リピートアクセスを考える
スマートフォン(以下スマホ)ユーザーの増加に反比例して、PCからのアクセスは減少しています。様々な統計の数値をグラフにすると、かなり綺麗なゆるやかな右肩上がりの直線と右肩下がりの直線になっています。このグラフが示していることとは、この事象が社会的に見ての大きな動向であり今後もほぼ同じ傾向が続くことはまず間違いないということでしょう。一方で商品やユーザー属性(=特徴)から考えれば既にPCユーザーはゼロでもおかしくはないECサイトでも、一定の割合でPCユーザーが存在し続けている様です。この事象をどう捉えるべきなのでしょうか。
ECサイト運営者としては「多数を占める」スマホユーザーに焦点を置いてサイトや付随するサービスを練り上げていく方向に向かうのは当然かと思うのですが、ここで少し考えて頂きたいのです。皆さんのサイトにPCで訪れるユーザーは「スマホを持っていない」からPCでアクセスしたのでしょうか。あるいはパケット代を節約するためにPCを使ったのでしょうか。
ごく普通に考えれば、PCユーザーの多くがスマホを持っているかと思います。またパケット代などについても定額制などが普及しています。動画などの情報サイズが大きいコンテンツを除けば、一般のサイトを閲覧する程度の通信量をスマホユーザーは気にしていないと思うのです。つまり現在のPCユーザーには敢えてスマホ「ではなく」PCを使ってアクセスした人が含まれている可能性が充分にあり、また「敢えて」ということは、何らかの目的があってPCを使ったと考えるのが自然かと思います。
スマホはPCに比べて表示画面が狭いデバイスです。およそPCの1/9から1/6程度のスペースになります。スマホは文字サイズも小さくなっていますが、一般的に表示される文字の大きさはPCの3/4程度です。つまりPCサイトの1ページ分のコンテンツを閲覧するには4.5~7.5倍のスクロールまたは他ページへのリンクタッピングが必要となるという計算になります。従って仮に通信環境が良好でサイトの表示速度はPCと変わらないとしても、一定量のコンテンツを見て回るには不便なデバイスです。
一方でネットショッピングにおいては「商品比較のステップ」を経てから購入に至るのが普通かと思います。もちろん同一のショップ内においても、商品と価格のバランスを見ながら「最終的にどの商品を購入するか」を選択するというステップは不可欠です。この商品の比較検討のために表示画面が広い「=一覧性の度合が高い」PCを敢えて使ったと考えることはできないでしょうか。
スマホとPCは異なるデバイスであり、会員ログインなどのアクションを起こしてもらわない限りは同一ユーザの「再来訪」というデータを取ることはできません。精度の低い推定値であればオートログインのユーザーと手動ログイン(?)のユーザー比率を割り出し、さらに自動ログインユーザーの複数デバイスでのアクセス比率を割り出せば一応算出することは可能ですが、これも自動ログインユーザーとログインしないユーザーがほぼ同じ比率で複数デバイスを使っているという前提が必要な上に、新規ユーザーについてはデータの取り様がありません。
従って、あくまで仮説の域を出ないのですが、
商品やユーザー属性から考えればスマホとの親和性がかなり高いECサイトにも関わらず、あえてPCでアクセスして来たユーザーは、数は少なくてもポテンシャルが高いユーザーである可能性が高いのではないか?
と思うのです。仮に通勤途中などにスマホでザッピングしながら「候補」のショップあるいは商品群に「ある程度」のアタリをつけた後、PCで再来訪して商品や価格についてじっくり比較検討しながら「最終的に選ぶ」というユーザーがPCユーザーに高い割合で含まれているとすれば、ユーザー数が少ないからと言ってPCサイトをおろそかにすることはできないと思います。たとえば電話やメールなどでショップに「お問い合わせ」頂いたお客様の購買率は、サイト全体の購買率よりはるかに高くなるのが一般的です。お問い合わせ頂いたお客様の購買率が1%以下という様なことはまずないでしょう。特に電話でお問い合わせ頂いたお客様の場合、その購買率は“割”の単位になるのではないでしょうか。また、お問い合わせ頂いたお客様の平均購入買額もサイト全体の平均購入額よりも高額になる傾向にあります。
考えてみれば至極当然な話で、商品やショップに一定以上の興味を持たない限り「問い合わせ」というアクションを取ることはないはずです。言い換えれば「ほぼ最終候補」の商品やショップのみがお問い合わせを受けることができるということになります。仮に「候補になる」というフィルタリングがお問い合わせのお客様における高い購買率と高い購入額の理由であるならば、前述の「あえてPC」のユーザーもその可能性を充分に含んでいるのでは?と笹本は思うのです。この観点から言えばスマホとPCの購買率の差も、スマホユーザーの購買率が低いのではなく、PCユーザーの方にフィルタリングのステップが終わったポテンシャルユーザーが一定の割合で含まれているから購買率が高いと考えることはできないでしょうか。この購買率の差はUIやデバイスの使用環境(ex.通勤途中?)だけでは語り切れない気がしています。
実際の現場におけるデータ分析からすればデバイスごとの購買率は一応計測できるものの、スマホだけしか持たないユーザーとPCしか使わないユーザーが混在するので、同一人物の異なるデバイスでのアクセスの割合を特定することは容易ではありません。スマホでアタリをつけてPCでじっくり検討した後に最終的にはスマホで購入するケースや、PCからの注文でスマホのメールアドレスを入力するケースも少なからず。
従ってデータマインニングからは見出せない“お題“の一つでもあるので対策を要する課題に上がらないとは思うのですが、PCのみでネットショッピングが行われていた時代でも、複数セッション(=再来訪)を経てようやくご購入に至るのが一般的でした。
“買う”という行為は心理学的に見ても相応の負荷がかかることであり、「アナタの選択は最良か?間違いはないか?」という問いを突き付けられた中で“選択”という決心をすることでもあります。ファッション関連や家具、ギフト関連など家族や友人など本人以外の人に「見られる」可能性がある商品であれば「センスや常識」あるいはお金に対するバランス感覚などを問われている行為と同義であり、「無駄な買い物をしちゃった」「あっちの方が良かったな」など購入後の後悔をしたことがない人も皆無でしょう。「これにしようかな」「エイっ!買っちゃおう」「これがいいかなと思ってるんだけど(アナタは)どう思う?」などの発言や飲食店などでオーダーを決めるまでの沈黙は購入に至るまでの心理的ハードルの高さを如実に表しているかと思います。
従って購入を決心するにあたっては「逡巡や相談」=複数セッション(同一のデバイスとは限らない)を経るケースがほとんどのはずです。ごく一部の例外としてTVで話題になったスイーツや人気アーティストのチケットなどや、商品自体は他店のHPで比較検討した後に最安値ショップを探して当店に来訪された場合など、「買う」と決心した後にサイトに訪れるケースがあるだけだと思います。もしもそうであれば、コンバージョン=クロージングの【 手前のステップ 】には必ずと言って良いほど(もちろん同一デバイスの場合も含めて)「再来訪」があるはずです。
リアルの店舗において、例えば百貨店などで「同じ商品に複数回接触」をしているお客様を見かけたら必ずと言ってよいほど「店員さん」が寄ってくるかと思います。キュレーション&クロージングの最大のチャンスであり、これを見逃す様であれば店員さんは存在価値を失うのではないでしょうか。しかしながらまだまだ発展途上のECでは話題にも上らないのは残念です。だからECは20年も経ってもいまだにコンバージョンレートなんていう言葉が残っているのでしょうね。(笑)
前述で「お問い合わせ」頂いたお客様の購買率は“割”の単位になるのが一般的と書きましたが、お問い合わせに対する回答とは、“候補”を絞り込んで購入を決心する「直前」のキュレーションそのものかも知れません。最終的な商品選択をするための情報提供であり提案であり、用途から保管や手入れの方法などまでお客様が持っている様々な不明点&不安要素解消の機能でもあり、これをまさに直前というベストなタイミングで行っているのです。だからこそお問い合わせのお客様は購買率が“割”の単位に達するのではないかと笹本は考えています。(ex.“対話”による安心感の醸成など、もちろん他の諸々の要素も多分に含まれてくると思いますが。)
ECサイトにお問い合わせされるお客様も、サイトに再来訪のお客様も「当店が この商品が 最終候補に残っている」という点では同じかも知れません。このフィルタリングされた後のポテンシャルユーザーに対して(但し、フィルタリング後の“濃度”は若干異なるとは思いますが)全くのノーケアと的確なキュレーションが購買率の桁数を変えている一因であるとすれば、再来訪ユーザーのケアは大切な検討課題かと思います。
ECにおいて唯一「再来訪のケア」に“近い”のは「以前見た商品のリスト」ぐらいかと思います。もちろん一定の効果はあるのですが、ある特定の商品を複数回(例えば午前+午後や数日後に)見に来たお客様を直接ケアしているのではなく、同一店舗内において「どれが良いか」を迷っているお客様に対してリマインドをしているだけに留まっている様に思えます。再来訪ユーザーへのケアについて笹本はいくつかの具体的なアイデアを持っていますが、まだデータ的な裏付けがなく仮説の域を出ないので現時点では「ケアは大切だと思います。」と言うのに留めておきたいと思います。
ご購入頂くまではお客様の姿が見えないのがECではありますが、キュレーションまでには至らなくても同一デバイスで再来訪されたお客様にはせめて挨拶ぐらいは行いたいものですねっ。♪リアルの店頭であれば「ベストなタイミングでの“お声がけ”」は基本中の基本かと・・・。
JECCICA特別講師 笹本 克
全国各地で有名ネットショップを輩出。自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。