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Amazonが進む先

Amazonと言えばだれもが知るEC業界の巨人でしょう。今回はそのAmazonの米国における最近の動きを基に、目指しているものが何か考えてみたいと思います。先ずは数字の確認です。米国AmazonのIRサイトにおいて2022年2月3日(※以降記述する日付は全て現地時間)に公開された2021年の決算発表を見てみましょう。米国での売上は279,833百万USD(34兆9,791億25百万円 ※以降記述する全ての為替レートは125円/USDで計算)ととてつもない数字です。この売上、何と日本の国家予算の3分の1に相当します。

ただし、米国での費用は272,562百万USD(34兆702億50百万円)です。差し引きすると同社の米国事業の営業利益は7,271百万USD(9,088億75百万円)になります。計算すると売上高営業利益率は2.6%に過ぎません。尚、米国を除く全世界での売上と費用はそれぞれ127,787百万USD(15兆9,733億75百万円)、128,711百万USD(16兆888億75百万円)、すなわち924百万USD(1,155億円)の赤字です。

実はこの数字にはAWSが含まれていません。同社の決算発表ではAWSの数値は別枠で公開されています。中身はどうでしょうか?

62,202百万USD(7兆7,752億50百万円)の売上に対し、43,670百万USD(5兆4,587億50百万円)の費用とこちらは2兆3,165億円と大幅な営業利益が出ています。つまり、数字だけ見ると「EC事業はあまり利益が出ておらず、場合によっては赤字であり、その代わりAWSが利益を稼ぎ出している」という構図になっていると言えます。AWSが占めるAmazon全体売上に対する比率も13.2%となっており、2020年の11.8%から1.4%上昇しています。根拠のない大胆な予想ですが、もしかすると10年後にはAWSが逆転しているかもしれませんし、20年後にはAmazonがECの企業だと思っている人は少なくなっているかもしれません。

そのようなAmazonですが、米国ではECやAWS以外にどのような行動をとっているのか興味深いところです。いろいろなメディアがAmazonの動向を報じていますが、やはりAmazon自身による発表が最も信頼が置けますので、同社のプレスリリースを参照してみましょう。2022年に入って発表された私が気になったプレスリリースを以下の通りピックアップしてみました。

●クライスラー、アルファロメオ、フィアット、プジョーなど世界的に著名な自動車ブランドを有する自動車製造業グループ「Stellantis」との間で、次世代のコネクテッドカー実現に向けてAWS等の技術基盤提供に関する提携を発表。(1月5日付)

●全米のAmazonで働く75万人の時間給労働者向けに大学で学ぶための学費の支援をさらに拡大。(3月3日付)

●ワシントン州のPuget Sound region、Arlington、Virginia regionにおいて、1,060以上の手頃な価格の住宅を供給するためにThe Amazon Housing Equity Fundを通じ124.4百万USD(155億50百万円)を投資すると発表。(3月15日付)

●ビデオ通話、ゲーム、本などを利用できる、8インチタッチスクリーンを搭載した子供向けアプライアンス「Glow」について、全米の消費者が利用可能なったとアナウンス。(3月29日付)

●Amazonの衛星インターネット事業である「Project Kuiper」に関し、Arianespace社、Blue Origin社、United Launch Alliance社との間で、今後5年間で合計83回3,236基の衛星の打ち上げに関し合意したことを発表。(4月5日)

以上のように、実に多彩な取り組みを行っていることがわかります。しかもコネクテッドカーに関する事業や衛星インターネット事業など、そのスケールの大きさは米国企業ならではの取り組みでしょう。ちなみに衛星インターネット事業はイーロン・マスク氏のStar Linkがロシアによるウクライナ侵攻で脚光を浴びました。今後の大きなトレンドとなると思われます。

Amazonがこのような多角化を目指している背景には、上で述べたように売上は膨大ですが利益の点で必ずしも盤石とも言い切れないため、将来への布石として事業を多角化したいという考えがあるのだと思います。物販のみならずデジタルコンテンツも含めて既に巨大なリテール経済圏を形成していますが、時代のスピード感がとても早くあっという間に新たな競合が登場して世の中を一気に変えてしまうかもしれません。これから先の世の中、何が稼ぎ頭になるのかも予想がつきません。そういったこともあり、常に先手を打って出ているのでしょう。本邦企業が持ち合わせない(正確にはごく一部の本邦企業しか持ち合わせない)経営のスピード感とバイタリティを感じます。もうひとつは、住宅や時間給労働者に対する教育に関する動向です。それらの取り組み自体社会的意義性の高いものと言えますが、少しうがった見方が許されるなら、巨大化するGAFAへの批判をかわすべく、社会性の高い取り組みも目指しているといういわばアピールの意味も同時にあると個人的には考えています。私はAmazonに肩入れしているというのではなく、あくまでも客観的な立ち位置から、これから先AmazonがECやAWSのみならず取り組んでいく新たなチャレンジをウォッチしていきたいと思っています。結果的に上手くいくものいかないものに二分されるのでしょうが、同社には新たな挑戦で驚かされることをいい意味で期待しています。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 本谷 知彦

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役


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