ECの知見が活きて、年商20億円超えレンタル事業の奮闘記
ブルーオーシャンで伸びると言われたはずが・・
企業がスケールする時には何が必要なのでしょう。今日、紹介するのは、モバイルプランニングという会社についてで、それを考えます。彼らは、Wi-Fiデバイスを「レンタル」することを生業にしており、他にはないビジネスモデルのおかげで、「自由さ」を突き進み、独立独歩で成長することができました。
遡れば、この会社の創業は通信の自由化が行われた時代。MVNO事業ができるようになって、企業はそれらをどう活用すればいいのか。それについてのコンサルタントをしていたのが始まりです。その後、NETAGEという会社を買収し、それはWi-Fiを個人にレンタルする会社でした。
このマーケットは「熱い!」。そうして彼らはブルーオーシャンといわれた、その事業をテコに会社を伸ばそうとしました。でも当初は、赤字続き。白羽の矢が立ったのが、偶然、この頃、入社した渡邊真利子さん。社長の古賀広幸さんから言われたのは、売上を上げろの一言だけ。それ以外は一切、口出ししませんでしたが、それがプラスに働き、最大の立役者となって、今や執行役員です。
ただひたすらエクセルで処理をしていく日々
そもそも、自社サイトは存在していました。しかし渡邊さんはまず、楽天市場などに出店して、その裾野を広げようとしました。ところが大きな問題は、モールはあくまでも「売るため」の仕様であるということ。結局、彼女が各サイトを横断して、裏側を全てエクセルで管理していくことになります。
でも、怪我の功名と言おうか。逆にECにとらわれず、独自のやり方でビジネスモデルを確立することになって、赤字続きから脱却することになります。いわば「自由さ」を強みに躍進したわけです。
月々、500万円程度の売上を見込んだものの、瞬く間に月次で2000万円の売上に。2016年には、2億9000万円だった売上は、2017年に4億67000万円、2018年には6億3700万円と右肩上がりを辿ります。
ただひたすらエクセルで処理をしていく日々
ブルーオーシャンなのは本当で、頭打ちになる気配がない。とは言え、もう会社としては伸ばすのが限界でした。属人的になりすぎたからです。特に、顧客ファーストの姿勢は、親身な対応ということで、安心感となり、強力な差別化要因となっているから、尚更です。
また、売上はエクセル管理により、独自のやり方で伸びたわけで、いまさら、それを自動化するなど、現実的ではありません。結局、ECという枠組みにとらわれないから成長したのに、ECという枠組みでないから答えがなく、成長が頭打ちになったのです。
実は、その時期に出会って解決を求めたのがUZENでした。なるほど。UZENは元を辿れば、同じ自社ECのプラットフォーマーに関わっていた人が多く集まって、志を共にしています。大事なのは、ECを大事にしつつも、ECにこだわっていないことです。
その対象企業がどこであれ、利用者の使いやすい環境が、実は、ECの専門性を駆使することで、柔軟に、具現化できるのではないか。その姿勢が根底にあります。まさにレンタルは、その姿勢に合致していました。
無茶振りも紐解けば解決する
言うは易し行いは難し。属人化した仕組みに対し、どう梃入れしたのでしょう。
細かなところで言えば、請求書がそうです。他と同じく、PDFで発行しますが、「このレイアウトじゃ使えない」といわれれば、企業ごと修正したといいます。すると、ありとあらゆるタイプの請求書が存在して、これを仕組み化するのは手に負えません。
サイトの運営側もわからないから、そういう多種多様になった請求書を「システムからExcelで出せないだろうか」と訴えかけるわけです。
ところがUZENとしては「それができません」。システムでは通常、初期にどこの部分を修正するかを定義しないといけないから、それが難しい。だとしたら彼らは「それらをデータで出してみてはどうか」と提案したと言います。
要するに、この出力されるデータが、エクセルの対応している項目に沿っていれば、あとはスタッフがそれを、エクセルに当てはめるだけでいいのです。データを出せば、一発で、迅速に、その請求書を作ることができます。ものの1秒。システムで寄り添える事と、人力で寄り添える事の落とし所を見たわけです。
渡邊さんの言葉が印象的です。「『うまくいっていなくて、いい感じにします』という人がいますが、それは一番信用できません。なぜなら、『通信のことも知らない。』『レンタルのことも知らない。』なのに、どうやって『いい感じにする』というのですか?」と。
これはほんの一部。つまり、属人化の強みを尊重しながら、ECの知見を取り入れ、その企業にある課題の本質を解決して、結果、20億円超えを果たしました。「自由さ」は差別化となり、有益にもなりますが、レベルを越えれば、「不自由」になります。
そこがスケールの難しさ。自由と不自由の間の落とし所を探ることにこそ、答えがあります。顧客接点がその企業のブランディングに直結するこの時代、こういう企業間の関係性のあり方が今まで以上に重要な要素になりそうな気がしています。
JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役