情報の出会いが生む、変わりゆく消費の形
情報の受け取り方が変わる時代
ここ数年、商品の出会いから手元に届くまでの流れが大きく変化しています。かつてはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった伝統的なメディアを通じて、画一的な情報が提供されていました。しかし今、その存在感が確実に薄れ、代わりに何が僕たちの日常を埋めているのか、考えさせられるのです。
新聞はブログに、ラジオはX(旧Twitter)のタイムラインに、テレビはYouTubeに置き換わりました。ではInstagramはどうでしょう?
これはまさに、雑誌の代替として進化しているのではないでしょうか。さらに興味深いのは、それらすべてが「誰でも発信できる」という特徴を持ち、アルゴリズムという見えない力が情報の選別と引き合わせを行っている点です。
かつては人々が情報を求めてテレビや雑誌にアクセスし、一箇所にまとめられたトレンドや画一的な情報を吸収するのが一般的でした。それが商品のヒットや消費行動を生み出していたわけです。
しかし今、アルゴリズムによる個別最適化が、こうした一極集中の時代を終わらせようとしているのです。
Instagramが生み出す「新しい雑誌体験」
Instagramが単なる「インスタ映え」のプラットフォームから、まるで雑誌のように進化を遂げているのを感じます。ファッション誌やライフスタイル誌が写真を中心に物語を紡いできたように、Instagramもまた美しい写真やビジュアルコンテンツを軸に、言葉で世界観を補完しています。
例えば、HAPPY JOINTというお店を取り上げてみましょう。このブランドは、ライトを販売しているだけではなく、その商品の魅力をカルーセル投稿(複数の写真をスライド表示する形式)を使って伝えています。ただ商品の写真を見せるだけではなく、価格や使い方などの情報を織り交ぜて世界観を作り上げています。
この「カルーセル投稿」が鍵となり、Instagram内で投稿を「保存」させることで、後々の商品購入につなげているのです。
これは、かつて雑誌が私たちに提供していた「発見」の体験に非常に近いものです。雑誌を手に取った時、自分が何を求めているのか明確ではなくても、ページをめくるうちに新しい世界や商品と出会い、心が動かされる。その感覚を、Instagramが再現しているのだと思います。
デジタル革命が変える消費の流れ
アルゴリズムによるレコメンドが、人々の趣味嗜好に応じて情報を引き合わせ、商品との新しい出会いを作り出しています。ここには「個」としての価値観が反映され、従来のような一律の情報発信や広告が力を失いつつあるのです。
リアルの店舗と対比してECサイトがその付加価値を提供してきた時代は、もはや過去のもの。次に必要なのは、既存のメディア的要素を飲み込み、個別最適化と発見の楽しさを融合させた新しい形のECなのではないでしょうか?
例えば、InstagramやYouTubeを活用しているブランドの多くは、商品の特徴を伝えるだけでなく、ユーザーのライフスタイル全体に寄り添う提案を行っています。それが魅力的であればあるほど、情報は「保存」され、購入やシェアにつながります。これまでの「一方的な広告」とは異なる、新しい消費の流れがここにあるのです。
新時代のECが目指すべき方向性
これからのECは、デジタル革命をどう捉え、活用するかで大きく未来が変わります。単なる商品販売の場としてではなく、アルゴリズムによる「発見」と「引き合わせ」を体現するプラットフォームとしての進化が求められるのです。
つまり、ECは「新しい雑誌」になれるかどうかが問われているのではないでしょうか。
これには、構造的な視点が欠かせません。アルゴリズムが導く消費者の行動を理解し、そこに最適化された情報発信を行うこと。その上で、購入の「きっかけ」をどれだけ自然な形で提供できるか。これこそが、今後のECが成功する鍵になると考えます。
一律ではないからチャンスはある
情報の受け取り方が変わる中で、私たちが向き合うべき顧客像は、かつてのように一律ではなく、個々の価値観や趣味嗜好に基づいて変化しています。InstagramやYouTubeの進化を踏まえながら、消費の新しい流れを捉え、未来に向けてどのようにECを進化させるか。ここがこれからの大きな課題でありチャンスなのだと思います。
構造的な変化を受け入れ、本当の意味でデジタル革命を活かせるかどうか。それが、次の時代を切り拓く鍵になるはずです。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役