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5~10年後のEC市場規模予測に無謀にもチャレンジ

私は縁があって経済産業省の電子商取引市場調査を2014年~2020年にかけて7年連続で担当させていただく運に恵まれました。この間、取材やディスカッション等で実に多くの方々との交流があったのですが、その際最も多かった質問が「日本のEC市場規模はどれくらいまでいきますか?」というものでした。日本の個人消費は約280兆円前後、そのうち物販系消費は150兆円前後で長年推移しており、今後大きな拡大は望めそうにありません。したがって右肩上がりのEC市場規模ではあるものの、いつかはピークを迎えるでしょう。しかしEC市場は常にアクティブな話題で賑わっており、未だ熱気を帯びた業界です。そのような状況下、先のことを予測するのはとても困難ですので、私は毎回返答に窮していました。しかし今は同省の調査からは離れた身となっています(2021年分は担当しないという意味です)。一息ついている今、ふとこの質問を思い出し、無謀にもこの質問に正面から挑んでみたいと思い立ちました。やや主観的な前提を置きながら予測を行います点、予めご了承いただきますと幸いです。ちょっとした読み物として気楽な気持ちでご一読ください。

これまでのEC市場規模の推移
ここでは国内EC市場規模を、物販系BtoC-ECの市場規模として話を進めます。次のグラフは物販系BtoC-EC市場規模の経年推移を表したものです。2013年は5兆9,931億円でしたが、7年後の2020年には12兆2,333億円にまで市場規模が拡大しています。つまり、7年間で約2倍になった計算になります。

国内物販系BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)

出所:電子商取引実態調査における電子商取引に関する市場調査(経済産業省)の平成26年度から令和2年度分の別紙報告書に記載のデータをもとに作成

尚、2021年の市場規模ですが、同省の調査を今回は担当していませんので、私の個人的な予測で申し上げます。市場規模推計に必要な様々なデータを見ていますと、凡そ10%前後の伸長率となるのではと予測しています。仮にちょうど10%の伸長率との仮定を置いて計算すると、2021年の市場規模は13兆4,566億円となります。

同期間内のCAGRと2025年までの予測
長期トレンドを把握すべく2013年から2021年までの8年間のCAGR(年平均成長率)を算出してみましょう。計算すると10.6%になるのですが、コロナ禍での巣ごもり消費の影響を考慮し、同期間内の前半の4年間(2013年~2017年)と後半の4年間(2017年~2021年)に分けてみます。そうすると前半は9.5%、後半は11.8%となりました。続いて2022年以降の予測です。今後の市場規模の押し上げ要因として「巣ごもり消費によるECの定着化」「未だEC市場への取り組みに本腰ではない企業も多く、伸びしろがある点」が挙げられます。一方、市場規模拡大の抑制要因は「2021年は前年の反動が響いている企業が多く見られ、今後について不安あり」および「そもそも日本はリアルの店舗網が充実し流通構造がリアルを前提に最適化されている点」と私は考えています。ここでは後者の方が少し強めと考え、上と同様に4年間分の算出として2021年~2025年までのCAGRを2013年~2017年のCAGR値と同じ値で計算を試みます。この前提で市場規模を算出してみたところ、2025年の市場規模は19兆3,461億円となりました。その後やや弱含みで7%成長と予測すると、2026年は20兆7,003億円、2027年は22兆1,493億円になります。同年の個人消費全体を現状と同程度と仮定すると、2027年のEC化率は22兆1,493億円÷150兆円で14.8%となります。

前提を置いた上での2027年までの予測値(単位:億円)

2027年~2032年がひとつの節目では?
私はこの2027年が市場規模拡大においてひとつの節目を迎える年ではないかと考えてみました。というのも、2027年という年は楽天市場がスタートした1997年から起算し30年にあたる年であるためです。他業界の例としてコンビニ業界を見てみましょう。国内のコンビニ1号店はセブンイレブンが東京の豊洲に1974年に開設した店舗です。そこからコンビニ市場は右肩上がりの成長を続け、2019年に約12兆円でピークを迎えました。1号店開設から45年です。コンビニの場合、市場規模拡大には物理的な出店が必要不可欠ですが、ECは参入のハードルが物理店舗より低いので、市場規模拡大のペースはコンビニ業界より速いように思われます。したがって、楽天市場がスタートした1997年を起点に30年~35年後の2027年~2032年がひとつの節目の期間と今回私は捉えてみました。ただ決して市場規模が縮むのではなく、緩やかな成長とともに成熟したEC市場に移行する期間と考えられるでしょう。

成熟市場で起こることは何か?
先が見通せない中で仮定を置きながらの予測ですが、本稿の結論として「2027年に市場規模は約22兆円、EC化率は約15%」とし「2027年以降は緩やかな成長とともに成熟市場へと移行」とさせていただきます。ここで話が終わるとやや味気なさが残ります。最後に2027年以降の成熟市場で起こり得ることについての予想を述べます。1点目は「成熟市場とは何か」ですが、壮絶な入れ替え戦が常に生じている市場であると思います。換言すれば、消費者の要望や時代の変化に沿って、企業間の戦いが今以上に激化するという意味です。今も既にそのような状況下ですので、さらにレベルが上がるということでしょうか。2点目はEC化率が15%になると、さすがにマクロ経済上ECが無視できない存在になります。ECはリアルよりも情報の非対称性を解消しやすいものですので、ネット上での過激な値引き合戦によって、結果的にECがデフレの温床になることを私は危惧しています。ECが日本の経済成長の悪者にならないよう注意を払わないといけません。これにはメーカー、卸を含めた流通構造全体が、ECの要素を取り入れてあらためてどうのように最適化されるかがキーと私は考えています。最後はSDGsです。これから先、不可欠なテーマですね。イタリアのとある研究者が、ECはCO2排出量を10~30%削減させる効果ありと発表している論文の概要を目にしました。本当なら素晴らしいことです。加えて個々の事業単位でもサステナブルなビジネスがEC上で展開されることが期待されます。実際、米国ではEC上でサステナブルな取り組みが既に広く行われています。SDGsがEC市場活性化の重要ファクターのひとつになることを個人的に強く期待しています。いかがでしょうか?主観も交えた予測ですが、気楽な読み物として楽しんでいただけましたら嬉しい限りです。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 本谷 知彦

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役


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