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炎上させない、しても慌てない「ネット炎上防災マニュアル 2018年版」

■フタをしようとするから、炎上する。
事業者がソーシャルメディアに参加するとき、皆が一様に恐れる言葉に「炎上」がある。
だが、実際にはソーシャルに参加していようがいまいが関係なく炎上は発生する。むしろ炎上を予防するためにも「ソーシャルメディア」に自社が参加しておくことは重要なのだ。
一般的なビジネスマンでも「犯したミスをとぼけてごまかす」「自分のミスは報告しない」といった「美しい虚像を守りたい」という風潮が組織で放置されていれば、ある日突然、予期せぬ大事故が発生する。まさにネット上の「炎上」も、そのような「隠蔽体質」から発生するケースが多いのだ。
事業者にとって「ソーシャルメディア」では「オープン性」「透明性」が要求される。この前提で事業者が日常的にソーシャルで活動すれば、そうした体質は改善されるし、大きなしっぺ返しを食らうこともなくなる。むしろ昨今のソーシャルメディアは「裏をさらけ出す」コンテンツほど生活者からは共感が得られるなど、キレイに取り繕った部分が賞賛される、といった過去の風潮と比べ、生活者全体の意識や文化も成長している。
一方で、ソーシャルメディアに任命された多くの担当者が抱く「何を書けば良いか分からない」という戸惑いは、実は「炎上が怖くて書けない」という不安によって生み出されるケースが多い。それほど「炎上」は正体不明で対応に困るシロモノなのだ。
しかし、日々の生活で「火災は絶対発生しない」という保証がないのと同じように、ネット上にソーシャルメディアが存在する以上、「炎上」が起こらない保証はゼロにはならない。つまり、どんなに素晴らしい組織であっても、ミスは発生する。だからこそ、「防災の意識」を持つことで、万が一の際にも火災を未然に防いだり、最小限の被害に止める事ができるわけだ。
筆者自身が最初に「炎上」の渦中に置かれたのは2001年だった。巨大ショッピングモールの店長名義で掲示板を運営していたころで、同業他社からの誹謗中傷が火種だった。当時は大規模炎上ともなれば掲示板閉鎖が必至だったが、ネット黎明期の1996年から個人ホームページへの攻撃などの洗礼を受けていたので、対処方法はすでに用意していた。警察やプロバイダ、最終的には海外の法律事務所の助けを得て、鎮火に至らせたが、その後も数年間は、ネットに対する意識や法律が未整備な状態が続いたことで、いわゆる巨大掲示板上やブログのコメント欄、価格サイトのレビュー板、といった無法地帯で、同業他社がみるみる炎上して行く様をなんどとなく経験し、またその鎮火作業を請け負うこともしばしばあった。
そうした筆者の経験上、「対応の遅れ」は炎上要因のひとつだ。炎上の火種を発見したら、30分以内に対応することで、被害は最低限にくいとどめられ、また、逆にクレームをファンに変えることも可能だ。ネットの法整備が整いつつある現代では、「いわれもない炎上」が大型化するケースは数少ない。おうおうにして大炎上に発展するのは「放っておけばそのうち何とかなるだろう」とか「別にうちが迷惑かけたわけではないし」と、無関心・無責任な姿勢で、対応が遅れてしまっていることが原因だ。では、「炎上」の火種はどうやって発見し、どのように対応すればよいかをみてゆこう。

■ポイントは「火種の第一報をいち早くキャッチ」すること
繰り返しになるが、法整備が整いつつある現代の炎上のきっかけは

・投稿やコメントに、不適切・不正確な内容があった
・ネット上で社員やスタッフが不適切な行為をとった
・事業者へのクレームが投稿された

と極めてシンプルである。反対勢力やアンチによって意図的に仕掛けられた炎上は、過去と比べれば圧倒的に少なくなった。一方で、ソーシャルメディアの発展により、ネット上には、日々、様々な「書き込み」や「噂」「6ニュース」が飛び交っている。好意的な内容もあれば、心なき誹謗中傷もあるだろう。中には、自社がまだ把握していないような、情報漏えいや、食中毒・異物混入などの事故、当事者がまだ気づいていない過失を指摘してくれているケースですらある。だが、時々刻々と生まれ続けるこうした情報から「火種の第一報をいち早くキャッチ」するために、毎日手作業で検索し続けることは困難だ。
そこで、こうした火種のイチ早い発見を簡単に誰でも始められる方法をご紹介しておきたい。

■まず炎上に関連するワードを社内で選定する
まず、自社に関するキーワードをできるだけ幅広く用意する。例えば、社名、店舗名、屋号、自社ブランド名、商品名、代表的なキャッチコピー、代表者名、主要役員名、オンラインショップ店長名、カスタマーサポート担当者名、オンラインショップURL、フェイスブックページURL、Twitterアカウント、インスタグラムアカウント、LINE友達名、運用ドメイン名などである。さらに、これらの誤字、伏せ字を使ったパターンなど、考え得る範囲で文字列を列挙する。
特に、イーコマースの目線から言えば、「プレスリリースで使用したキーワード」「交通広告などに用いた指定ワード」は、マーケティング面でも重要となってくる。

■関連ワードの出現をいち早く知る
次に、上記で準備した文字列を次の複数の方法で登録し、ワードが発生した際にメール等で情報を取得できるようにしておく。
・最も簡単な方法はグーグルの検索結果をチェックする方法だ。
 グーグルアラート:http://www.google.co.jp/alerts
 に、上記のキーワードを入力して、
 「頻度:その都度」「ソース:自動」「言語:日本語」「件数:すべての結果」「配信先:任意のメールアドレス、できればチームで受信できるアドレス」などを選択し、「アラートの作成」で完了である。あとは設定したスケジュールに従って、メールでお知らせが届く。
また、風評の伝播速度を考えるとTwitterの影響は大きいので、Twitter上の会話でキーワードに関するツイートはチェックが必要だ。現段階では、Yahooリアルタイム検索をモニタリングすることになるが、この方法ではやや即時性に欠けるため、筆者は次のような設定をお薦めする。
http://search.twitter.com/search.atom?q=[キーワード]
の[キーワード]の部分に、監視したいキーワードを記述する。
例:http://search.twitter.com/search.atom?q=hogehoge.com
そのURLをhttp://beta.blogtrottr.com/に登録する。受信したいメールアドレスを入力すると、確認メールが届くので、メール本文の確認URLをクリックしたら登録完了である。
注意点として、キーワードに日本語を使いたい場合は、http://www.tagindex.com/tool/url.html で「エンコード」という所に、希望する日本語を入力して、「UTF-8」を選択して、エンコードボタンを押す。そうしてエンコードされた文字をキーワードの部分に記述してやれば良い。

■情報をキャッチしたら、対応の方向性を決める。
情報をいち早く取得できれば、あとはその対応方法を判断すればよい。当然これは早ければ早いほどよい。称賛の声は、企業にとっても心地よいものだが、否定的な意見にこそ、耳を傾けるべきだ。慣れないうちは、ネガティブな情報や意見への対応で失敗することが多い。
ネガティブな「書き込み」を見つけた場合、まず、謙虚に受け止め「私たちは、何を改善すべきか?」という視点に立つことだ。「売り言葉に買い言葉」のように感情的になったり、自社のフェイスブックページなら、あわてて削除するなど、冷静さを欠いた言動は慎まなければいけない。冷静沈着に

1)その投稿に、反応、あるいは、返信すべきか?
2)謝罪の必要性はあるか?
3)被害者になっていないか?
の3点を、正しく見極めるべきである。
1)の「その投稿に、反応、あるいは、返信すべきか?」をまず判断する必要がある。多くの第一報は、先ほど紹介したような方法で、こちらが勝手に見つけた投稿となるので、書きこんだ相手は返信などは期待もしていない。特に、その投稿が「嘲笑を伴った批判」であった場合であれば、触れずにおくほうが得策だろう。感情的になって関わらないほうがよい手合いが多い。怒りや嘲りを伴った感情的な批判は、一時的にたかぶった感情であるケースが高く、数時間経つと投稿者によって削除されているケースもある。あるいはそのような投稿しかしない、というユーザもいるので、過去の投稿も参照しながら判断が必要となるだろう。
ただし、こちらに非があり、何らかのコメントが必要だと判断された場合は、素直に反省しながら相手の立場やプライドを傷つけないように気配りをして、Twitterならリツイート(RT)ではなく「メンション(@)」を使い、フェイスブックなら、個人宛のメッセージも選択肢に加えるなど、できるだけ公開範囲を狭くして本人にダイレクトに届くような方法で対応しよう。伝えるポイントは「ご意見へのお礼」と「今後の参考にさせていただきたい」という2点である。

2)の「謝罪の必要性はあるか?」については、ユーザーに不利益を与えた事実が確認されたなら、「お詫び」「改善の意思表明」「投稿のお礼」に徹する。どんな事業でも、100%炎上が起きない保証はない。自社のミスだけでなく、取引先、外注先など、不可抗力なミスが原因になって炎上することもある。もし、炎上してしまったら、火に油を注がないことが鉄則だ。例えば、「放置」や「無関心」は油となり、炎上は大炎上へと発展してゆく。これは、ありがちなパターンだが、ひとたび、お詫びをする、という姿勢を決めたなら、お詫びの最後に「ただ・・・」などと、一切の言い訳、主張をしてはならない。その途端、またたくまに再炎上してしまう。速やかに改善をおこない、「その場のプライド」よりも「名誉挽回の次のチャンス」を与えてもらうことが重要だ。
少し前になるが、ソーシャルメディア上のある著名人がイベントを開催した際に、同様のミスを犯しているのを目にした。御本人の名誉のためにも記事へのリンクは割愛させていただくことを読者にはご了承いただきたいが、プライドが邪魔をしたのか、形式的なお詫びをしては、自分の名誉を維持しようと「ただ・・・」と言い訳を繰り返し、自らの正当性を主張することばかりに腐心していることは、誰の目にも明白であったろう。迷惑をかけた相手を思いやる気持ちが少しでも伝われば、こうした状況にもならなかったのではないだろうか。

3)「被害者になっていないか?」は、根拠のない「やじ」「非難」なら静観で問題ないが、第三者がその投稿を見た時に、実際の事実と誤認するような内容による個人攻撃、組織攻撃は、先に述べた通り「名誉棄損」「業務妨害」へと発展しかねないので、悪質性のレベルによっては専門家(弁護士、警察)への相談慎重に対処すべきである。日本弁護士連合会や、都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口などだ。
ほとんどのケースはここで鎮火するが、群集心理の果てには、事実無根の悪い風評で、ブランドやWeb担当者が貶められることもある。このような場合は、業務妨害、名誉棄損の可能性もあるので、素人判断をせずに、実害のないうちに弁護士や警察に相談するなどの対応をすることだ。

■社員を守り、顧客を守るルールづくり
一方で、自社へ不利益や攻撃をもたらすものが、内部の投稿によるものであるケースが増えているという現実もある。社員、職員、アルバイト従業員、退職者などだ。企業や店だけでなく、学校、自治体などには、所属する社員、職員がソーシャルネットワークを利用することでのリスクも存在する。ひいては顧客へのリスクも生み出しかねない。個人で気軽に社会への情報発信が可能となった現代における組織の危機管理として、ソーシャルネット利用のマナーや基本ルールの周知徹底は今後まずます重要になるだろう。
そこで社内向けの「ガイドライン」をもうけて、日々社員を教育してゆくことに取り組んでもらいたい。千葉市では、SNS黎明期から、職員のSNS利用における、マナーや倫理、ルールについてのガイドラインを公開しているが、非常に完成度が高く、参考になる。ぜひダウンロードいただき社内向けのガイドライン策定に役立てて欲しい。

「千葉市職員のソーシャルメディアの利用に関するガイドライン」
https://www.city.chiba.jp/somu/joho/kaikaku/s-guideline.html

■顧客との関係を維持するルールづくりも忘れずに
「社内」向けのガイドラインを設定し、教育を繰り返して行くと共に、「社外」向けのガイドラインも必要だ。これは、事業規模や取得している規格などにもよって異なると思うので、「コミュニティガイドライン」でネットを検索してほしい。様々な規模の企業が掲げるお手本となりそうなコミュニティガイドラインがずらりと並ぶだろう。

■ファン同士のもめ事には、毅然としたリーダーシップで誘導を
ある熟練の経営トップの持論に「社員旅行にマイクロバスが2台必要になったそのとき、社内に派閥が生まれる」という話があり、納得したことがある。
ネットに限らず、一定の人数が集まれば、全員がまったく同じ意見であるなどということはあり得ない。時としてそれは、派閥というグループに分かれる場合もある。ネット上でも、ファン同士の意見が対立し、両者の感情がヒートアップしている場合は、事業者がリーダーシップを発揮して方向性を指し示さなければ、建設的な議論にはならない。コメント欄にもかかわらず、チャットのようにリアルタイムでの応酬がされているような時は、上手に両者の熱を冷ますように、割って入る必要がある。そういう時は、公平な聞き役に徹して、双方の着地点となりそうな共通のビジョンを見出して提示すべきだ。
意見の対立はファン同士とは限らない。時には、自社のブランドコンセプトや管理人の投稿に、その矛先が向く場合もある。このような場合は、ファンからの批判的な意見を敵対視したり、必要以上に落ち込んだりせずに、まず冷静に受け止めよう。ただし、事業者としての対応が求められるため、担当者ひとりで判断せず、こうした場合に誰と誰に相談・確認をするか、あらかじめ社内で専用のチームを作っておく必要があるだろう。
どのような内容であっても、ポジティブに解釈し、貴重なアドバイスとして受け入れるだけの余裕と謙虚さを持つことは、ソーシャルメディアの前線担当として正しい態度である。自分(自社)に、非がある場合は甘んじて受け入れ、すぐに「改善」する柔軟な姿勢はソーシャルメディアならではのスピード感が要求される。また、こちらに改善点があった場合は「事実確認、改善の報告、今後の体制、継続したお付き合いのお願い」をコンパクトにまとめ、堅苦しすぎない文体でコメントを入れよう。重大な事項であれば、後日、公式サイトでも掲載が必要となるだろう。

・指摘・批判を受けた時の返信コメントの一例
『ご意見ありがとうございます。さっそくページの内容を修正し、いただいた貴重なアドバイスは社内でも共有させていただきました。これからの運営の参考とさせていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。』

・明らかに悪意のある投稿・ガイドラインに反する投稿があった場合
自社が管理するフェイスブックページへの投稿やコメントは、コメントの「×」印をクリックすることで「非表示」とすることができる。

こうすることで投稿した個人以外からはこの投稿は見えなくなる。その上で、「元に戻す」「削除」「スパム報告」「ブロック」などの対応が可能だが、個人的な見解としては、こうした行為は、最後の手段であり、極力、良い意見も悪い意見も残しておくべきではないかと考える。特に、事業者の過失やミスであれば、まずはしっかりと事実に向き合い、削除せずに「追加コメント」で対応すべきだろう。
また、対応なしに削除をして、過失責任を放棄しても、今度は自社では制御やコミュニケーションできない非公開グループなどのソーシャルメディアで、そのユーザが一人歩きしはじめることもある。
ただし、特定のファンに対する誹謗中傷や攻撃だったり、ファン全体に不利益が及ぶと思われるような場合は、いきなり削除せず、まずは「非表示」にして様子を見よう。このためにも先ほどの「コミュニティガイドライン」は重要だ。なお、このとき、非表示にするコメントに、「いいね!」やコメントがついている場合は、後々炎上の火種となることがあるので、注意が必要だ。それでもなお不適切な投稿やコメントが続くようであれば削除して、本人には「投稿は大変ありがたいのですが、今回の内容は運用ルールと異なるため削除させていただきました。」と、管理人から毅然とした、かつ、削除へのケアの気持ちも込めて個別メッセージを送る必要もあるだろう。

■ネット社会と共存する意識が最大の防災となる
炎上とは、インターネットのせいでも、ソーシャルネットのせいでもない。謙虚さに欠けたり、顧客対応の不慣れから、いざという時の対応を誤ってしまった事業者によって、とりかえしのつかないほどの大炎上に至ってしまうケースが多い。炎上は、システムが生むのではない。ヒューマンエラー、つまり、事業者自身の人的要因で発生するのだ。
だからこそ、積極的にファンとのコミュニティを持ち、ユーザー目線の交流環境に慣れ、どんな時も不用意な発言をしたり、誤った対応をしない経験を積んでいくことも必要だろう。
ソーシャルで自分たちだけが儲けよう、というスタンスでは無く、ファンのため、周囲のために、日々地道に事業に取り組んでいるという小さな積み重ねが、大きな炎上を引き起こさない強い体質をつくりあげてくれる。万一、理不尽に炎上した場合も、良き関係づくりをしてきたファンがいれば、運営サイドの味方となり、協力してくれるケースは、筆者自身も、何度となく感謝しきれないほどの経験をしてきた。日頃から、ファンの声に謙虚に耳を傾け、他のコミュニティの誹謗中傷をしないなど、「ソーシャルメディアとの共存」といった基本的なマナーこそが、炎上を回避する一番の対策なのではないだろうか。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 宮松 利博

得意分野/Eコマースの立ち上げ・販売拡大
株式会社ISSUN(イッスン)代表取締役。2000年より自社製品販売のECを立ち上げ、2006年に株式上場させる。同時に保有株を売却し、渡米などで海外のEC研究後、国内外でコンサルティングサービスを提供。


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