数年前まで新型iphoneの発売日には、ショップの前に行列ができるというニュースが風物詩のように流れていたと思うのですが、あれはどこに行ったのでしょうね。あの頃は、新型が出るたびに買い替えることができるような価格帯だったからでしょうか。いまや軽くサラリーマンの月給と同じくらいになり、おいそれと買えなくなってしまいました。
それに比べて薄型テレビはここ20年で一気に価格が下がりました。しかしそれ以外の家電・パソコンなどは20年前とほぼ変わらず、ここ数年でじりじり上がっているという状況であるのは皆様もご存じだと思います。
しかしながら平成時代を謳歌した人間は基本的にみな「数年もしたら型落ち品として安く出回る」「1年後には、同じ金額か、それ以下でもっといい性能のものが買える」という基本的概念があるのではないでしょうか。いわゆる『ムーアの法則』というアレです。
今回のコラムでは、久しぶりにこの法則の論理と現在の技術開発がどこまで来ているのかを真面目に考えてみたいと思います。
ムーアの法則が意味すること
『ムーアの法則』は、インテル創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が、1965年に唱えた「半導体の集積率は18か月で2倍になる」という半導体業界の経験則に基づく法則で、かなり省略して説明すると、同じ面積の半導体ウェハー上に作れるトランジスタ(半導体の最小単位)の数が18ヶ月(1年半)ごとに2倍になるという内容です。つまり1年半後には2倍の能力のものを作りなしえるぞ、というような感じです。
また能力が2倍というだけでなく、「高性能化する → 同じ性能なら小型・低消費電力・低コストになる」という常識も半導体産業の成長サイクルを支えてきたと言えます。
この法則が半導体のみならず色々な技術革新にも応用され、家電製品・PC・精密機器なども「少し待てばもっと良い製品が出る」=「少し待てば今の製品は型落ち品として安くなる」という認識につながっていたと思われます。
なぜ製品価格は下がらないのか
しかし、、、いまやそんな時代ではありません。スマホはどんどん高額になり、この業界でいえばサーバーやネットワーク機器は高騰し、入荷すらままならない状態です。
実際に3年前80万円だったサーバーを再度買おうとしてベンダーに見積もりを取ったところ、300万円以上の見積金額がそこにはあり、しかも「いつ納品できるかわからないし、納品時にはもっと高くなってるかもしれないけど、ゴネずに払うと約束するなら売るよ」という悪魔のようなチェックボックスが発注書に設けられていました。
そんな青天井な発注がだせるか!と思うんですが、発注しないわけにいかないので、泣く泣く発注するしかないというのが、今のITインフラ業界の悲しいところだと思います。
ということは『ムーアの法則』は崩壊した、ということなのでしょうか?SNSなどでそういう書き込みをしている人も少なくなく、ベンダーからの見積もりを見た私ですらそう思ってしまいます。
しかし、現在の状況は『ムーアの法則』が崩壊したこととはイコールではなく、従来型の『ムーアの法則』だけでは半導体の進歩を説明できなくなったというのが近いです。
半導体の微細化と技術革新
もし株の運用にも興味があれば、いやでも半導体銘柄に興味を持たずにいられないと思います。とくに半導体をつくる製作者(ファウンドリ)として、台湾のTSMC、韓国のサムスン、日本もラピダスよ頑張れ!というメンバーが揃っていますが、彼らが技術革新を進めた結果、過去に考えられないレベルの製品を本当に作り出すことに成功してきたことが、従来型の法則では考えられない状況を呼んでいると考えます。
半導体の進歩を示すときはトランジスタの小ささが一番評価されるわけですが、以前はマイクロメートルを単位として計測されてました。それがどんどん法則どおり小型化が進み、2000年以降はナノを単位として計測するように。そしてついにウエハーの平面上に乗せられる限界を迎え、立体構造化した結果、2018年以降はもう実際のサイズ計測だけではなく、どれだけ高性能であるかの評価も含めて「〇ナノ(nm)」と世代を分けて呼ぶようになりました。
2018年以降に進化してきた半導体の各世代を表にまとめましたが、技術的な特徴として、なんだかとても難しい技術が盛り込まれるようになっているのが分かると思います。
■各世代の概要とステータス(2026年現在)
| 世代 | 主な実用・量産時期 | 技術的な特徴・トピック | 主な採用例 |
|---|---|---|---|
| 7nm | 2018年〜 | EUV(極紫外光)露光装置が導入され始めた世代。 | iPhone 11、PS5など |
| 5nm | 2020年〜 | 従来のFinFET構造の事実上の完成形。高密度化が加速。 | iPhone 12〜14、M1/M2チップ |
| 3nm | 2023年〜 | 新構造GAA(Gate-All-Around)への移行期。現在最先端の量産品。 | iPhone 15 Pro/16、M3/M4、AI半導体 |
| 2nm | 2025年〜2027年 | 完全GAAへ移行。日本のRapidus(ラピダス)が量産を目指す主戦場。 | 次世代AIチップ、未来のスマホ |
これだけ見れば、今ここにある製品は来年には安くなっている、という結果につながりそうなのですが、実際がそうではない理由はどこにあるのか。それがこの技術的特徴になります。
2000年以降もしばらく半導体開発に求められるのは「小型化」とそれによる「省エネ」が主でした。ずっとこの路線で進んでいければ、ずっと『ムーアの法則』が進んでいたかもしれません。
しかしながら、2010年前後から「配線」「発熱」「漏れ電流」「歩留まり」「独自技術」などの問題をクリアする高度な設計技術をもつ企業がでてきて、またその設計を実現する企業も出てきて、、、と、この法則だけでは解き明かせないところに来たと考えます。
とはいえ、最新の技術により半導体が小型化して、小型化することによる問題もクリアできたのであれば、価格は下がると思われるのですがそうはいかないのが現在の問題です。これは『ムーアの法則』とは異なるはずなのですが、まったく関係ないわけでもないようです。
この最新の技術が『ムーアの法則』を実現させない状況を作っている理由については次号で詳しく解説したい思います。