JECCICA ジャパンEコマースコンサルタント協会

JECCICA ジャパンEコマースコンサルタント協会

最新セミナー・イベント情報
お申込みはこちら

失敗しないCRMツール選定と活用のポイント その2

前回はCRMツール導入と運用を成功させるポイントということで「自社の状況」という観点でまとめましたが、引き続き今回のコラムでは「システムの機能」観点で解説します。

EC通販の事業規模を拡大していくためには新規集客だけでなく同時にリピート対策も重要です。CRMツールの導入を検討している方はぜひ本記事の内容を参考に、自社に最適なCRMツールの選定にお役立てください。

■EC通販に特化したシステムか
ECに特化したCRMツールを選ぶと、余分な設定工数が削減でき、運用負荷も軽減されます。他のジャンルにも対応したCRMシステムの場合、汎用性が高い反面、データの加工やセグメント作成、配信予約などの設定に多くの工数がかかったり、ECならではのセグメント抽出や分析が出来ない場合があるため注意が必要です。

【失敗例1】 やりたい施策ができない / 想定外の工数がかかる
CRMシステムにはもともとBtoB営業向けのシステム(SFA)からスタートしたものなど、EC向けではないシステムが意外に多く存在します。その場合EC向けの施策が仕様上実現できず、せっかくシステム導入したのに当初予定していた施策ができなかった、という失敗につながってしまいます。

例えば定期継続中の顧客に対し3回目の出荷から2日後に、次回お届け時のプレゼント特典を案内する、といった施策を行いたい場合に、そういったターゲット抽出が仕様的にできない、もしくは実現するにはデータ加工で多大な工数がかかるなどの失敗が起きやすいです。

【失敗例2】システムベンダー側の知見が少ない
EC通販に特化したシステムではない場合、システム環境は整っても肝心の成果を出す施策を実行できないケースが多く見られます。
EC通販に特化している場合は、様々な業種での課題に直面し対応しているため豊富な知見をもとに自社の課題を解決できる可能性が高くなります。

■迅速な分析と施策実行ができるか
高機能なシステムになるほど、運用工数が膨大になるケースが多いので注意が必要です。少ない工数でやるべき事を実現できるかは重要なポイントです。例えばセグメント抽出として目的のターゲットに絞った施策を実施する場合、スムーズに設定が可能でしょうか。

またそこで設定したターゲットに対し特定の条件で自動メッセージを配信することは迅速にできるでしょうか。
さらには配信結果や顧客の状況をすぐに見られるでしょうか。こういった部分は使い勝手に問題がないか事前にデモ画面で確認しておく必要があります。

【失敗例1】 何でも出来る=何もできない
高機能を売りにしているシステムは、運用工数が膨大になりがちです。設定の自由度が高いということは設定項目が多くなったり設定が複雑になるため工数がかかるうえに操作方法の習得に時間がかかってしまいます。

結局、何でもできる=何もできない ということになりがちです。高機能なシステムを活用するにはそれなりの高度なノウハウと運用体制(専任の責任者と複数の作業者)が必要になります。

EC通販のCRMにこういった体制を構築できるケースは大規模な企業でも非常にまれです。そのため高額なシステム費用に加えコンサルタントを入れたり運用代行を利用するケースが見られますが、費用対効果があわなかったりクイックなPDCAを回すことが難しいケースも多く見られます。

【失敗例2】インパクトの小さい施策に工数をかけ過ぎてしまう
CRMはインパクトの大小に関わらずターゲット抽出から原稿の設定、自動配信の設定など細かい雑多な業務が無数に存在します。知識がある方が意外に陥りがちなのが、工数をかけることが当たり前になってしまうと気づかぬうちに成果に見合わない工数をかけてしまい非効率になりがちなので注意が必要です。

■拡張性はあるか
事業規模の拡大を見込んでいる場合、その拡大にあわせたCRMシステムの拡張性も重視すべきポイントです。例えば最初はメールマーケティングに関わるMA機能や分析機能だけでスモールスタートし、事業規模の拡大にともなってLINE連携やレコメンドなどの機能の利用を考えている、といった場合に対応が可能でしょうか。

またその際に自社でそういった機能を用意しているのか、それとも他社サービスとの連携が必要なのかもチェックすべきポイントです。他社サービスの連携が必要な場合、システムの運用工数が増えたり維持費用が高額になりがちなので、自社サービスでオールインワン対応もできつつ他社サービスとの連携選択肢もあるシステムが理想です。

【失敗例1】 最初から盛りだくさんの機能を実装して使い切れない
CRMシステム導入の際にあれもやりたい、これもやりたいと夢ばかり膨らんでしまい、いろいろな事ができる多機能なシステムを導入したが、結局それを活用しきるだけのノウハウや運用のための時間を確保できず、大半の機能が使われないままになってしまうケースです。システム導入時にしっかりと目的と具体策、優先順位を明確にしていれば防げる失敗です。

【失敗例2】
安価で手軽なツールを導入したが結局たいした施策ができない
高機能なシステムは初期導入費用が高額なので、結局妥協して安価で拡張性の無いツールを選択してしまうケースです。システム導入したはいいものの価格だけで選んでしまった結果、セグメント条件や施策の自動化で制約が多く、仕様的に大した施策ができず目立った成果を出せません。

このような場合は早々にシステムの乗り換えになってしまう場合が多いです。こちらも事前に目的と具体策、優先順位を明確にできていれば防げる失敗です。

■社内の誰でもすぐ使えるか(属人化しないか)
CRMの運用業務は複雑なためどうしても属人化しがちです。その場合はその担当者に何かあった場合誰もシステムを触れない、という問題になってしまいますので、高機能であっても誰もが使えるシンプルなUIになっている、分かりやすいマニュアルが用意されている、必要に応じて操作説明会にも対応してもらえるシステムベンダーであることが重要です。

【失敗例1】 電話帳のような分厚いマニュアルを渡され途方にくれる
デモ画面も確認しその時は直感的に操作できると思ったものの、いざ多機能なCRMツールを導入した後に電話帳のように分厚いマニュアルを渡され途方にくれてしまう、サポート窓口はあるものの何が分からないかも分からない状態、事前に必要な機能を洗い出せていないとどの機能から使えばよいのか整理ができず結局多機能なツールを導入しても使いこなせないという結果になってしまいます。

【失敗例2】 操作を習得するのに数ヶ月単位の時間がかかる
しっかりとしたサポート体制ということで導入を決めたが、高機能過ぎてとにかくツールを習得するのに時間がかかり過ぎるため、サポートがしっかりしていても自社の担当者の時間を避けない、仮にその担当者が習得できたとしてもその担当者に何かあった場合に他の人間で全く対応ができないという問題が生じます。

社内での運用が難しいため高い費用を払って運用を外部委託することになります。これを避けるには自社で運用しきれないツールを導入しないよう注意が必要です。

【失敗例3】CRM担当者が退職してツールを使える人がいない
こちらも非常によくある失敗例で、ツール乗り換えの理由を聞くと導入時の担当者が退職してしまい社内に使い方の分かる人間がいない、成果がでているかもどう活用すればよいかも分からないためツールを見直したい、といったご相談をされるケースです。

特定の人しか使えないツールは事業にとってリスクとなるため、ノーコードでやりたいことがすぐ出来るなど属人化を防ぐ観点も重要です。

■カスタマイズが不要か
現行業務が必ずしも正しいとは限りません。システム導入は自社の業務はどうあるべきかを考えるよいきっかけになります。業界に特化したシステムは業界標準の機能を備えているため、導入システムの機能にあわせて業務を標準化させるチャンスです。

カスタマイズが必要になるということは要求が業界標準でないことを意味します。自社流の業務は時の経過とともにその現場に個別最適化され複雑化しがちです。

そのため現在はそれが最適でも全社的には非効率となり余計なコストとなる場合があります。最初は反発があるかも知れませんが業務はシンプルになり業務改善につながるケースもあります。

【失敗例1】 現状の業務をそのまま出来るシステムを探す
自社の複雑な業務をそのまま行えるシステムを探しても、完全に同じことをできるシステムは存在しません。結果として社内で話がまとまらずシステム導入を決断できなくなり他社に後れを取ることになってしまいます。これを避けるには現在の業務が本当に必要なものなのかをしっかりと判断し現場視点だけでなく全体視点で俯瞰して整理する必要があります。

【失敗例2】 現状の業務にあわせ膨大なカスタマイズする
こちらもよくある間違いで現状の業務をそのまま行えるように膨大なカスタマイズする前提で導入を進めてしまうケースです。

導入企業とシステムベンダーの間にコンサルとして中立的な立場で入る存在がないとベンダー側は導入企業側の要求どおりカスタマイズしてしまうため業務改善されないままシステムが導入されてしまいます。

結果として時間と費用ばかりかかり非効率な業務が改善されないだけでなく、システムも使いにくいものになってしまいます。

これを防ぐにはカスタマイズが必要と判明した場合に、本当にその機能は必要なのかをよく考える必要があります。

■評価指標は明確か
CRMシステムの目的を決める際にあわせ、その成否を評価するための指標(KGIとKPI)を決めておくことと、その指標をいつでも迅速に確認できるシステムになっているかが重要です。

※KGI(Key Goal Indicator) 重要目標達成指標。ビジネスの最終目標を定量的に評価できる指標。
※KPI(Key Performance Indicator) 重要業績評価指標。KGIを達成するための各プロセスが適切に実施されているかどうか定量的に評価するための指標。

【失敗例1】 KPI設計ができていない
システム導入の段階でざっくりとでも構わないので例えばLTVを上げたい、そのために新規購入からのリピート率や年間利用回数を増やしたいなどと指標を考えておく必要があります。それ無しでシステム導入してしまうと導入後に実はその数字はシステムの仕様で出せない、などという失敗につながります。

【失敗例2】 KGI/KPI設定を間違えている
例えばリピート率といった指標をKGIに設定してしまうと、いくら改善したところでそれだけではLTVやリピート注文の最大化につながらなかったり、特定の流入経路や商品での新規顧客が一時的に増えた影響でリピート率が下がったが、リピーターUUやリピート売上の規模事態は拡大している、といった状況が起こりえます。CRMツールの導入を正しく評価するためには適切なKGI/KPI設計が必要です。

■費用対効果はあうか
あれもこれも機能をつけて多機能を売りにしているツールは、使わない機能も多いため 結局のところコスト増になっているケースが見られます。

例えばメール配信以外にもWEB接客やLINE連携など多彩なチャネルでの配信ができ、分析も細かくできるBIツールのような機能が実装されている、といった場合、すでに自社に分析基盤がある場合、BI機能は不要ですし、WEB接客機能があっても実際には自社で運用する工数を確保できなかったりします。

【失敗例1】 機能盛りだくさんのツールを導入したが使いこなせない
ECのCRM担当者が1日に行う業務は多く、優先順位の低い施策や機能は結局使用されずに終わります。
あれもこれもと多機能なツールを選びたい気持ちはわかりますが、一旦立ち止まり、 自社にとって今必要な機能、今後必要になりそうな機能をしっかりと切り分ける必要があります。

今必要なものだけを取り入れ、かつEC事業の成長ステージにあわせ将来的な拡張性があるCRMツールを選びましょう。

【失敗例2】 カスタマイズを入れすぎて初期費用が膨大になる
これはカスタマイズの箇所でもありましたが、現状行っている分析、業務なども同じように対応できるようカスタマイズを入れたり、無くてもよいがあったらよい機能を追加していった結果、初期費用が膨大になり結局導入を決断できない失敗です。

現状のビジネス規模とCRMシステムでの期待効果からこの程度まで費用をかけられる、と予算を明確にしたうえで、費用対効果のあう範囲で最低限必要な機能に絞ってスタートすることでこの失敗を避けられます。

まとめ
CRMツールベンダーは各社、いろいろな事ができる、簡単にできる、といった訴求をされますが、EC事業者の立場からは結局どのシステムが自社にとって最善なのかが分かりにくいのが現状です。

EC事業の生き残りのためにCRMの重要性がますます高まっているなか、うまくCRMシステムを活用してリピーターを戦略的に増やし、EC事業を拡大していけるよう、 CRMツールの機能面だけではなく、現状の自社の体制や知見もふまえたうえで、「自社にとって必要な戦略と施策を実現できるか」という観点でCRMシステムを選んでいただければと思います。

また、EC通販のCRMには過去の先人が試行錯誤して作り上げたいわゆる「正解」がすでに存在します。

自社で試行錯誤してその正解を模索するには膨大な時間とコストが必要になるため、それよりもぜひその最新の正解をすでに持っている会社をパートナーとして最短でEC事業の成長を実現していただければと思います。

JECCICA客員講師 中村 隆嗣

株式会社ファブリカコミュニケーションズ
アクションリンク プロダクト責任者
2003年に北国からの贈り物へ入社。本店/楽天/Yahoo!/Amazon/ぐるなびなど全店のマーケティング戦略責任者として数々の賞を受賞。2014年株式会社メディックスに入社し、年商2500億規模の大手製薬会社や外資系アパレルブランドなど、メーカー直販ECの事業コンサルティングを手がける。コンサルティング先で多く見られたCRMの課題を解決すべく2018年にアクションリンクを立ち上げ、2023年ファブリカコミュニケーションズにジョイン。現在に至る。


 - JECCICA記事, お知らせ, その他, コラム, ニュース

JECCICA ジャパンEコマースコンサルタント協会

Copyright© JECCICA ジャパンEコマースコンサルタント協会 , 2025 All Rights Reserved.s