変革と頑固は隣り合わせ
作業着のワークマンのお店、9割が女性?
「変えること」と「変えないこと」のバランスが企業の成長に大きく影響を及ぼす。先日、「#ワークマン女子」に取材に行ったのだが、コロナ禍にあって、昨年10月、開店初日の売上はワークマン史上最高(デイリー)を記録した好調ぶりである。
ワークマンは作業着ブランドであり、女性に縁はなく集まるはずはないし、この店オリジナルの女性向け商品があるというわけではない。なのに、この店の初日に集まった女性の比率は9割にのぼる。
そこで「変えること」と「変えないこと」のバランスを思う。まず「変わらないこと」。「税込780円」「税込980円」と価格帯を絞っていて、そうする理由は作業着ゆえにワーカーがあまり時間をかけず判断素早く買って帰るようにである。だから、元からこの会社の商品企画は「この価格で販売するにはどんな商品を作ればいいか」と逆算している。
その付加価値こそが彼らが誇る「機能性」である。例えば、ケチャップをかけても染み込まないといった自分でも試してみたくなる要素が、それ相応の価格で売られていたらどうか。買いたくなるであろう。自ずと価格に見合った付加価値が生まれやすいのだ。
商品価格と機能性の姿勢は頑固に変えない
逆に「変えている」のは「店そのもの」。他の店のように、ターゲットに合わせ商品を作りブランディングするのではなく、作った商品は同じで、ターゲットごとに店をブランディングしている。作業着ブランドなのに、女性向け店舗を躊躇なく展開し「変えている」ので躍進につなげた。
少し話が逸れるが、ユニクロも感覚的にこれに近い。ファッションは概して、新しいものを提供しがちだが、新しさの基準が違う。彼らは定番品を提供して、例えば、原宿店でパネル式でコーディネイト提案したり、お客様にカスタマイズ提案をすることで、お客様個々人にとって「新しいもの」を提供しているのだ。
つまり、在庫を無理なくしていくよう計算されていて、堅実なのだ。売れなかったらセールで叩き売り、というようなことはない。言うなれば、普段から適正価格で売り、定番的にそのそれぞれに良いタイミングで買って貰えばいい。彼らの堅実さが大胆なチャレンジを可能にして、それがターゲットを変えて、その対象に合わせた付加価値を提案することで、会社自体を成長とともに、安定させているわけである。
見せ方のヒントはYouTube
さて、話を戻すと、見せ方を変えるという部分でワークマンにとってヒントになったのがYouTubeである。作業着ブランドなのに『綿かぶりやっけ』が女性にウケた。綿100%なので火に強いから、本来は溶接工の人のために作られた商品。それでも女性に売れた理由は、キャンプの焚き火に最適だとキャンプに詳しいユーチューバーのサリーさんが話していたからで、これにはワークマンも驚いた。
だから、ワークマンはその“入口”の大事さに気づく。だから「#ワークマン女子」ではワークマンプラスの1.5〜2倍のフロア面積を使い、インスタグラムの撮影スポットを4箇所設置して、発信拠点にして、女性が集まるきっかけを作った。まずは集まる場所を作り、また、発信して知ってもらえば、その機能性なり彼らの「変えない部分」を評価されると考えたのである。
200年の老舗も実は変わっていた
さて、同じことは創業200年の老舗、榮太棲總本舗でも痛感した。思いがけず、僕はコンビニエンスストアで彼らが監修する「あんこと黒みつのシュークリーム」を見かけて、百貨店などの由緒正しきブランドが販売していることに疑問を抱いたのだ。
すると、代表取締役副社長 細田将己さんは「私たちは味に対してのこだわりはとても強く伝統を重んじるのですが、一方で流通に対しては敏感に世の中を察知して、そこに柔軟に合わせてきました」という。
つまり、流通における積極的な変革が、長年にわたる伝統を守っている。古くは屋台から始まった榮太棲總本舗ではあるが、東急百貨店本店の生みの親 五島昇さんに名店街「東横のれん街」を提案したのも彼らを中心とした老舗仲間たちだ。
食べてもらわないと伝統は伝わらない
今から30年前には、量販店への進出に意欲を示す。代々伝わる飴を作る技術に着目して、黒飴を量販店向けに作り替えた「黒みつ飴」などを開発した。コンビニもまさにそう。彼らの菓子は、大量生産向きではないけど、自慢の「あんこ」や「黒みつ」であれば供給は可能。それを元に彼ら監修のもと、それらの原材料で味を再現させて、そのシュークリームの発売へと漕ぎ着けるわけである。
その生産者のもとで一緒に作業してまでして口説いて、手に入れた原材料で、伝統の味はその姿勢に裏付けられている。ここは「変わらない」けれど、その味も伝わらなければ、意味がないので、流通を変えて、ちゃんとその味が伝わるように「変えていく」のである。
企業において、その「変えないこと」をいかにして「変えること」で守っていくかということが成長の良し悪しに大きく関わるのではないかと僕は思うのである。
JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役