CVR(購買率)の根底3 コンテンツと認識
改行していない長文の「電子メール」を「読みにくい」と思ったことはありませんか?
一方で、新聞や雑誌などの紙媒体の文字は改行していなくてもそれほど読みづらいことはないかと思います。
また、縦書きの文字に比べれば横書きの文字の方が改行していないと読みにくいと感じる人が多い様です。
なぜこの様なことが起きるのでしょうか。
もう少し事例を出しましょう。TV番組ではアナウンサーや芸能人が話している言葉を「わざわざ」テロップにとして「改めて文字にして」「表示」しているのをよく目にします。もちろんニュースなどは正確に視聴者に伝えるために、同音異義語などによる曖昧さや誤解を生む余地を減らすべくテロップを流すのは理解できます。
しかし街頭インタビューなど「だれでも分かるごく簡単で短い内容」で、かつ、訛りがきつい方言で話しているわけではないにも関わらず、やはりテロップが流れているのです。他国の多民族国家などでは文字と発音の乖離が大きいために共通語普及の一環としてTV放送にテロップを付けることを制度化しているケースもありますが、日本においては もうその必要はないと思います。一見すれば不必要に思われるTVのテロップですが多くの番組で使われているという現状から考えると、TV番組にはテロップが必要な「大きな理由」が隠れていそうです。
実は、「改行しないと読みにくい」と「テロップが必要」の件は【 同一の理由 】で発生している現象です。
文字は「読む」映像は「見る」という動詞を使いますが、まさに文字通りで文字を読んでいる時と映像を見ている時では「脳の使い方が異なる」のです。嚙み砕いて「読む」と言うことはあっても噛み砕いて「見る」とは言いません。もしも同様の意味合いの表現にするのであれば、じっくり「見る」という表現になるかと思いますが、「じっくり見る」はどちらかと言えば理解するというよりは観察するという意味合いの方が強いのではないでしょうか。観察している状態はまだ「きちんと理解する」という手前の段階と言えるかもしれません。
ものごとを論理的に理解する言語中枢(個人差はありますが、9割以上の人が左脳にあると言われています。)が働きやすい環境は「読むモード」の時なのですが、読者&視聴者が読むモード「=言語を理解しようとしている状態」になっていれば、改行されていない文字を読むのも苦になりませんしテロップも流す必要はないでしょう。一方、TVやモニターは「見る」ものであり「読む」ものではありません。
たぶんTVやパソコンのモニターを「見ている」時は、「まだ」言語中枢が優位な状態にはなっていないのではないでしょうか。
TVのテロップは、「見るモード」=文脈などまでをきちんと理解する状態になっていない視聴者に対して、文字の表示=文字を見ることによって言語を理解する状態になることを促すという役割がある様です。
映像を見ている時や音楽を聴いている時などは一般的に言う右脳(個人差があり、正しくは言語中枢が属さない方の脳=劣位半球)が優位に働いています。右脳が優位に働いている状態ではいわゆる感性系の判断が行われやすい状態であり、文章などよりもデザインや色彩などの「感覚的なコンテンツ」を優先して認識する状態になっています。
もう少しつけ加えれば「晴れ」よりも「☀」 「曇り」よりも「☁」のごとく絵やマークの方が文章よりもダイレクトに伝わる状態とも言えます。
読者の皆様に脳科学の話をするつもりはないのですが、笹本はEコマースの最重要課題の一つがここにあると思っています。
「サイトからの離脱」特に「直帰」という事象はCVRに大きな影響を与えることはご承知のとおりです。そしてCVRは、集客媒体の採算を決定づける=CVRが高ければ費用がかかる広告なども使える=集客規模ならびに売上と利益に直結する重要な要素です。直帰率の向上は売上と利益に直結する最重要課題ですが、経験則や制作者のセンスあるいは感覚というレベルから脱しておらず理論的な考察が充分にはおこなわれていないのが実情といえるでしょう。
直帰したユーザーを抽出してアクセスログなどのデータを見てみるとサイト滞在時間は「数秒」という直帰ユーザーも少なくありません。これらの瞬時の離脱ユーザーに対してはほとんど対策が行われていないと思うのですが、「瞬時」の離脱ユーザーが直帰ユーザー全体の中でかなりの割合を占めるのであれば。まずはここから考察を加えて対策を施す必要があると思います。
以下については仮説の域を出ず、また裏付けとなるデータを収集する手段を持たないのですが、
瞬時に離脱するユーザーのほとんどが「見るモード」つまり【 読んで きちんと理解する 】ということをせずに「感性系の判断」で離脱していると考えています。
画面サイズが小さく元々わずかなコンテンツしか表示していないスマホのユーザーや、学校の授業などでも慣れ親しんでいる若年層ユーザーについては必ずしもこの限りではないとは思いますが、主力購買層である成人のほとんどはTVやモニターあるいは手のひらサイズを超えるスマホの画面を眺める時には「見るモード」になっているのではないでしょうか。
瞬時、数秒で「判断した上で」離脱という行動を起こしているということから考えれば「読んではいない」ことは間違いなさそうです。また瞬時の判断の多くは、理解した上での判断ではありません。従って感性的な直観的な判断で離脱する以外には考えられないと思うのです。
つまり「見ているだけで読んでいない。」という言わば「超ウルトラ ナナメ読み状態」のユーザーに対して「効果的な訴求」ができない限り、直帰率の大幅な向上は見込めないとまで言えるかもしれません。
でもこれはEC運営者にとって「かなり強烈なお題」です。サイトコンセプトや商品ラインアップ、あるいは中心価格帯や信頼度などのECサイトの根底に関わる様々な訴求項目を、瞬時に、直観的に、伝える必要があるのです。文章に頼らずにです。ちなみにユーザーの視線の移動を追ったZ理論などは「インタレスト」=見る価値があるサイトという判断を頂いたあとの話ですので、瞬時の感性系の判断に対しては通用しません。ではどうしたら良いでしょうか。
視覚での認識には順番があります。「色、形、記号マーク(但し既知の意味合いであること)絵や写真、図、数字、文字、文章」の順に速く認識されるのですが、一般的に言う左脳(理論脳)の働きが必要になればなるほど認識のスピードは遅くなり、人によっては左脳の働きが必要になることを面倒と感じることさえあります。例えば道路標識に「八時から二十時の間十屯車以上通行禁止休日を除く」と書いてあったとしたらいかがでしょうか。認識のスピードには大きな差があることをご理解頂けるかと思います。
瞬時の離脱ユーザーに対する施策としては、まず「色と形」=デザイン&レイアウトは非常に大きな意味合いを持ちます。色のバランスは多くのECサイトが気を遣っているところですが、形についてはどうでしょうか。バナーの角に丸みだけでも、その丸みの度合によって「直観的な印象」は異なってくるのです。少し付け加えると「文字フォントからの全体的な印象」は「形」の仲間になります。明朝体ならば格式高い/丸ゴシックならば親しみのある のごとく、サイトの雰囲気を左右する重要な要素になります。従ってバナーやフォントなどにもかなり神経を使う必要があるでしょう。
レイアウトについても、すっきりとして見やすい方が良いとは限りません。例えば様々なコンテンツがごちゃごちゃしているレイアウトは、高級感はありませんが「商品ラインアップが豊富」という様な印象があり、同時に親しみやすいという様なイメージも伝えることができます。
ここで念のため申し上げておきますが、
「実際にどれだけの“ex.商品ラインアップ”があるかどうか」の判断は「理論脳」の仕事であって、感性系の瞬時の判断にて「詳しく見る価値があるサイト」という評価がされたあとの話であることをお忘れなく。実際には豊富な商品ラインアップを持っていても、豊富という【 印象 】が伝わらないと瞬時に離脱するのです。
“商品ライアンアップ”を“お得感”や“専門性”あるいは“安心感”や “相談のしやすさ”などの訴求する必要がある項目に置き換えて考えてみてください。
「見るモード」=超ウルトラナナメ読み(←カタカナが続くと読みにくいですよね。前述ではスペースを空けています。比べてみて下さい。)状態のユーザーからインタレストを獲得するためには、色と形からの「全体的な印象」を最優先課題として、その次に「文字よりも画像」「文字よりも数字」(ex.豊富な品揃え⇒1000点以上の品揃え)「数字よりも図(グラフなど)」(ex.93%のお客様が満足しています⇒円グラフ)と覚えて頂ければと思います。
しかしながら文字を使わずにサイトを構成することは大変難しく、これができるのは天才レベルのデザイナーだけでしょう。実は文字の中でも認識のスピードには大きな差があり「みやすいいちにおかれただれでもかんたんにりかいできるかんじじゅくご」だけは記号や絵と同じレベルのスピードで認識されると言われています。但しあくまで「熟語」であって、送り仮名や文末の肯定/否定(である/でない)などが加わった時点で文章となり、見るモードの状態ではあまり認識されていないと考えた方が良いでしょう。認識のスピードが一番遅いのは、たった今体験して頂いた通りひらがな カタカナの連続です。
ちなみにメニューに多用されているex.シャツ/スカート/コート/ソックス・・・ですが、これは改行されていても「見るモード」の状態では、カタカナの連続に過ぎない様です。でも漢字で書くわけにもいきません。どうすれば・・・ たとえば 晴れ⇒晴れ☀ こんな感じでしょうか。
もっともっともっと少しでも分かりやすく CVRの根底はやはりこれですねっ。
JECCICA客員講師 笹本 克
全国各地で有名ネットショップを輩出。 自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務める。 DeNA社やYahoo!Japanショッピング事業部スタッフへのレクチャーや、ドリームゲートの起業講座の他、上場企業から中小企業までコンサルサイトの累計は約600社、多岐にわたる業種でのコンサルティング実績も豊富。