通販サイトにおける新たな方程式の必要性 vol.6
CRMは施策ではなく関係性づくり
1. はじめに(前回の振り返り)
前回は、お客様が無意識に求めている「元気・感動・繋がり・安心」の4つの価値について紹介しました。今回はそれらを1回きりで終わらせず、継続して届けていくための手段、俗にいうCRMの基本をお話しします。CRMとは、LTVを上げるための分析や自動化のことではなく、「また来てほしいあの人の顔を思い浮かべて、どう関係を育てるか」を考えることです。
2. CRMの前提:施策を見るな、顧客を見よ
CRMと聞くと、「顧客情報の管理」「LTVの最大化」「数字の分析」などを連想する方が多いかもしれません。しかし、本質はそこではありません。CRMとは、「顧客との関係を育てること」です。
施策をやることが目的になると、LTVや数字だけを追いかけてしまい、本来のお客様の喜びや再来訪の理由が抜け落ちます。CRMがうまくいく会社は、「このお客様にもっと喜んでもらいたい」という純粋な動機で行動しています。
CRMがうまくいく思考:
顧客に喜んでもらいたい → ファンになってリピートしてくれる
→ その結果LTVが上がる
CRMが失敗する思考:
LTVを上げたい → そのためにCRM施策をやる
→ お客様が見えなくなる
3. ベーシックな3つのCRM
ここでは、CRMの原点に立ち返りながら、3つご紹介します。
① メンバーインセンティブ ― 「次も来たい」と思ってもらう
CRMの基本は、「また来たくなる理由」をつくることです。その第一歩として、会員だけの特典や、限定の体験を設計することは非常に効果的です。
メンバーインセンティブのポイントは、「割引の有無」ではありません。お客様が「私はこのお店の一員だ」と感じ、喜んでもらえるような心理的な帰属感をどう伝えるかが重要です。
●特別感:誰でも受けられる特典ではなく、あなただけを伝える
●タイミング:初回購入直後や誕生月など、気持ちが動く瞬間に伝える
「また来たくなるきっかけ」が、継続利用や紹介にもつながっていきます。
② セカンドアップ ― 最初の1回を続く関係に変える
1回だけ購入して終わる顧客が大半。これはすべての通販の共通課題です。だからこそCRMでは、「2回目の来店をどうすればしたくなるか?」を明確に設計する必要があります。
このとき大事なのは、単に再購入を促すだけでなく、初回の体験の続きとして自然に再来訪してもらう構成にすることです。
●初回購入時に聞いた情報(商品ジャンル・好み)を活かして提案できているか
●リピート導線が自動化されて終わっていないか(人の気配が感じられるか)
セカンドアップは「CRMの入口」であり、ここが抜けるとその先のすべてが崩れやすくなります。
③ アニバーサリー ― 忘れられかけた顧客との再接点をつくる
最後はアニバーサリー。これは、「また思い出してもらう」ための王道です。誕生日や購入記念日、初来店から半年など、喜んで貰えるきっかけを見つけます。重要なのは、顧客があなたのお店に呼ばれる理由を感じられるかどうかです。
●大事なことは理由:
ただのクーポンより「記念日だからこそ」という物語を
●送り方はシンプルに:
丁寧な文面と一言の気配りで十分に伝わる
CRMのなかでもアニバーサリーは、心理的な負担や売り込み感が少なく、関係性を再接続するのに最も自然な方法です。
4. まとめ
CRMとは、お客様との関係性を育てていく営みです。
そしてその出発点は、「どうすれば、あの人に喜んで貰えるか、また来てもらえるか」を本気で考えることにあります。
複雑なツールは不要です。
大切なのは、「人に思い出してもらう仕掛けを、人の気持ちで設計できているか」。これがCRMの本質です。

JECCICA理事・講師 豊島 恵太
EC得意分野/食品通販支援
大学卒業後、照明メーカーを起業。2013年、株式会社Eストアー入社。サポート、セールス、コンサルタントを経験し、現在は企画設計室のマネージャーとしてECの未来を作る活動
を行う。