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Apple Vision ProはECの体験を変えるのか

没入型ショッピング体験の今後の傾向
こんにちは、村石怜菜です。私たちがスマートフォンやパソコンに依存する生活を送る中で、物理的な世界とデジタルな世界がますます交差するようになっています。特に、Apple Vision Proはまったく新しい次元の体験を生み出しました。今回は、このApple Vision ProがEC業界にもたらす革新について考察してみたいと思います。

Apple Vision Proとは
ご存知の方も多いと思いますが、Apple Vision Proは、Appleが発表した空間コンピューティングを実現する先進的なデバイスです。8Kの高解像度ディスプレイと空間オーディオ技術を搭載し、リアルで没入感のある体験を提供します。内蔵のカメラやセンサーにより、現実世界と仮想世界をシームレスに融合させ、手の動きや視線、音声で直感的に操作が可能です。Apple Vision Proは2023年6月のWWDC23で発表され、日本では6月28日に発売開始されました。価格は256GBモデルが59万9800円と高額な設定も話題になりました。私は購入していないものの、Apple Vision Proを体験する機会があったので、その体験についても触れていきます。

Apple Vision Proは、ただのハードウェア以上の意味を持ちます。それは、未来のコンピューティング体験を予見させるデバイスであり、単なる拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の枠を超えた「空間コンピューティング」の新しいスタンダードを確立するものです。これにより、私たちのデジタル体験がどのように変わるのか、その可能性は無限大です。

XRという概念が市民権を獲得し始めている
AR、VRというと少し前まではガジェット好きやエンターテインメント好きという特定のセグメントのユーザーが利用しているというイメージが強かった領域でした。しかし、Apple Vision Proの登場は、XR(Extended Reality)という概念を大きく変化させたのではないでしょうか。IT業界に従事する人々やガジェット好き、エンターテインメント好きのユーザーが大きな関心を持ったことは明白ですが、それ以外の層もニュースなどでXRの存在を認識するようになりました。

XRとは、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、混合現実(MR)を総称し、現実世界とデジタル世界を融合させる技術のことです。これまでXRは主にエンターテインメントや医療、技術研修など特定の領域で利用されるイメージが強かったように感じますが、Apple Vision Proが登場することで、XRが日常生活でスマートフォンと同様に利用できるというイメージが広がり始めました。

Appleは、XRという言葉ではなく敢えて「空間コンピューティング(Spatial Computing)」という言葉を意識的に使用しています。これは、XRに対する既存イメージの脱却と、より包括的で革新的な体験を提供するための戦略です。空間コンピューティングという概念は、私たちのデジタル体験が物理的な空間とどのように融合し、より自然で直感的なものになるかを示唆しています。

圧倒的な映像美と学習コストが低いユーザーインターフェース
Apple Vision Proの使用感は非常に先進的で感動的です。まず、画像の美しさには圧倒されます。これまでのVRデバイスでは体験しきれなかった「没入感」を実感でき、VR酔いの心配がないため、長時間の使用でも快適に楽しめます。これは、ディスプレイ技術の進化だけでなく、視線追跡技術や環境光センサーの精度向上が寄与していると考えられます。この快適な体験の背景には、ユーザーごとの緻密なセットアップが大きく寄与しています。Apple Vision Proのセットアップでは、ユーザーの手の位置や視線を正確に合わせる必要があります。この精密な調整が、操作の精度を高め、シームレスでストレスフリーな体験を実現しています。セットアップの過程が簡便で直感的であるため、デジタルネイティブ世代だけでなく、年代が上の世代でも短時間で習得可能です。

インターフェースの操作は、指によるジェスチャー、視線によるカーソル操作、そして音声入力の3つの方法があります。ジェスチャーにはタップ、タッチ、ピンチして押さえたままにする、ピンチしてドラッグ、スワイプなどがあり、これらは直感的に操作できます。また、視線によるカーソル操作も非常に精度が高く、デジタルオブジェクトとのインタラクションが自然です。音声入力もサポートされており、手や視線を使わずに操作できる点が便利です。

さらに、Apple Vision Proの使いやすくわかりやすいインターフェースと軽量化が進めば、将来的には現在のスマートフォンと同様に日常的に使われるデバイスになるでしょう。これにより、デジタル体験のスタンダードが変わり、新しい形のデジタルインタラクションが広まることが期待されます。

Apple Vision ProがEC業界に与えるインパクトとは
Apple Vision Proの登場により、EC業界だけでなく多くの業界、ひいては人々の生活様式に変革を与えると言われています。「重い」「バッテリーが持続しない」「装着したまま外出できない」「アプリが少ない」など様々な意見が飛び交い、まさに初代iPhoneの販売当初と同じような状況なのではないでしょうか。私は現時点では、Apple Vision Proはイノベーターやアーリーアダプターが利用している段階であり、この数年以内にキャズムを超え、スマートフォンと同様のマジョリティになるのは難しいと考えています。しかし、海外ではApple Vision Proを活用した新しい購買体験が急速に進化しており、EC業界の未来に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。

これまでのECサイトは、画面上で製品を選び、購入するだけの2次元的な体験が主流でした。しかし、Apple Vision Proは「空間コンピューティング」という新しい概念を持ち込み、EC体験を3次元空間にまで広げました。これにより、ユーザーはより直感的で没入感のある購買体験を享受できるようになります。

没入型ショッピングの実現
Apple Vision Proを通じて、消費者は製品を2次元ではなく、3次元で操作し、現実世界に重ね合わせて確認することができるようになります。例えば、家具を自宅に仮想的に配置してみたり、衣類をバーチャルで試着したりすることが可能です。この新しい体験により、消費者は購入前に製品のフィット感やデザインを実際に体験できるため、従来のECサイトでは得られなかった安心感と満足感を提供します。

EC業界における先進事例
ここでは、EC業界におけるApple Vision Proの先進的な事例をいくつか紹介します。

◼️IKEAの仮想家具配置
まず一つ目は、IKEAの仮想家具配置機能です。IKEAはApple Vision Proを活用し、顧客が自宅に家具を仮想的に配置して、その外観やサイズを確認できるサービスを提供しています。これにより、購入前に製品を実際の空間で確認できるため、顧客の安心感が増しますIKEAは以前からARを使った家具配置のシミュレーションができる「KEA Kreativ(イケア クリエイティブ)」というサービスを提供していましたが、Apple Vision Proでの体験はよりリアルなシミュレーションが可能です。

Apple Vision Proは装着者の環境光をセンサーで感知し、デバイス上のスクリーンにもその環境光を反映させることができるため、家具が浮いて見えることがなく、従来のARシミュレーターよりも再現性が高く、リアリティのあるシミュレーションが実現します。

◼️J.Crewの「J.Crew Virtual Closet」
次に、アパレル業界では、J.Crew(J.クルー)が「J.Crew Virtual Closet」というApple Vision Pro向けに開発したアプリが注目されています。このアプリでは、ECサイトの右側にマネキンが表示され、選択した商品を着せ替えることができます。気に入った商品はお気に入りに追加したり、そのままApple Payでスムーズに購入することができます。また、SharePlay機能を使って友人や家族と一緒にショッピングを楽しんだり、自宅のリビングでくつろぎながらJ.Crewのパーソナルスタイリストとコミュニケーションを取ることが可能です。このような体験は、Apple Vision Proの没入感を最大限に活かした例と言えるでしょう。

現時点では、マネキンのカスタマイズ機能が不足しているというフィードバックもあり、将来的にはよりパーソナライズされた体験が期待されます。顔写真や体型といったパーソナルな情報をどこまでアプリで活用できるかは確認が必要ですが、Apple Vision Proの没入感が高いデバイス内でユーザーが求める体験を理解することが、今後の体験設計の鍵となるでしょう。

未来のECと空間コンピューティング
Apple Vision Proの普及により、EC業界は物理的な世界とデジタル世界が融合する新しい時代へと突入します。スマートフォンの画面だけでなく、現実空間そのものがショッピングの舞台となる未来が見えてきます。この変革により、私たちの消費行動やマーケティング戦略も、空間コンピューティングを取り入れた新しい方向へと進化するでしょう。

今後のECサイトでは、ただの情報提供にとどまらず、ユーザーに対して没入感のあるパーソナライズされた体験を提供することが求められます。Apple Vision Proが生み出す未来に注目し、その進化を見守りながら、新しいユーザーの購買体験を常に探求していきましょう。

muraishi

JECCICA客員講師 村石怜菜

株式会社パルコ・シティ シニア・コンサルタント。

日本女子大学被服学科卒。大手専門店企業で接客販売・店舗運営を経験した後、Eコマース支援企業で数々のファッションブランドのECサイトの構築や運用に携わる。現在は、ファッション専門店や商業施設へのECコンサルティングを得意としている。また、クライアント企業のオムニチャネル戦略の計画・実行を支えている。


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