楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.61 独りよがりな「差別化」の時代は終わり
マーケティングの差別化とは?
マーケティングやビジネスに関わると「差別化」という言葉を使うことが多いと思います。そもそも差別化はどこから生まれた言葉と考え方かを振り返りましょう。
日本でマーケティングの考え方が導入されたのは1950年代の半ばで、その後1960年代に日本は高度経済成長期に入り、様々なモノが普及して市場が拡大します。そして1970年代に入ると、あらゆるモノが普及します。そうすると顧客はもっと価値あるものを望むようになり、各企業は同業他社のモノと異なる価値ある商品を世の中に送り出すようになります。一例でいえばクルマが普及すると、もっと良いクルマが欲しいとなり、他社と差別化されたクルマを開発して発売する訳です。
つまり市場の成熟化で、同業他社と異なる商品を開発する際に「差別化」という考え方が拡がります。
顧客視点で見た場合にカップラーメンの競合は?
差別化をどのように行うのかマーケティングのフレームワークで解説すると「3C分析」をメインで使います。「Customer:市場・顧客(同一業界)」、「Competitor:競合」、「Company:自社」を分析したうえで、「顧客ニーズを満たし、同一業界の競合と差別化されている、価値ある自社商品を生み出す」と整理して、どのような「コンセプト=どんな顧客にどんな価値を提供する」かを整理します。しかしこの考え方と進め方には、一つ落とし穴があります。つまり「同一業界の差別化」です。
私が20代(1980年代)の頃の話です。広告代理店で明星食品さんを担当していました。当時もカップラーメンのトップは、日清食品のカップヌードルで、各社はカップヌードルに追いつけ追い越せと新商品を発売し、差別化を広告で訴求していました。
当時のカップラーメンを良く食べる顧客は、中学生や高校生の男の子で、学校帰りに夕食までお腹が持たない放課後にコンビニで購入していました。
そこで、ふと疑問を感じたことは、顧客は小腹を満たすためにカップラーメン以外にも選択肢があり、それは「おにぎり、サンドイッチ」や、「マクドナルドのハンバーガー」もあることに気づいたのです。
つまり顧客の側から考えると、「放課後の小腹を満たしたいニーズを持つ、中学・高校生の男の子」は、様々な選択肢の中からカップラーメンを選ぶ訳で、カップラーメンの競合は多岐に及ぶ訳です。
3C分析の落とし穴
通常では「カップ麺市場」とか「自動車市場」という言葉を使い、同一業界の売上金額や販売数を市場として規定しますが、厳密にいえば市場ではなく「カップ麺業界・自動車業界」が正しい定義です。では顧客視点で市場定義すると、先の例であれば「放課後の小腹を満たしたい市場」が正しい市場定義であり、売り手のメーカーから見るとカップラーメンの代替品が様々あり、こうした状況から選択してもらうことが大きなテーマとなります。
3C分析で同一業界の競合を見ることは勿論大切ですが、加えて顧客のニーズを満たす視点で考えた場合、「どのように市場が定義されて、そこには同一業界以外の代替品に何があるのか?」を把握する必要があります。
「差別化」を意識しすぎて、同一業界の狭い視点(ミクロ環境)で3C分析だけを行っていると、思わぬ代替品に持っていかれる訳ですね。では、どうすれば良いのかですが?
グローバルな世の中の動きと顧客を把握し「独自性」の提供を!
マーケティングには、「PEST分析」というマクロ環境を分析するフレームワークがあります。政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字を取ってPEST分析と呼びます。この中で特に日常的に関心を持ちたい要素が「社会動向・技術動向」です。
社会動向とは「世の中の流れと人間の心理や行動」です。コロナ禍を例に取ると、この3年で大きく社会は変化しました。そして技術動向は「テクノロジーの進化」です。幸いにもコロナ禍ではインターネットをはじめとしたテクノロジーのおかげで、私たちの生活は支えられました。
世の中の動きを見て、「どのように工夫すれば顧客が笑顔になり、ハッピーになるのか?」という問題意識はいつの時代でも大切であり、ビジネスを行う際には一番重要な要素です。この考えを基にして、自社のリソースを最大限に生かし、どんな価値が提供出来るのか?をテーマに、ユニークな「コンセプト(どんなニーズを持つ顧客に、どんな価値を提供するか?)」のモノやサービスを開発して提供するのです。
以前にもお話ししましたが、2007年の日本の携帯端末を見ると、大手メーカーは市場調査を繰り返し、競合他社とは違うガラケーの新商品を多数市場導入していましたが、我々から見ると違いが分からなかったり、機能が難し過ぎて使えなかったりという状況でしたが、そんな社会にアメリカのアップルは「iPhone」を発表しました。
最初は「何これ?」と私たちは思い、メーカーは「そんなモノは、アップルマニアしか買わない」と、たかをくくっていましたが、その後の世の中は言わずもがなです。
グローバルレベルで世の中の動きや顧客を把握することの第一歩は、自分自身の生活や周囲の人々の毎日に関心を持つことであり、そこからたくさんのヒントはあります。そのためにも現場と人間観察や、実際の声を聴くことは大切。
世の中をワクワクさせる独自性あるコンセプトは、自ずと「結果的に同業他社との差別化」に繋がり、自社のビジネスに大きな貢献をもたらします。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント