===ネットこそ「やってみなはれ」 偉人の名言に学ぶ===
今まで笹本が講演などの機会に受けた質問の中で、一番多かったのは「ネットビジネスの最大の特徴は?」でした。そしてこの質問に対しては「リアルのご商売に比べれば、信じられないぐらい安いコストで何回でも失敗ができること」といつでも答えています。ちなみに十数年前から全く同じ返答をしています。
例えば、家族経営のパン屋さんを「やってみたい」としましょう。
先に申し上げると、パン屋さんの原価率は23~35%程度と言われます。全てのパンが売り切れれば1個当たりの原価率は15~25%程度になるかと思いますが、実際には売れ残り分の廃棄や値引き またパンを焼く釜の光熱費などを加味すると前述の原価率になる計算です。
さらに開業するとなれば、礼金敷金に内外装工事 厨房機器などが当然必要になるので、開業には一般的には750万円~2千万円程度の資金が必要となると言われています。とすれば、日商4万円、月商で120万円程度は必要で、月粗利80万円弱の中から開業時のローンを20万円払い、夫婦2人が働いて60万円が家族の収入になるから・・・日商4万円の構成は平均140円の惣菜パン150個で2万1千円、ドリンク類が・・・
リアルのご商売は、開業するなら「まずは金融機関と相談」というのが【 普通 】かと思います。かなりの資金をつぎ込むのですから、充分に検討を重ねてから実行に移すのもごく当たり前のステップだと思いますし、商圏人口やライバル店の状況といった「様々な調査」も必要になるでしょう。そしてその調査結果から ターゲットやコンセプトと言ったものまで導き出す必要があるかも知れません。
いずれにしてもリアルのご商売は、様々な情報を得て、充分に検討し、さらには確認や納得 というところまでたどり着いた後に開業「=資金を注ぎ込む決断」をするのが一般的かと思います。
笹本は ECにおいても最近は「リアルのご商売」と同様に商圏の状況推移や経済動向などのマクロ的な視点まで必要になってきていると思っています。調査分析とデータの充分な解析、あるいはターゲットやコンセプトと言った部分はリアルのご商売に比べればEC業界はまだまだ本気度が足りないと思っています。ECの右肩上がりの時期はとっくに過ぎています。そろそろリアルのご商売のごとく、「飽和マーケット」の中で生き抜けるだけの知見が必要になってくるのではないでしょうか。厳しい環境の中では、最善の選択をするべく「様々な情報」を得る必要があり、その上で諸々の判断を慎重に行う必要があると思います。
それでもなお、ECは「やってみなはれ」が大原則だと思うのです。
飽和マーケットの段階に至ると、一般的には淘汰が始まります。そして(理由は分かりませんが)淘汰の段階に至ってから、目に見える形での「ある種の淘汰を伴う新機軸や業態変更」が始まるのです。スーパーマーケット業界からコンビニが生まれたり、薬屋さんがドラッグストアになってお菓子や飲み物を売る様になったり、喫茶店がカフェチェーンになりテイクアウトという商習慣が生まれたり、あるいは専門特化型の店に業態変更したり・・・という具合です。
EC業界を例にとれば、(一例に過ぎませんが)従来からオークションやモールなどは「存在していた」にも関わらず、メルカリ(フリーマーケット形式のC to Cプラットフォーム)やminne(ハンドメイドアイテムに特化した販売プラットフォーム。気に入った作家をフォローなどのSNS的要素を多く持つ)など、新機軸と言うべきか業態変更と言うべきかは迷うところですが、従来の需要分析という手法ではたどり着けないニーズをつかんだECプレイヤーなどが出現しています。
ここで読者の皆さんに少し考えて頂きたいのですが、メルカリやminneなどを「開業」しようとした段階において、商圏分析や需要予測ができたでしょうか。あるいは事業計画を立てることができたでしょうか。「現時点では存在していないマーケット」というテーマを狙ったプランですから、当然ながら「参考となる過去のデータ」というものも存在していないのです。
つまり開業しようとした段階では、きっとヒットするという「憶測」あるいは「根拠を持たない自信と熱意」の他には何もないという状態であったかと思います。 そして「やってみたところ」憶測通りの あるいは憶測を超える規模のマーケットが存在していたという図式ではなかったかと思うのです。
LINEもフェイスブックもインスタグラムも、あるいはグーグルやアマゾンも、「設立当初の段階」ではマーケット自体が存在するかどうかも分からなかったのではないでしょうか。
ネットビジネスの場合、シェアの逆転は容易ではありません。「業種1番サイト」が増々伸びて、2番手以下との差がどんどん開いて行くという形が一般的で、仮にシェア2番手サイトが業種1番サイトに無い機能や特色魅力を持っていたとしても、シェアの逆転に至るまでには相当の年月がかかります。
過去の様々な事例を振り返ってみればお分かりになるかと思いますが、検索におけるヤフーとグーグルや書籍販売においてのアマゾンと楽天ブックスなど、検索結果は「同じ」扱っている書籍の数は「同じ」です。
(re:厳密に言えば 違う とおっしゃる読者の方もいらっしゃるかとは思いますが、それはさておき・・・)
例えば書籍の場合、商品ラインアップが「同じ」なのですから市場を二分する形になってもいいはずなのですが、ざっくり言えば 書籍はアマゾンという「認知度」対 カードや旅行の予約などでも溜まる「ポイント」の楽天 という様な構図をそのまま表すシェアになっているかと思います。
検索で言えば、ヤフーはグーグルの検索結果を「引用」しているのに過ぎないのですから検索のシェアはグーグルが9割以上になってもおかしくないはずなのですが、ヤフーという看板の認知度はいまだに大きく、シェアが減ったと言えども約3割は現在もヤフーで検索しています。業種1番サイトの「看板」は、仮にそれが過去のものであっても、これほどまでに強いのです。
設立当初の段階では市場規模の予測や事業計画が立てられない「プラン」とは、逆の視点から見れば業種1番サイトになり得る可能性があるということでもあります。一定以上の「体裁」が整っていればサイトを存在させた時点で「業種1番サイト」になるということです。そして一定の期間を経て世間一般での「認知度」が進めば、永遠ではないにしてもかなりの長期に渡って機能する強烈な資産になり得るのです。
やはり「やってみなはれ」ですねっ。(笑)
もう少し身近な例で同じ話をしてみます。
ネットショップのイメージカラーを赤から青に「変えたい」と なんとなく思ったとします。その時点では根拠も過去データもありません。今まで赤だったのですから、青にした時に参考にできるだけのデータは存在しないのです。
これに気づいた段階で、多くの“賢い“ショップオーナーは、様々な情報を得てから充分に検討すべく・・・、
「理論やノウハウなどから言えば、赤は興奮させる色で、ユーザーに行動を起こさせやすい色で、一般的には高級な価格帯の商品には合いにくいと言われ、青は・・・」そして 最終的に「最適解」を導き出すという
方法を取られるかと思います。
しかしながら、これも「やってみなはれ」だと笹本は思うのです。“賢い”必要は全くないかも知れません。
冒頭で「 信じられないぐらい安いコストで 何回でも失敗ができること 」これこそがネットビジネスの最大の特徴と書きましたが、赤から青にして⇒「データの検証」をしてみて⇒もしも結果が悪ければ⇒「元に戻せばいい」これだけの話です。そして仮に、平均顧客単価は向上したけど購買率は下がった など何らかの「特徴」が見受けられたらば、その時に初めて「理論的な勉強」をして「いい所取り」ができる方法「さらなる最適解」がないかどうかを考えてみれば良いのではないでしょうか。
実は、商品画像や検索広告のコピーなどのABテストも「安いコストで何回でも失敗できる」=「仮にTRYの結果が悪くても、TRY前に戻せばユーザーの反応も元に戻る」のであるから、とりあえず「やってみて」「良い方を採用すればいい」というごく簡単な原則に基づいています。この考え方は商品画像やコピーなどのコンテンツだけにとどまりません。レイアウトデザインやコンセプト、あるいはターゲットや価格帯、決済関連やショップルールなどまで、ほとんど ありとあらゆる事項に適用できます。
「ex.数日間送料無料にしてみたが購買率がそれほど向上しなかったので やっぱり送料無料をやめた。」
「最適解を導き出すために 送料無料にした際の反応度のグラフから経済学における最適消費点を導き出し
送料無料価格を設定し・・・」どちらが本当に“賢い”でしょうか。
「やってみなはれ」偉人の名言はスゴイっ♪
JECCICA客員講師 笹本 克
全国各地で有名ネットショップを輩出。 自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務める。 DeNA社やYahoo!Japanショッピング事業部スタッフへのレクチャーや、ドリームゲートの起業講座の他、上場企業から中小企業までコンサルサイトの累計は約600社、多岐にわたる業種でのコンサルティング実績も豊富。