをめくっていると「スマートオフィス」という文字が飛び込んできます。オフィスへの宅配物や郵便物はもちろん来訪者もカメラとセンサーが感知し、自分がどこに居てもスマホでお知らせしてくれるという機能などです。鍵だって物理的な鉄のカタマリではなく、防犯性の高いカードやアプリのスマートなキーで「サムターン回し」といった物理的な侵入方法も通用しないし便利そうです。でも実際に手に取ってみると「理論上は飛躍的に安全になっていることは分かるけど、このスマホアプリキーを複数のスタッフに持たせて、紛失した場合などの管理リスクはどちらが高いの?」という保守的な発想に後ろ髪を引かれ、結果的にこのスマートオフィスのシステムは導入しませんでした。

・正しさを伝えるための「優しさ」という気持ち
このケースで感じたのが営業マンさんのお薦めの仕方です。「御社のようなセキュリティにお金をかけなければならない事業者様であれば、絶対に導入される価値は高いですよ」と言う言葉に、私の断りの直接的な理由である「便利なのはわかるけど、自分以外のスタッフのことを考えるとまだ導入は不安」には全く回答になっていませんでした。正しいことは分かっているけれど、こちらには受け入れる精神的な余裕がまだ無いのです。
では彼はどうすれば良かったのでしょうか。北風と太陽と旅人の話ではないのですが、もう少し寄り添って相手の不安を聞いて上げることが重要なのかな、と営業現場が長かった私からするとそう感じたのですが、ふと自分自身に置き換えてみました。月に何度か訪れるDX化のアドバイスの場面で、私にもそうした点が欠けているのでは無いかと反省しました。
10代のころ、色々な格闘技道場を見学して回ったことがあるのですが、ある少林寺拳法の先生が「正義を武力で貫こうとしてはいけない。やさしさと思いやり、これがなければ正義は貫けない。」とお話いただいたのを思い出しました。またちょうど10年ほど前、来日したマイケル・サンデル教授もその著書『これからの「正義」の話をしよう』で同じようなことがかかれていたと記憶しています。以前「すべらない話し」で小薮さんが「世直しもこめて運転手に一言注意してやろうとしたんですよ」と、ほぼチンピラがケンカを売りに行っているのと変わらないシーンに「その世直しも優しさが無いと失敗するな」と感じたのを思い出します。小薮さんの話しは少し極端ですが、同様に少し自分自身にも『この1年で10年分は進化した』デジタル化の波の中で、ヒトと直接会う機会も減り、「優しさ」が欠けてきたのでは無いのかな、と感じました。
『この1年で10年分は進化した』の並によって『この1年で優しさが退化した』とならないよう、2021年は、デジタル化の荒波のなかでも優しさと寛容さを肝に銘じた1年にすることを決意いたします。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 宮松 利博

得意分野/Eコマースの立ち上げ・販売拡大
1998年に公開したフリーウェアがヒット。その知見で開発した商品が大手ECコンテストで12部門受賞、3年で年商20億円に(現ライザップ)。上場と同時に保有株を売却し、ECコンサルティング会社を立ちあげ、業界No.1クライアントを多数抱える。日本イーコマース学会専務理事。


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