ECリニューアルの「あるある」
ECリニューアルの「あるある」
コロナ禍、本当に長引いていますね。この原稿を書いている2022年7月中旬、まさに第7波の急拡大により、感染者数はなんと過去最大(!)となってしまい、「行動制限」などという可能性も示唆されはじめています。コロナ禍以降、リテール企業などにおけるECシフト・デジタルシフトは急激に加速し、ECのお手伝いをしている私自身のところへも、リニューアルやリストラクチャリングの案件・ご相談が増えました。案件によって、システム構築や制作までまるっと対応したり、サービス設計・エクスペリエンス設計だったり、PMという立場であったりアドバイザリー的な立場であったりと、関わり方や深度は様々ですが、改めて「思うところ」と言いますか、「ECリニューアルの”あるある”」「こうしてはダメな気がする」という点をまとめてみたいと思います。
「替えれば良くなる」という思い込み
既存のECに限界を感じている企業さんなどで見受けられるケースで、現状のEC部門や現場の意見を聞かずに、ECをやったことのないメンバーなどで別のチームを作り、新EC/次期ECを構築しよう、新しい風を吹かせよう、とするケースがあります。同様に、ECベンダーさん(ECシステム)を替えることが大前提となっているケース。現状のベンダーさんとの関係に限界を感じていたり、ベンダーロックインな状態にあると考えていたり、いまのベンダーさんではやりたいことが実現できないと考えていて、それを解消することが目的で、リニューアルやリストラクチャリングを行う場合があります。狙いは分かるのですが、これらのケースは「のるかそるか」になってしまう場合もあり、「本当にそうなのか」「なぜそうなっているのか」について、他責ではなく自責で原因を突き詰めていかない限り、本質的に解決しないばかりか、スイッチングにあたって大きなリスクをはらんでしまうケースも少なくありません。「替えれば良くなる」という思い込みは危険です。つまるところ「経営やマネジメント側からの、EC担当部門への不信・不満」であったり、または「事業者側から、ベンダーさんへの不信・不満」が実際のところの要因であったりするわけですが、それは指示側や発注側としての企業文化や風土、コミュニケーションの質による部分も大きく(=それらの結果として現状そうなってしまっている)、外から見ていると「チームを新設しようがベンダーさんを替えようが、本質的には解決しない」ように見える場合も(中には)あったりします。こうした事態を避けるためにも、「正しい現状把握」は最も重要で、その点だけでもコンサルタントや有識者といった第三者に手伝ってもらったり、意見をもらったりするのは有効な手かもしれません。
管理画面のデモや同システムの事例を見ていない
大手の企業さんなどでたまに見受けられるのですが、ECシステムを選定する際、システム連携や個別機能のカスタマイズの可否はものすごく確認するのに、肝心の管理画面のデモはそれほど触っていなかったり、同システムを使って作られている事例(他社ECサイトなど)をびっくりするほど見ていない(検討していない)ケースがあります。また、情シス部門やデジタル管掌部門などECサイトを日々運用する現場でない部門がシステム選定を主導していたり、基幹システムなどとの連携可否やセキュリティの担保レベルを優先しすぎてしまうケースなどもあります。
「基本機能はどのECシステムもそこまでは違わないだろう、それよりも基幹システムとのシステム連携でDX推進を……」という考えなのかもしれないですが、「どういうECサイトになるのか/できるのか」「どういう運用になるのか/できるのか」の事前のイメージや想定が弱く、実際にECサイトを組み上げていくフェーズになって齟齬が発覚したり、追加の要件(費用・期間)が増えていくパターンに陥りがちです。もちろんそれをダメと言っているわけではありませんが、少なくとも「額面上の仕様を中心にECシステムを選ぶ」のはおすすめできません。管理画面のデモや同システムの事例をじっくりすぎるほど検討して、事前のイメージや想定をしっかり持ちましょう。「基幹や業務システムに合わせ、こういう複雑なシステム連携ができないといけない」そうした壮大なRFPをECベンダーさんに依頼しても、以前のように二つ返事で引き受けてもらえないケースも増えてきています。システム群の全容把握の困難さ、保守やアップデートにかかるコストやリスクの高さは、それを引き受けるECベンダーさんにとっても大きな負担・リスクであり、好ましい案件でなくなってきたという事情もあるように感じます。
まだまだある「あるある」
コロナ禍によって生活者・消費者の「オンラインへの偏重」が加速する中、リテール企業の活動も必然的にそれに対応しようとする(OMO対応、DX=デジタル・トランスフォーメーション)結果、改めて自分たちのサービスやブランドの強みを見直したり、デジタル起点でビジネスを再設計するのが一般的になってきたと言えます。EC=単なるネット上の一店舗ではなく、いまやブランディング・マーケティングや顧客体験に深く関わるファクターであり、リアル店舗などを含めた全体のサービス設計・ブランド設計の中でどのような役割をECが担うか、そうした観点でのECリニューアルやリストラクチャリングが非常に多くなりました。そうした「OMOプロジェクト」「DXプロジェクト」をお手伝いする中で感じる「あるある」は、例えば以下のケースですね。
①ECを全部盛りにしようとしすぎ
②基幹システム含めてまるっとリストラクチャリングしすぎ
①は、ECに色々な(EC以外の)要素を求めてしまうケースです。例えば、会員限定のコンテンツ、オンラインでのハイタッチな顧客接点機能、リアル店舗への送客機能、ブランド視点での認知拡大や集客やマーケティング、顧客同士でのコミュニティ機能……こうした機能の全部または多くを、ECサイトに集約してしまおうとする場合です。気持ちは分からなくもないのですが、本来的に、それはオウンドメディアであったり、スマホアプリであったり、SNSマーケティングであったり、場合によってはリアル店舗の役割であったりするわけです。ECサイトに集約されていることで、お客様がより活発に利用してくださるとか、お客様の満足度を飛躍的に高められるとか、明確な理由がない限りは無為な設計であると言えるでしょう。
②は、例えば「顧客システムやポイントシステムを新システムに切り替える」「POSや在庫システムを入れ替える」といったプロジェクトと同時にECシステムも替えてしまおうといったケースです。中期的な計画として説明がつけやすい、稟議が通しやすい、予算措置がしやすい、システム同士の連携部分の開発が安価に済む可能性があるなど、理由は色々あるのだと思いますが、それぞれが大きなプロジェクトであるうえトラブルが連鎖的に影響を与えかねず、普通に考えれば同時進行は避けるべきです。が、意外なほどこうしたケースは多く、大変な思いをしたことのあるEC担当者さんも少なくないのではないでしょうか。
……ここまで「ECリニューアルの”あるある”」を挙げてきましたが、まだまだある気がします。また機会があればまとめてみたいと思います。
JECCICA特別講師 唐笠 亮
株式会社パルコデジタルマーケティングのコンサルタント。数々の専門店・ショッピングセンター等を背景とした大規模ECの構築やシステム連携のプロジェクトマネージャーを務める。