楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol㊶ AIはマーケターやクリエイターの「よき相棒」
キャッチコピーは「口説き文句」
最近の話ですが、音声だけのSNSである「Clubhouse」で、私と同世代のクリエイター数人とディスカッションをしました。その中で1980年代のバブル期の広告コピーの話になりました。当時は糸井重里さんや仲畑貴志さんなど著名なコピーライターが、西武百貨店の「おいしい生活」とか、TOTOウォシュレットの「おしりだって、洗ってほしい」など、顧客の琴線を揺さぶるキャッチコピーを書いていましたが、それは分かりやすく言えば「口説き文句」です。当時のクリエイターは「右脳」を最大限に生かし、溢れかえる情報の中で「いかに面白くて、インパクトのある表現を創るか!」を競い合い、時代の気分を一言で表したコピーから、その年の流行語が世間を賑わせました。
クリエイティブでターゲティングをした時代
1980年代から90年代は、テレビを代表とするアナログメディアの時代です。例えば「こんなニーズを持つ、20代の都市部在住のOLがターゲット」だとしても、今ならインターネット広告でターゲティングは可能ですが、当時のアナログメディアではそれが難しかったため、クリエイティブ、特にキャッチコピーでどれだけ狙った人に伝えるか?、つまり「口説くのか?」を考えてCMやポスター等を制作していました。つまりクリエイティブに時間をかけてターゲティングをしていたのです。
私が1980年代に関わっていた広告は、今でいう「ブランド広告」で、商品の知名度や理解度、ブランドのイメージを形成するクリエイティブでした。当時の広告効果の指標は、あくまで「どれだけ認知と理解させたか、印象を与えたか」が広告の役割でしたが、バブル崩壊後に私が思ったのは、広告予算を効率的に使うため、「顧客と双方向で対話が出来て、売りに繋がる広告手法はないか」と感じたことです。
ダイレクトマーケティングの広告が到来した時代
そんな問題意識を持って1993年に、はじめてダイレクトマーケティングの仕事に関わり、通信販売のクライアントを担当し「レスポンス広告」に携わりました。当時はもちろん新聞やチラシ、ダイレクトメールなどのアナログメディアの時代ですが、その時の驚きは、広告効果がレスポンス(注文やサンプル請求)という顧客の行動で、すぐに件数が数値化され、費用対効果が分かること。そして顧客リストが取れるので、双方向で「生の声」が即座にリサーチ出来たことでした。当時の私は、今後はもっと論理的・数値的に科学に基づく広告やプロモーションが主流になると思いました。
その結果、私は早い段階からダイレクトマーケティングの理論や手法を知ったことで、2000年代から普及したインターネット広告、デジタルマーケティングの基礎が分かっていたので、現場の仕事に対応が出来たと思います。
AIをどう生かすのか?
あれから約30年が経過し、ダイレクトマーケティングの多くはデジタル化され、デジタルマーケティングという言葉は一般化しました。そんなテクノロジーの進化が著しい昨今、蓄積されたデータをAIが情報分析し、どんな言葉や表現が一番効率的に顧客のレスポンスが取れるかが分かる、つまり「AIが広告を創る時代」と言われています。ここでも「AIが人間の仕事を奪うのではないか?」議論があるのです。
しかし、蓄積されたデータはあくまでこれまでの膨大な情報であり、その中から足元の課題発見と解決を図る最適解は出すことが出来ても、先を読むことは難しいと感じます。
テクノロジーは日進月歩で、AIも先が読めるように進化し続けるとは思いますが、AIがロジックで導いた回答だけで、人間の心の動きや感情の深さなどを見極め、「琴線に触れる口説き文句」を創るのは難しいと思うのです。
恋愛に例えると、「この人、すごくいい人だし、言ってることも正しいんだけど、、でも、なんか好きにはなれないのよね・・」と、人間は気まぐれですから。一方でそんな気まぐれな人間は、思いもよらなかったサプライズや意外性にハートを奪われることは良くある話です。
こう考えると、こらからのクリエイティブ、更にマーケティングは、AIと敵対関係にあるのではなく、AIというツールを「よき相棒」として人間がうまく活用しながら、バブル期のように人間であるマーケターやクリエイターが「右脳」を活かし、化学反応のスパークをさせる。そうすることで、今までにないイノベーションを起こし、人間をワクワクさせる。そんな時代が到来したと痛感しています。
えとき
AIは人間という主人が使いこなす「よき相棒」である。この主従関係が逆転し、人間自らが本質を見失うことを、思想家マルクスは「疎外」と言った。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント