売上はいつ創られる?購買導線的な考察
JECCICA特別講師 笹本 克
「昼飯何にしようかな?」
商圏エリアの潜在ユーザーがこの様なデマンド(欲求)を持った時点で、ニーズ=市場が”生成”されます。
そしてこの段階から、潜在ユーザーをいかに顧客として取り込み、売上に繋げられるかという競争が始まります。
飲食店同士の競争だけでなく、コンビニ対飲食店あるいはデリバリーサービスや自前のお弁当など、幅広いジャンルのメガコンペティションです。
ここで少し深く考察を加えてみたいのですが、以下のシチュエーションについて、
- どの段階で
- お客様は何を選択し
- どこで売上が決定づけられたのか?
を考えてみて下さい。
A)ちょっと寒いし、昼飯は麺類がいいかな。
B)牛丼屋の隣にあるラーメン屋を見つけ、
C)そのラーメン屋に入って、
D)メニューと値段を見て、
E)ミソラーメンを注文した。
このラーメン店からみて、売上が確定したのはE)の段階ですが、売上が決定づけられたのはC)の段階です。
リアルの飲食店の場合、ネットショップと異なり、お客様が入店してからの直帰や離脱の割合は非常に低く(もちろん満席だったりナイトスポットなどでのシビアなチョイス?(笑)などの例外はありますが。)お客様が何を注文されるかは後から決まるのですが、着席した時点で「ウチの店」で「何かを」注文してくれることはほぼ決まったと言えます。
では、仮にこの店のラーメンが「美味しくない」ものであったとした場合、売上に影響があるでしょうか?
上記のシチュエーションであれば、その答えは「でも売上には影響がない」ということになります。
一般的には、美味しくないから代金を払わないということにはならないからです。
「二度と来ない」と固く決意をしつつも、ラーメン代を払ってその店を出て行くという行動をとるかと思います。
では、D)の段階で、おおよそ600円~700円ぐらいと予想していたラーメンの値段が、850~1200円だったらどうなるでしょうか。
ごく一部のお客様は席を立って退店する場合もあるかと思いますが、多くのお客様は「ちょっと高いな」と思いつつもそのまま注文してラーメンを食べるかと思います。
また、D)の段階で、「できればトンコツラーメンがいいな」と思っていたお客様がいたとして、メニューにトンコツが無かった場合、席を立って退店するでしょうか。
やはり一般的には「ま、いいや」と妥協して、代わりにex.ミソラーメンを注文すると思います。
よくある日常の一コマですが、この話、相当にヤバイ(笑)と思いませんか?
だって、C)の段階って、まだお客様としは商品も価格も具体的には見ていないし、決まっていない。
さらに商品のクォリティーも分からないのに、店側から見れば売上が決定づけられているんです。
この話をさらに掘り下げると、一所懸命に美味しいラーメンづくりをして、(=クォリティー)いろいろと努力をして価格(=プライシング)も頑張って・・・というごく一般的な努力は、一義的に言えば売上の創生時点では「全く関係がない」ということになります。
もちろん「高いし美味しくない」のはリピーター化や口コミなどには大きく影響をおよぼしますが、それは一度食べた「後」の話。
食べる前に注文(=売上の確定)がされています。
そして食べた後でなければ、「美味しくない」ことさえ分からないわけです(笑)
これからも一回だけのお客がドンドン訪れることが期待できるなら、美味しくなくて高いラーメンでも売上は立つので店はつぶれません。
これ、とっても不思議に思えませんか。
さて、上記D)の段階を考えてみましょう。
ここで初めて「商品の選択」がなされたわけですが、この時点でも摩訶不思議なことが起こっています。
メニューに「ミソラーメン850円」と書いてあって、価格と商品のバランスを見ながらお客さんは商品の選択をしたわけですが、文字だけで書かれているメニューだけでは「どんなミソラーメンなのか?」が分かりません。
太麺なのか細麺なのか、ニラが入っているのか、ゆでたまごが入っているのか・・・ミソ味であることとラーメンであること以外は全く情報がないのです。
それでもお客さんは注文をしました。商品の選択を確定させました。
もう少し言えば600円~700円ぐらいを予想(期待?)していたにも関わらず、850円のラーメンを注文しました。
また、トンコツラーメンがいいかなと思っていたにも関わらず、その選択ができないと分かると妥協してミソラーメンを注文したのです。
よく考えるとやはりこれも不思議な話です。
以前のコラムにも少し書きましたが、この不思議な購入シチュエーションを購買導線の基本「=お客様の気持ちの順番に沿って」でブレイクダウンしてみます。
このシチュエーションの「発端」のデマンド(=欲求)は、「お腹が空いた。何か食べたい」または、「この時間に何か食べておかないと後でお腹が減る」です。
後者の場合、実は今お腹が空いていなくても、「とりあえず今」食べておくという選択をしたわけですが、これはお昼の時間を過ぎると食べに行けないという「制約に気づいて」今現在は持っていない欲求にも関わらず、食べておくという行動をとりました。
あっ、何かに似ていませんか。
通販のついで買いも「今しか買えない」「別々に買うと送料がかかる」などの【制約条件】によってその多くが成り立っています。
実は、様々な制約条件はデマンドを変化させます。
前述のシチュエーションで言えば、このお客様の第一命題は、「お昼の時間帯の内に、腹を満たす」ではないでしょうか。
そしてこのデマンドの元で(購買の)行動選択を行うわけですが、ここには「時間内に(納期)」「予算内に(価格)」という制約があります。
もちろんリアル店舗であれば「移動のストレス」という制約もあります。
寒い雪の中を美味しくて安い店まで歩いてゆくよりは、別段安くもなく美味しくもない食事で妥協することを選択する様な場面は日常的に見受けられます。
制約の中での購買行動には様々なデマンドの変化=妥協が発生します。
前述の場合にはトンコツ→ミソ700円まで→850円という妥協をしたわけですが、それでも「お昼の時間帯の内に、腹を満たす」という第一命題のデマンドは満たされています。
(えっ、リアルの話ばかりじゃなくてそろそろネットの話をしろって?グッチで検索して結局ルイヴィトンを買ったりするお客様や、「お歳暮」や「バレンタイン」あるいは「ギフト」などで検索したお客様のデマンドとそっくりだと思うのですが。この様なお客様の第一命題はなんでしょうか?(笑)また、多くのショップの商品を見て回って比較検討するのが大変(=制約)なのがスマホのお客様では?お届け先が数十件の住所入力も制約では?他にもいろいろ・・・)
では、前述B)からC)に至る段階を考えてみましょう。
デマンドの第一命題を満たす候補として牛丼屋とラーメン屋が目に入った時、このケースではラーメン屋を選択したわけですが、仮に「麺類がいいかな」と思っていたとしてもex.友達が牛丼を食べたいと言ったり、あるいは近くに牛丼屋しかなかったとしたらどうでしょうか。
たぶんそのまま牛丼屋に入ったと思います。
この段階での「麺類」は一応のデマンドを表すキーワードですが、かなり容易に変更/場合によっては撤回されてしまうものになっています。
ただし、何か食べたいという大変曖昧なところから、初めて「麺類」という商品カテゴリが導き出された段階でもあります。
ネットで言うならば、「やっと検索ができる状態」にたどり着いたわけです。
とりあえず検索してみて、入店候補を抽出したぐらいのステップとでも言えるでしょうか。
更されてしまう程度のものでした。(友達=たとえばSNSのコメントとか?)
さて、ex.ティファニーシルバーネックレスという検索KWのユーザーはティファニー以外は駄目なのでしょうか。
ゴールドのイヤリングには興味が全くないのでしょうか。
仮に第一命題のデマンドが、彼女に喜ばれるプレゼントであったなら、ティファニーシルバーネックレスのお客様にも花束をご購入いただけるチャンスがあるかも知れませんねっ。
前述の牛丼屋さんが花屋さんの立場ってことです。
それでは本題に戻ります。
C)の段階において売上が決定づけられたと言えるならば、このシチュエーションの場合において、売上を創った一番直接的なモノとは何でしょうか?
リアルのケースだけ笹本としての答えを書いておきますね。(答えはたくさんあると思います。)
立地と環境(=寒いし)という「制約条件」もありますが、実は「店構えが【暗喩】する商品群と価格帯」これが入店を決定づけた=売上を決定づけた一番直接的なモノではないでしょうか。
商品を選択し注文を確定させるのはその後の話。
これをネットショップで例えるとすれば?
具体的にどうすれば売上につながるのかな?
読者の皆さんもご自身でいろいろ考えてみて下さいね。(^0^)v
(こんなヒントがいっぱいあるから街歩きが大好きです。)
〈 JESSICA NEWS Vol.33 掲載 〉
JECCICA特別講師 笹本 克
自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。