「AI動画」でモノは売れるのか?
「不気味の谷」を超えつつあるAI動画
先日Googleの動画生成AI「veo3」が発表されました。
生成される動画の質もさることながら、動画の映像と音が完全にリンクする内容が一度で出力されたことが驚きでした。これにより、「ガラスや溶岩を包丁で切るASRM動画」という新たなジャンルが誕生するなど大きな話題になっています。(このコラムが公開される頃には、さらにすごいAIが発表されていそうですが……)
人が喋っている動画も出力が可能で、登場人物の口の動きと完璧に合っており、人物にも「AI感」がなく、いわゆる「不気味の谷」はほぼ超えたように思えます。
AIで生成された女性の動画 セリフも完璧
https://x.com/pess_ham/status/1933098080108507375/video/1
AI動画は「売れる」のか
さて、EC支援業者として、一番気になるのは「AIを使って、商品が売れるための動画を作れるのか」ではないでしょうか。AIを使ったWEB広告動画は、すでにチャレンジしている企業があり「agoda」では
①仕事にバーンアウト(燃え尽き)してしまった
②アゴダがそんなあなたを助けます
③つまらない日々から逃げ、リフレッシュしましょう
④ホテルや航空券はagodaで取れます
という動画シナリオの各シーンにAIで出力された動画が活用されています。
AIを使った「agoda」のWEB広告動画
https://www.youtube.com/watch?v=5pfPWSNzXXw
「あ、AIだ」を超えなければいけない
agodaの広告の構成が全く悪いわけではないのですが、この動画を見た際に私の頭に浮かんだのは「あ、AIだ」でした。そして、15秒という短い時間の中で「agodaを使って旅に行きたいなぁ」という感情はわかず、頭に浮かぶのは「AIの動画だ、すごいなぁ」という感情でした。
広告、特にSNSで流れるような動画広告は瞬発力が大事です。
冒頭の1.5秒で相手の興味を惹き、短い時間で「サービスの良さ」を伝える必要があります。人間の頭の中は複数のことを同時に考えることが苦手なので、「AIであること」と「サービスの良さ」が競合した際に「サービスの良さ」が勝つような内容にしなければなりません。AIで生成された動画はまだ物珍しいということもあり、「AIみ」を強く感じた結果、「サービスを使うべきか否か」までユーザーの頭が追いつけないのだと思われます。
この壁を乗り越えるためには
①AIであることを活かす動画広告
②AIであることを意識させない動画広告
のどちらかに振り切る必要があります。
①AIであることを活かす動画広告
AI生成であることが「バレる」ことを許容した上で、「AIでしか出来ないこと」を活かした広告です。例えば、
●夢や妄想のような風景(空飛ぶクジラの街、逆さまの都市 など)
●実写ではコストや制約が高すぎる表現
などを表現する場合です。
一般的なECサイトの広告ではこういった過度な表現が必要なケースはそう多くないため、何か企画や特集で必要なケース以外はAI活用のケースが少ないのが現状です。
②AIであることを意識させない動画広告
広告を見ているユーザーが、「AIだ」ということに気づかなければ、その素材がAIかどうか関係はないため、短時間のカットに使われる空撮の画像などは現状のクオリティでもAIの動画素材が使用可能です。ただ、冒頭ご紹介したような「AIだとバレない」クオリティであれば、通常の動画広告と同じように、AIで生成された動画が使用可能になります。まだ完璧に実写と誤認するほどのクオリティではないため、「AIだと見抜ける」ユーザーも一定数いるかと思われますが、「AIだと見抜ける」ユーザーが少なくなれば広告としての効果も上がると思われますので、ここは技術の進歩に期待したいところです。
「AI動画でモノは売れるのか?」──問うべきは“誰が主役か”ということ
AI動画の進化は確かに驚異的です。でも、どれだけ映像が綺麗でも、どれだけリアルでも──動画の主役が「AIすごい」になってしまったら、商品は売れません。視聴者は、広告の中で「自分」に出会いたいのです。「あ、自分のことだ」と思えたときに、人は初めてサービスに手を伸ばします。だからこそ、AIを使うかどうかは問題ではなく、AIを“道具”として使いこなし、主役にしないこと。
●「AIらしさ」で惹きつけるなら、視聴者の記憶に焼きつくほど振り切る
●「AIらしさ」を隠すなら、商品やサービスが自然に引き立つよう徹底する
この振り切りがない中途半端な“AI動画”は、どれだけ技術が進んでも「すごい」で終わってしまいます。動画広告に必要なのは、“すごい”ではなく、“欲しい”。AI動画の時代だからこそ、「人の心を動かすこと」を問い直すことが、これからの動画づくりには欠かせないのではないのでしょうか。

JECCICA客員講師 矢崎 宏一郎
(株)ISSUN チーフマネージャー
得意分野/WEB広告 EC販売支援
WEB広告のなかでもAI系広告を得意とし、事業規模に合わせた集客戦略でD2Cの売上を2年で10倍にするなどで、日本上位3%の代理店であるGoogle Premier Partner認定に貢献。