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UXを考える。〜リピーターと信者〜

少し前になりますが、お盆前に我が家の冷蔵庫の“調子“が悪くなりました。使えなくはないものの若干冷蔵庫の冷えが悪くなりコンプレッサーの過熱を知らせるブザーが時々鳴る様な状態になったのです。母が”近所の電気屋さん“に電話すると直ぐに駆けつけてくれて「放熱がうまくいっていない」と言って冷蔵庫を少し動かして壁の隙間を広げてものの5分ぐらいで帰っていきました。お代は取らずの無料サービス。しばらくは大丈夫だったのですが、数日経つとまた過熱を知らせるブザーが時々なる様になってしまいました。その日はちょうどお盆休みの週が始まった日で近所の電気屋さんはお休みです。私が冷蔵庫の背面のパネルを開けてコンプレッサーを掃除し、放熱を良くすべく背面のパネルは外したままにしておきました。でもまた翌日過熱を知らせるブザーが鳴りました。

私:「この冷蔵庫もそろそろ寿命だね。たぶんコンプレッサーのパワーが落ちているみたい」
母:「お盆明けまで冷蔵庫が持てばいいんだけど・・・」
私:「ヤマダ電機でも行く?お盆でも店やってるよ」
母:「近所の電気屋さんから買いたいの」

・・・この辺りから我が家を侵食するUX(顧客の体験=商品と購入に付随する対応などを含めた満足度)の凄さが見えてきます。(苦笑)

私:「量販店の方が安いと思うけど」
母:「ワタシがお金を出すからいいじゃない。」

台所は母の聖域であります。そう言われるとほとんどの場合これ以上は口を出せないのですが、今般はもう少しだけ・・・。

私:「本当に冷蔵庫が壊れちゃったら中の食材が全部ダメになっちゃうよ」
母:「近所の電気屋さんとの付き合いを残しておきたいの!お盆明けまで待ちます。」
(討議終了。)

近所の電気屋さんはかれこれ40年ぐらいの“付き合い”になるでしょうか。先代社長の時代からになります。笹本の頭髪もふさふさだった小学生高学年の頃に引っ越してきて以来の付き合いです。何年もご無沙汰という時もあれば、修理や買い替えなどで年に数回我が家へ来るという時もあったかと思います。

かなり昔になりますが私が2~3泊の出張から帰ってみると、我が家のTVとビデオと複数台のエアコンと・・・「その他色々」が一斉に買い替えられていて新車が買えるぐらいの金額の領収書が置いてありました。私はこのことを出張前には全く知らなかったので、つまり即決即納&いつもニコニコ現金払い。(笑)

その後の数か月は/録画の仕方がわからない/エアコンのタイマーセットはどうやるの?/録画の消し方がわからない/CDに焼けるって聞いたんだけど(re:我が家ではDVDもブルーレイもCDと呼ばれています。)/BSのサブチャンネルってどう見るの?/etc.etc./前に聞いたと思うんだけど録画の消し方が分からなくなっちゃって・・・。毎週毎週2~3回電気屋さんが我が家に来ていました。同じことを繰り返し聞いても嫌な顔一つ見せず笑顔ですぐに駆けつけてくれます。買ってから数年経って初めて使う機能/ex.電子レンジでパン生地を発酵させる/などについても笑顔でもちろん無料で教えてくれます。とっても高い無料です。

母は「近所の電気屋さんからは」ほとんどの家電や照明などの設備をほぼ定価に近い金額で気持ちよく買っています。

一方で母はスーパーで食材を買う時や家電と言えども「量販店」で買う時は、じっくり品物と価格を見比べつつという購買行動をしています。日頃はあそこのスーパーの方が安かったなどと言っている母と同一人物とは思えない購買行動をUXがさせてしまう現場を我が家で目の当たりにした次第。近所の電気屋さんの母に対するクロージングは、商品や価格を見る前に既に完了しているわけですから。ECの世界で購買率が、CRM(顧客との親密度を高めるための施策)が、平均顧客単価が、・・・などと言っているのが滑稽に見えてくる程です。(苦笑)

UXの重要性は分かったつもりでいた笹本ですが、率直に言えばこれほどの強烈なパワーを持つとまでは思っていませんでした。ECの世界では、商品自体の魅力という共通項を除けば商品選択から決済完了までの利便性とデリバリーあたりまでをUXと称しているのが一般的かと思います。あるいは3日3週3か月のリマインドやリピート間隔を分析して云々という様な“手法やツール”までを含めてという所でしょうか。

ユーザーとのコミュニケーションという意味ではレビューや使用例の投稿:このショップで買った〇〇を着たワタシや〇〇で作った料理の写真を投稿できるフィールドなども含まれてくるかと思います。これらが顧客満足度を高めていることは確かですが、母の様な“信者”を育てるまでには至っていないのが実情かと思うのです。ECはこの点でまだまだ考察と努力を重ねていく必要があります。もしかするとUXの【 前提 】を再考する必要があるかも・・・。

お盆の週が明けた月曜日に早速近所の電気屋さんが我が家に来ました。調子の悪い冷蔵庫の上には天井近くまである棚が載っています。電気屋さんは冷蔵庫のサイズと棚と天井までのスペースを測り即座に店のスタッフに電話しました。店からの回答はピッタリのサイズのものをメーカーから取り寄せるとなると3日かかるが、知り合いの家電卸の所にメーカーでは“廃番”になった在庫がある。この在庫なら明日の午前中に納品できるし少し安くできる。在庫の色は“ステンレス”と“ワイン”の2色とのこと。廃番なので手元にカタログはありません。従って色は口頭で聞いただけです。価格はまだ聞いていませんが、この段階で母は「明日欲しいから」在庫のステンレス色をお願いしますと言った次第。

お盆の期間中でも冷蔵庫を量販店で買うことができたにも関わらず、本当に壊れたら食材がダメになるという緊急度の高い購買機会であったにも関わらず、ほぼ1週間待ってから“明日”という緊急度のデマンドを元にして最終的な購買を決心したのです。その後電気屋さんは冷蔵庫の価格とリサイクル料を告げて帰っていきました。

もしも皆さんのショップの顧客の全てが母の様な“信者”であったなら、購買率から利益率までを一変させてしまうことは容易にご理解頂けるかと思います。“廃番”の在庫さえも売れてしまいます。カタログを見せなくても売れてしまいます。家電は激烈な価格競争となりやすいNB商品であることをお忘れなく。にもかかわらず近所の電気屋さんと私の母との間には商品比較も価格競争も存在しないのです。UX恐るべし・・・。

街の電気屋さんがアフターサービスで商売している話は耳に新しいものではないのですが、一方で量販店においても当然ながらアフターサービスがあります。商品のラインアップや店外在庫などの情報量においては近所の電気屋さんよりも量販店の方がはるかに勝っているかと思います。商品に付随する“サービス/ケア”もある点においては量販店の方が勝っている場合もあります。冷蔵庫は電源を入れてから食材を入れられる温度になるまで12時間ぐらいかかるらしいのですが、今般の“廃番の在庫”は我が家に着いてから電源をいれたので庫内に食材を入れたのは深夜近くでした。量販店ならば冷えた冷蔵庫を持ってきてくれるという話も。

でも母の購買行動の中では量販店は「最初から選択外」。従い冷えた冷蔵庫で納品という商品に付随する“サービス/ケア”もノーチェック。・・・そう言えば・・・冷えるまで12時間/冷えた冷蔵庫を納品可なんて初めて知りました。冷えるまで12時間=「言われてみれば当然のこと」ではありながらも同時に納品後の不快でもあるわけです。この不快の解決はUXの観点から言えばかなり大きな比重を占めるはずなのですが、リアル店頭のポップでもWEBの商品ページでも見たことがありません。UXの観点自体がまだまだ充分でないのでしょうね。

・・・昔、本革底の靴を初めて買った時に「保護のため本革底にミンク油を充分に塗って数日おいてからお履き下さい」と書いてあって驚いた記憶もあります。今日から履くことはできないのです。翌週の休日にミンク油を買いに行き・・・。家具を買い替えようと思っているけど古い家具の処分の仕方がよく分からないし面倒だし・・・。たった今、笹本の目に入る数々の品物の内、半分ぐらいはこの例に該当しそうです。etc.文系視点でのUXを考えればリッチコンテンツの方が親和性が高いものの、モバイルフレンドリーを考えるとコンテンツバランスは熟考要かと。

最近ではUXを語る際に“コネクト”や“リンケージ”という様なワードが使われることも多い様ですが、一つの鍵として売り手とお客様との「相互発信」が成立することが重要であるのは皆さんご承知の通りです。前述のレビューや商品使用例:このショップで買った〇〇を着たワタシの写真を投稿できるフィールドなども “双方向”コミュニケーションと呼べる範囲にはあるかと思いますが、双方向としては疑似的な面が否めず“信者”を創るまでのツールとしては一定の効果どまりかと。B to Cにおいての双方向の事例を考えてみれば、メールや電話での“事前”問い合わせはもちろん、リアル店頭でのキュレーション(選んであげる)やご購入後のコンプレイン(=苦情)応対などが挙げられるかと思います。苦情応対後にリピート注文はよくある話。あるいは中国ECにおけるチャット対応などもこれに該当するのでしょうか。

前述の「最初から選択外」だった量販店と近所の電気屋さんですが、これは単なるアフターサービスの差だったのでしょうか。面識の有無の差なのでしょうか。これが強烈な利益を生み出す信者を創り出せるか否かの分かれ道なのでしょうか。笹本は、事前の問い合わせにしてもコンプレインにしてもリアル店頭での接客にしてもアフターサービスの依頼にしても【 大前提 】をクリアして初めて派生してくる事象であって、根本は少しだけ違うところにあると思っています。あ、文字数が足りない・・。大前提とは簡潔に言えばたぶんユーザーから見ての「ex.問い合わせのしやすさ/店の入りやすさ」と言うよりは「話しかけられやすさ/店の入られやすさ」と表現した方が近いかも。本来の意味でのUX=総合的な顧客満足は双方向が重要なことは皆知っています。でも双方向がコストであることも知っています。何か方法は・・・あっ、こんなシステムがあればっ。

JECCICA特別講師

JECCICA特別講師 笹本 克

全国各地で有名ネットショップを輩出。自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。


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