これを買う人って どんな人?
主力商品とサブアイテム
革靴300種類 → 各種それぞれ1万円
・革靴を磨くブラシ → 500円
・皮革保護クリーム → 800円
という商品構成でこれからネットショップを構築するとすれば、商品ページはたぶん革靴のページから制作を始めるのではないでしょうか。商品ページの制作コストはどれも一様になるかと思いますので商品単価や利益の絶対額を考えれば、費用対効果から見て主力商品であり単価が高い商品からページ制作を始めるのが普通かと思います。500円のブラシで1万円の売上を作るとすれば20件の受注対応とそれに伴う発送業務などが付随してくるわけですから、どう考えても革靴が“主”でケアやリペア用品は“従”という考え方になるのは当たり前の話かもしれません。
笹本もコンサルティングの際には「主力商品のページ」を重要視し、まずはこの拡充を優先させています。でも「ある段階」からクライアントさんには「優先順位の変更」をお願いするのが常です。主力商品ではなくケアやリペア商品など「“従”の商品」の拡充を最優先とするのです。ページ制作コストからみても費用対効果の低い低価格のケア商品などに注力するわけですから普通に考えればあまり得にならないワークに見えるかと思いますが、そこには優先順位の変更をお願いするだけの大きな理由があります。
優先順位を変更する「ある段階」とは、おおよそ主力商品が充実してきた時です。主力商品のページを全て制作し終わってからではなく「おおよそ」充実してきた時という点にご留意頂ければと思います。先に申し上げてしまうと、この優先順位の変更は固定観念のワナに陥る手前での小さな意識改革でもあります。商品ページの制作をなぜ単価1万円の革靴から先に始めたかと言えば、ブラシや保護クリームに比べて単価も高く、利益額も多く、費用対効果も高いからなのですが、もう少し言えば売り手の「意識づけ」としての順位がそうなっているからとも言えるでしょう。
そしてこれこそが固定観念のワナかも・・・。見ているのは商品で、お客様ではなくなっている瞬間かもしれません。
ここで少し考えて頂きたいのですが、革靴におけるブラシや保護クリームなどのケアやリペア商品を買われるお客様とは「どんな人」でしょうか。お客様の顔が見えにくいネットショップだからこそ、お客様の姿を常にそして強く意識しておきたいと思うのです。
もうお分かりの通りブラシや保護クリームを買うお客様は、合成皮革ではない「本革の靴」をたぶん「数多く」持っていて、多少価格が高くても本革の靴に「価値を見出す」お客様であり、しかも長期に渡って面倒とも思える革靴のケアをしながら「今も」履き続けているお客様である可能性が高いのではないでしょうか。だからブラシやクリームが必要になったのです。同時にこれらの商品を買われるお客様はこの革靴のショップから見て「一番大切な顧客層」となるのではないでしょうか。
商品だけを見ているとブラシやクリームは低単価でしかもそれほど多くの数が売れるわけでもない儲からない商品群には間違いないのですが、(この商品を買う)お客様は「どんな人?」=商品よりもお客様を見ようとする視点を持てた瞬間に「一番大切な顧客層」が集まる商品群である“可能性“に気づくことにもなるわけです。小さな意識改革であり、普段の意識づけの修正と呼びたい理由もここにあります。
主力商品が充実するまでは費用対効果的に見ても売上の比重で考えても「まずは主力商品」という考え方=意識づけで判断や行動をするのがもちろん正解だと思います。一方「一番怖いのは成功体験」という様な言葉があります。前述のショップ制作における「ある段階」とは、商品ばかりを見てしまうことが固定観念になってしまう前に、同時に「一番大切な顧客層」がショップに来訪された際にも売上にも寄与できるだけの体制=「ある程度」主力商品が充実してきた段階で、“従”の商品群を必要とされるお客様の姿も改めて考えてみると意外に深掘りできそうなお題が見えてくることが多いと思っています。
ターゲットとするお客様の想定などのワークもどうしても主力商品に偏りがちで、“従”の商品群についてはかなりいい加減な扱いになってしまっているのが実情かと思います。意識づけ自体が「売上=主力商品」になっているのですから、ある意味では致し方ないことであるかも知れません。だから「“従”の商品ページの拡充」という優先順位の変更を敢えて行い、この作業を通じて、改めてお客様の姿を想像する小さな意識改革を行うというのがコンサルティングの意図でもあります。
たとえば自転車のパンク修理セットを買うお客様。どんなお客様でしょうか。ママチャリで地元の近所を走っているだけならパンク修理セットは必要ないのではないかと・・・。地元ならどこに自転車屋があるか知っているし、パンクした自転車を押しながら歩いて帰ることもできるワケで・・・。そうでない環境を持つ人が買うのがパンク修理セットだとすれば、高級自転車でツーリング/サイドバックにヘルメット/長距離ライダーなら車に積むためのキャリアに・・・。
たとえば男性ジャケット用のチーフを買うお客様。どんなお客様でしょうか。チーフをつけずにジャケットだけを着ている人の方が大多数を占める中で、チーフを買う人=身だしなみに平均以上に気を遣う人ではないかと・・・。たぶん身だしなみにはお金も使う人ではないかと・・・。ちなみに「チーフ+折り方」で検索して検索結果の上位に載っていたシャツのショップを見てみたのですが、チーフの折り方についてはコンテンツが充実していたものの、商品は50種類ぐらいしかなくてex.ワタシが欲しかった無地の黄色のチーフはこのショップには置いてありませんでした。残念。他のショップを見に行ってみよう。
・・・なんて笹本の妄想のしすぎでしょうか。少し深掘りしてみたくなりませんか?
“従“の商品をお買い上げ頂いた「儲からないお客様」だけをログデータなどから抽出して、まずはサイト内の閲覧経路やリピート率など基本的なところから把握してみるだけでも色々な「気づき」があるかと思います。またこの気づきは、かなりの確率で「キャッシュに直結」する場合があります。
なぜかと言えば、これから集めるお客様ではなく「既に」ショップ来訪されていて「既に」お買い上げ頂いているお客様だからです。送料も納期も決済手段などについても少なくとも一度はご納得頂いたお客様であり、販売者としての一定の信用を獲得できたお客様です。そしてサブアイテム「までを」必要とするヘビーユーザー=一番大切な顧客層が含まれている可能性があるからです。
売り手である自転車ショップから見ればパンク修理セットは“従”の商品であり、シャツのショップから見ればチーフはやはり“従”の商品です。“商品“という視点から/あるいは売上などの”数字“の視点からすこし離れて「お客様の姿」を想像する方向に意識づけを少し変えるだけで前述の例のごとく様々なことが見えてくるかと思うのですが、一方で経営をしている以上は商品や様々なKPIに強く意識を持つことは不可欠です。ex.売上比率とか/商品ごとの粗利率とか/ページ当たりの収益とか/サイト内の遷移率とか・・・やはり重要なのです。商品やKPIから離れましょうということ自体に無理があることは承知しています。商品やKPI=”経営“を熱心に考えれば考えるほどこれらの意識づけが強くなり、お客様の姿から離れがちになるというある種のジレンマ。これを乗り越えて”商品“も”KPI”も“お客様の姿”も見える自分を取り戻すための一番簡単なリハビリテーションが“従”の商品および商品ページの拡充を通じての考察ではないかと思っている次第です。
“従”の商品を「さらに」深掘りしてみましょう。
前述の革靴を磨く「ブラシだけを買うお客様=500円」と「ブラシと保護クリームを一緒に買われるお客様=1300円」とではどちらが「一番大切な顧客層」となる可能性が高いでしょうか。
もちろん様々なお客様がいて様々なニーズがあるので正解はありません。たとえば革靴のユーザーではなく野球のグローブをピカピカにするために革靴用のケア商品をお買い上げになったかも知れないのです。従って答えはあくまで仮説であり、まだ想定とは呼べない妄想のレベルに過ぎないものかと思います。でもこの“妄想“が最初のシーズでありPDCAの最初のPでもあるわけです。読者の皆さんであれば最初のヒント=Pさえ見つけられれば金鉱脈を掘り出せると思います。是非ともこの点にご留意の程・・・。
妄想好きの笹本の仮説としては「ブラシだけ」を買うお客様の方が一番大切な顧客層に繋がる可能性が高いのではないかと思います。「ブラシとクリーム」を一緒に買われるお客様には(場合によっては他店で)初めて本革の靴を買った人=まだ本革靴のヘビーユーザーにはなっていないお客様が多分に含まれていると思うのです。一方「ブラシだけ」のお客様は、もちろんクリームは既に持っていて靴を磨き続けて今使っているブラシが摩耗して次のブラシが必要となるぐらいの超ウルトラヘビーユーザーではないかと。様々な色の靴を持っていて靴の色ごとにブラシを使い分ける様なお客様ではないかと・・・。
ブラシとクリームを一緒に買うお客様の方が顧客単価としては高いのは当然なのですが、ここではさらに「低単価」のお客様の方に意識を向けた結果、なぜこのお客様はブラシだけを買ったのかという「さらなる小さな疑問」が生まれました。ただの無駄な妄想に終わるかもしれません。でもこの疑問が次なるヒントを見つける鍵になるかも知れないのです。宝くじは買わないと当たらないのごときですが、妄想は宝くじと違って“無料”です。(笑)
主力商品については、場合によってはショップを立ち上げる以前からペルソナを設定し、毎日の様に各種データを見て、ライバルのチェックまで様々な分析や調査や想定を「既に/充分に」行っているのではないでしょうか。サブアイテムは多くの場合、未調査&未開拓&未考察。うまく深掘りできれば大きな気づきに繋がります。しかも「既に手元に持っている」モノなのですからっ♪
JECCICA特別講師 笹本 克
全国各地で有名ネットショップを輩出。自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。