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経済圏の設計図─KDDI・楽天・LINEヤフー、3社が目指す“違う未来”

日々、決算発表に触れていると、「経済圏」を掲げる企業でも、携帯電話を軸にしながら描く未来像がそれぞれ大きく異なることに気づきます。共通しているのは、月額固定の携帯契約を起点に、そこからどんな価値を積み上げていくかという設計思想。

その違いを、今回はあえて初歩的な視点から整理してみたいと思います。たとえば、“経済圏”という同じ言葉で語られるKDDI、楽天、LINEヤフーも、それぞれまったく異なる思想を持っています。

第1章:モバイルは「主役」か「入り口」か──サブスクの役割比較
KDDI:モバイルで稼ぎ、インフラと融合させる
まず、KDDIから。彼らはモバイル契約そのものを“主力の収益源”と位置づけています。
2025年3月期の通信契約数は3,106万件、さらに電気・金融・保険などを含む「ライフデザイン領域」の取扱高は12.9兆円にのぼり、通信以外の分野でも大きな収益を生み出しています。
携帯料金はやや高めに設定されていますが、そのぶん電気など生活に欠かせないジャンルをひとつにまとめて契約できる“セット型”の仕組みが整っています。
これらのコアサービスではPontaポイントの還元率を高くし、顧客一人ひとりの生涯的な利益(LTV)を最大化する、高収益なサブスクリプションモデルを構築しています。

楽天:モバイルは“経済圏への招待状”
一方、楽天グループはというと、モバイルを直接的な収益源とするよりは、“経済圏への入り口”として位置づけています。なぜなら、楽天の強みはECであり、楽天カードを決済に使うことこそが、彼らの“主力の収入源”になるからです。だから、通信費は手の届きやすい水準に設定されています。モバイルの契約者数は約850万回線。実際、楽天モバイル契約者は、非契約者に比べて楽天市場の購買額が約50%多く、楽天カード利用額も約30%増加するなど、モバイルが他サービスへのシナジーを強く生み出しています。

LINEヤフー:メディアで関係を築き、データを活かす
続いてLINEヤフーです。自社でモバイル回線を持っているわけではありませんが、ソフトバンクとの連携により、約5,300万件の通信契約と結びついた経済圏を展開しています。それ以上に強みとなっているのが、「LINE(9,700万人)」「PayPay(6,900万人)」「Yahoo! JAPAN(8,400万人)」といった巨大なユーザー接点です。彼らの収益の柱は、これらのメディアを活用した広告や、PayPayをはじめとする決済関連の手数料。つまり、“人々の生活動線”に深く組み込まれていることが、収益源そのものになっているのです。「見る」「支払う」「繋がる」──この日常のなかに自然とLINEヤフーが溶け込んでおり、とくにPayPay経済圏の拡張は著しく、最近では金融事業も黒字化を達成しています。

第2章:経済圏の“コア”が違う──どこで関係を深めるのか?
整理すると、各社の経済圏の“中心”は次のようにまとめられます。
●KDDI:通信 × インフラ(電気・金融・ローソン等)
●楽天:EC × フィンテック(カード・証券・銀行等)
●LINEヤフー:メディア × 顧客データ(広告・決済・接客)
彼らは共通して、AIに注力しているように見えますが、戦略が異なる分、その使い方や優先順位には大きな違いがあります。たとえば楽天は、主力の収益源が楽天市場や楽天トラベルといったEC領域にあるため、AIの投資もEC分野に行います。検索やレコメンドの精度向上に力を入れており、セマンティック検索(※検索意図を汲み取る仕組み)によって「ゼロ件ヒット」を98.5%削減、結果として流通総額は5.3%増加しました。さらに、レコメンド機能によって購入率が59%アップするなど、データと購買行動を密接に結びつけています。そしてこの成果は、モバイル契約によってユーザーが継続的に楽天サービスを利用し続ける事で最大化され、また、ECの利便性の良さは、モバイルを継続する理由にもなります。こうした連鎖が見えてくると、他社が通信料金の値上げに踏み切る中、楽天があえて“入り口価格”を抑えているワケも、自然と理解できてきます。

第3章:リアルか、ネットか、それとも情報か──3社の接点設計
KDDIは「垂直統合型」と呼ばれる戦略を採っており、自社グループのサービスを優先的に使ってもらう仕組みをつくっています。その中核となるのが、子会社化されたローソンです。たとえば、ローソンの店舗と、その裏側にある物流網を、AIによって効率化・最適化していく。利便性の向上したリアルな拠点を中心に「街をまるごとオペレーションする」
──そんな“街のOS化”を進めているのです。さらに、消費者向けにはau PAYを通じた決済が機能し、通信契約で蓄積されたPontaポイントが日常の買い物に使える設計に。通信、決済、流通が一体化されたKDDIらしい経済圏の形が、ここに表れています。

LINEヤフーは、メディアを軸に経済圏を築いているのが特長です。たとえば、LINEの公式アカウントを通じて、リアル店舗とユーザーの関係を結び直すような動きが見られます。ここにAIを活用し、接客やコミュニケーションを最適化することで、エンゲージメントの向上を図っているのです。

終章:どこで稼ぎ、どこで愛されるのか──経済圏の“思想”に目を向ける
こうして見ると、同じ“経済圏”という言葉で語られていても、その中身や目指す世界はまったく異なることがわかります。この経済圏の話は、単なる企業戦略の紹介ではありません。むしろ、企業が迷い、壁にぶつかったとき──どう立て直し、どこに向かうべきかを考えるヒントが詰まっています。

「これまで何を積み上げてきたか」。その延長線上に未来を見出すなら、次に何をすべきか──。試行錯誤を重ねて今の形にたどり着いた各社の経済圏設計は、その問いへの静かな答えでもあるのです。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 石郷 学

(株)team145 代表取締役


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