急がば回れ!ネット攻略の答えはリアルにあり
リアルを経験してこそ活きるネット通販の今
ネット通販で売り上げを伸ばそうと思ったら、リアルの店舗で経験するのが早いのかもしれません。
テクノロジーの進化ばかりを追うと、その機能に依存して、頭打ちがきます。テクノロジーの進化に合わせて、人間がどう進化できるか。人間にしかできないことは、経験とそこに対してのアイデアを具現化して、体験を蓄積できることにあります。
先日、僕は蝶結びというECサイトの店長 杉下峻吾さんに話を聞く機会があって、痛感したのです。「ECサイトであってECサイトではない」と。
ECサイトであってECサイトではない?
もともと杉下さんは百貨店で働いていました。進物用のフルーツを販売するお店を運営する会社で、役員を務めていたのです。ただ、その会社は残念ながらコロナ禍などの問題から廃業となり、独立して立ち上げたのが「蝶結び」です。
当時の取引先を「蝶結び」に引き継いだものの、うまくはいきませんでした。例えば、写真を撮ってギフトセットを掲載しても、季節ものなので商品が次々なくなります。気がつけば写真の商品の在庫がない状態となって、大して売れないうちに掲載ができなくなってしまう始末。最初は悩んだそうです。
しかし、ある時、彼は気づくのです。実は、百貨店と変わらないのではないかと。自分たちのお店に興味を持つお客様の多くは、別に「○×産のメロンをください」という内容ではありません。
では何かというと、「友達が入院したから、それに相応しいものを」という具合なのです。百貨店のようなきめ細やかな接客ができる手段は何か。そこで着想したのが、チャットでした。
チャットで水を得た魚のように
早速、チャネルトークというチャットサービスを導入しました。徹底的に議論したのは「いかにチャットを使ってもらえるようにしていくか」。チャットはFAQなどに使うので、いかに使われないようにするのかを考えるのが普通。つまり、蝶結びは、チャットの使い道としては通常と逆のスタイルを取ったのです。
しかし、これが奏功しました。チャットを使ってもらうために、ポップアップで表示される言葉を工夫しました。「なんでもご相談ください」など漠然とした問いではダメだということ。それよりは会話につながる一言目はなんだろうと。
だから、「夏のフルーツギフト選びに悩んでいませんか?」という具合に、質問を絞り込みました。すると、チャットで問いかけてくれるそうです。あとは、流れるように、百貨店のトークが活かされます。例えば、お客様がギフトに1万円の予算を使いたいと考えているとしたら、どんな質問をすると思いますか?
その答えは「贈る相手の方にはご家族がいますか?」。
一人であれば、高いメロンを一個、買えば喜ばれます。ただ、反面、家族が多い場合は、それではすぐになくなってしまうので、複数のフルーツの詰め合わせにするといいます。答えで商品の中身がまるで変わります。それが活かせるのは、チャットでした。結果、強みをいかせて、他のECサイトに対しての差別化要因を作れたわけです。
ビームスHeg.ちゃんもテクニックよりマインド重視
また、先日、ビームスの販売位Heg.ちゃんに取材をした時も、リアルの大事さを思いました。彼女は、スタッフ・オブ・ザ・イヤーで、全国8万人の販売員の頂点に立ちました。彼女が強調していたのはマインドの部分。デジタルを軸に接客している彼女が、リアルネット問わず評価が高く、その受賞につながったのはなぜでしょう。
一つ例を挙げると、ビームスのオンラインストアでは「フォトログ」と「スタイリング」というコンテンツがあって、彼女はそれを上手に使い分けています。スタイリングは予想がつきますよね。着回しを提案するわけです。彼女曰く、単品で商品を紹介する「フォトログ」が大事。
フォトログの投稿において「オーソドックスなスタイル」は店頭に商品を置いた写真です。確かに、それがベターですよね。写真単体で見ると、こうすることで色味やバリエーションをお客様が確認できるメリットがあります。
しかし、彼女はもう一歩踏み込んでいます。「私なら、店頭でもし商品が気になれば、手にとって触るし、試着もします」と言います。
そして「Tシャツだとしたら、『フォトログ』では着ている上着を脱いで、そのTシャツ自体の使用感を見せてあげることを大事にしているんです」と。それ単体での印象を伝えることに言葉や写真など、あらゆる角度で説明することに全力を注ぎます。
だから、デジタルの場面でも、リアルの店内での場面を想像して、それをデジタルでどう再現できるかということなのだと気付かされます。
この二つの例を見るに、ネット通販で売り上げを伸ばそうという時のヒントは、実は、リアルの店舗にあるのだと思います。テクノロジーが進化するほど、ネットにおいては繊細さと気遣いという人間の方の進化が大事な時代になりそうです。
JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役