楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.82 【「仮説思考」の重要性と「デプスインタビュー」から潜在ニーズ発見】
【デプスインタビューとは?】
いつの時代も、マーケティングリサーチを通じて、社会や業界市場を把握することは大切です。その調査手法は、目的に応じて2つの手法があります。
「定量調査」は、商品の所有・購入実態や購入重視点、ブランドへの認知・好意度・イメージなど「数値」で把握する「実態把握型」の調査です。
一方の「定性調査」は、顧客の評価・態度・行動や、ニーズ洞察などの「非数値」な状況を把握する、心理や感情などの「インサイト探索型」の調査です。
今回お伝えする「デプスインタビュー」は定性調査の一つで、「1人」の顧客を徹底的に深掘りし、その行動や心理から従来の調査手法ではなかなか見えない「本質的なニーズ」を抽出する調査手法です。
【顕在ニーズを満たすビジネスは飽和状態】
今日の日本社会は、あらゆるモノやサービスが飽和状態にあり、顧客の悩みが顕在化している「顕在ニーズ」を満たすモノやサービスは溢れかえっています。いわゆる「レッドオーシャン」です。ここでの競合との戦いは、価格競争や広告出稿量など、体力の消耗戦になることは言うまでもありません。
一方の「潜在ニーズ」は、顧客は気が付いていないけど、有ると更に生活が満たされる、隠れたニーズです。潜在ニーズは「こんな便利なモノがあります!」とか、「こんな面白い場所があります!」と具体的に言われると、「ア・・!、欲しい、行きたい!」と回答しますので、具体的に「こんなモノやサービスがあれば・・」という仮説と質問が無いと、回答は得られません。
定性調査には「デプスインタビュー」と、もう一つ「グループインタビュー」がありますが、グループインタビューは、5名~6名程のグループにヒアリングを行いますので、往々にして発言が多い人に引き込まれ、「本音と建て前を使い分ける」参加者の本音を拾い出せないことがあります。その点で、デプスインタビューは「特定の1人の行動や感情に寄り添う」ことで、より深いインサイト(洞察)を得ようというインタビューであり、マーケティングが進んでいる企業ほど、デプスインタビューを重視している傾向があります。
【社会構造の変化はブルーオーシャン】
ニーズが多様化・細分化する中で、大規模サンプルに頼る定量調査だけでは捉えきれない「深層心理」や「行動理由」が増えています。また、機能面の優位ではなく、顧客が心から求める「体験やサービス」の重要性が高まっていますが、こうした顧客の「本音」抽出は、大規模な定量調査を最初に行っても出てきません。
また、本コラムでも何度かお伝えしていますが、日本は「高齢化先進国」であり、昭和の時代に比べて、高齢者は見た目も行動も若く、また多くの方は働く時代に変化しました。こうした「健康長寿社会」は、歴史的に見ても、世界の各国を見ても、どこにも前例がありません。
人口の構造が大きく変化したことで現れた健康長寿社会は、今までに無かったモノやサービスが求められる時代であり、テクノロジーを大いに活用出来る時代と言っても過言ではありません。
こうした新しい市場のヒントを得るためにも「デプスインタビュー」を行い、特定な一人を洞察する意義が大いにあると思います。
【「N1」分析で素早く市場のアプローチを!】
デプスインタビューと連動して「特定の1人(N=1)の顧客動向を徹底的に深掘りし、その行動や心理から本質的なニーズを抽出する」分析手法を、「N1分析」と言います。
P&Gジャパン出身の経営コンサルタント西口一希氏は、ベストセラーになっている著書「たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング」で、「1000人より1人の顧客を知ればいい」というインパクトのあるキャッチーコピーが書籍の帯に描かれています。
つまり、顧客中心のマーケティングは、1人の顧客の徹底した理解から導き出した「アイデア」を起点として、市場セグメント(同一なニーズも持つグループ)に、どのような変化をもたらしそうかを可視化・定量化して検証するというものです。
1人のリアルな顧客の深層心理や、具体的な購買行動を踏まえて、ターゲットのペルソナ(ターゲット像の具体化・可視化)を作成し、同一な市場セグメントに拡げていくことが、実戦的でより良い成果に結びつきやすいと解説しています。
こうした考えを踏まえて、他社に先駆けて実際に市場導入し、顧客の反応を確認しながら、必要に応じて修正していく方が、より成功確率の高いマーケティングが可能であるということですね。
次回は、筆者の経験談から「仮説とデプスインタビュー」の分かりやすい事例をお伝えします。

JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント