2026年 年頭所感 本谷知彦
新年あけましておめでとうございます。
当協会に係わっておられる全ての方々に新年のご挨拶を申し上げます。
Windows95が発売されたのは1995年、翌1996年にはインターネットが少しずつ普及し始めました。私も当時30万円でIBMのデスクトップPC(機種名Aptiva)を初めて購入したことを鮮明に覚えています。そしてその1996年ごろから、ひとつ、またひとつとECへの取り組み事例が登場し始めました。楽天市場がオープンしたのは1997年ですが、実質的には1996年がEC市場元年であると私は考えています。そういう意味で2026年はEC誕生30周年という節目の年です。
この間、EC市場・EC業界では様々な出来事がありました。ECモールの拡大、スマートフォンの登場、SNSの登場、物流のひっ迫、コロナによる追い風、ネット広告がテレビ広告を抜いたこと、フィッシングの横行、越境EC、ネットスーパーの登場、フリマの登場等々、数えきれない出来事が起こりました。そして、これから先はAIでしょうか。おそらく30年間での変化のスピードを上回るレベルで、この先AIがEC市場・EC業界に変化をもたらすと予想されます。
ところで、AIによって今後どのような変化がもたらされるかはいったん脇に置き、節目である30周年を迎えるにあたり、あらためてこの30年で何が変化(進化)したのかを私なりに考えてみました。結論を言うと、変化(進化)したものはハードウエア(種類および性能)、サービス(主にSNS)、ソフトウエア(OMS、WMS、MAなど)、そしてビジネスモデル(ECモール活用、OMOサブスクなど)でしょうか。それと当たり前ですが売るモノおよび売れ筋は常に変化しています。
では一方で変化(進化)していないのは何でしょうか。私には販売するメソドロジーに実は変化が生じていないように思えてなりません。一方で消費者の購買行動はデジタル化社会においてかなり変化しています。その消費者側の変化に対し適切に販売メソドロジーが対応できていないように思うのです。モノを販売することの難しさは永遠のテーマだとの証明なのかもしれませんが、感性、思いつき、思い込み、思想のようなものが先行している気がします。また万人にとって再現性のある事例(つまり販売のメソドロジーの事例ですね)はほんの僅かだと思うのですが、シンプルに事例の発表合戦が盛んなことも、有効性/効率性の観点から疑問に思うことが多いです。もう少し科学的なアプローチができないものでしょうか。
とまあEC誕生30周年を迎えるにあたり、個人的に思うことはたくさんあるのですが、それは追々何らかの機会で発表させていただくこととし、マーケットアナリストである私として、2025年のEC市場規模について述べておきたいと思います。ちょうど1年前の年頭所感では「2024年比で数パーセント前半の伸びで落ち着くだろう」と述べました。しかしながら、複数のリソースをもとにした私なりの2025年の予想は6%台半ば~7.0%あたりです。市場規模に落とし込むと約15.2兆円といったところです。コロナが終息し消費者のリアル回帰でEC市場には逆風が吹いていましたが、ここにきて消費者がECに戻ってきているようです。大きな理由の一つは物価でしょうか。安価なモノをネットで探す消費者が増えているのだと思います。
ともあれ、数字上EC市場は勢いを取り戻しつつあります。微力ながらEC業界の発展に引き続き寄与したいと思っています。本年もよろしくお願い申し上げます。

JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役