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オムニチャネル雑感

9月16日のオンラインディスカッションはオムニチャネルがテーマでした。私はオンラインで視聴しましたが本テーマについてはいろいろと思うことがあり、雑感という形になりますが以下ご参照いただければ幸いです。

マーケット予想の観点
2021年の国内物販系BtoC-EC市場規模は13兆2,865億円、EC化率は8.78%、前年比8.61%の伸びです。直近5年間のCAGR(年平均成長率)は10.67%ですがコロナ特需の影響を独自の試算で除けば8.29%。2022年はコロナの反動が厳しく2021年比で伸び率は5%前後とみています。2011年→2016年のCAGRは11.67%ですので、EC市場は成熟化の道を辿り始めていると言えます。経産省のEC調査を長年担当し引き続きマーケットをウォッチしている者として今後の成り行きを危惧しているのですが、このペースだと2030年頃には20兆円でピークを付けるかもしれません。つまりEC市場が拡大しない中で今後チャネル戦略をどのように考えるべきなのかが大切になります。関与する方々がそのような観点を共有しオムニチャネルが議論されることを期待します。

レイヤーの観点
私はEC事業推進のフレームを「1. 戦略」「2. MD」「3. チャネル」「4. マーケティング」「5. IT」「6. 業務オペレーション」「7. 体制」のレイヤーで捉えています。オムニチャネルはチャネルという言葉が入っていますので一見「3. チャネル」レイヤーの議論の様に思えますが、実際の論点は他のレイヤーも含まれます。しかしながら私だけかもしれないのですが、捉え方によってはオムニチャネルという用語が独り歩きし、議論を参考にしたい受け手側が事の本質を矮小化して捉えてしまうケースがあるかもしれないと思うことがあります。オムニチャネルの本質的な議論はとても重要と思う一方で、言葉遊びにならないように留意する必要があるように思えます。

立ち位置によって変わる見方
オムニチャネルに類似する用語として、マルチチャネル、クロスチャネルというものがあり、加えて最近はOMO(Online Merges with Offline)というものがあります。それらの違いが何なのかについて丁寧に解説してあるサイトがあり、確かに同じではなさそうだと一様に納得するでしょう。しかしながら誤解を恐れずに言えば、経営トップの方々の中には「店舗でもECでもどちらでもよいので、とにかくチャネルが上手く組み合わさって売上をあげて欲しい」と考え、それぞれの違いについてはさほど気にしていない経営者が多いのではと推測します。つまり立ち位置によってオムニチャネルの見方は変わると考えます。

消費者の購買行動の変化
消費者の購買行動モデルについてはAIDMAのようなシンプルなものから、EBMモデル (Engel, Blackwell, Miniard Model)のような学術研究に至るまで様々あります。また行動経済学の観点で言えば、例えば利用可能性ヒューリスティクスやアンカリング等消費者の意思決定に関与するバイアスに関する議論もあります。ところが近年Googleが消費者の購買行動に関し「バタフライ・サーキットモデル」「パルス型消費行動」を提唱しています。これらを見ると消費者の購買行動パターンが事前に予測できるものではないことがよく理解できます。詳しくはWebを検索頂ければと思いますが、私はこれがネット社会において最もフィットしているように感じています。消費者の購買行動が予測不可能な時代、リアルチャネルとインターネットがそれぞれどのような役割を担うのか、とても難しく感じています。オムニチャネルの議論でも例外ではなく、この点を踏まえる必要性を感じています。

商品特性の考慮
世の中に存在する商品は全て同じ特性ではありません。例えば経済学では商品=財として「探索財」「経験財」「信用財」に分類可能とされています。またアサエルの購買行動類型ではバラエティシーキング型認知的、不協和低減型等4つの型が定義されており、それぞれに当てはまりやすい商品特性が説明されています。この点についても上で述べた消費者の購買行動に関する論点と類似しており、4つの型毎の商品特性を考慮した上でリアルチャネルとインターネットが果たす役割についての熟考が求められると考えています。やや難しい論点ですが無視できないものとしてできる範囲で構いませんので向き合ってみると良いのではないでしょうか。

オムニチャネルの究極のテーマとは
オムニチャネルに取り組む全ての企業が巧みにそれを実践しているとは限らないでしょう。数的には上手くいっていない比率の方が高いのではないかと推察します。どうしても部門間の対立のようなもの、いわゆるカニバリズムが多くあるように思うのですが、それらを解決できるのは経営トップの決断と社内評価の仕組みではないでしょうか。究極的にはこの2点がオムニチャネルの重要テーマであると個人的には思っています。

以上簡便に書き記しましたが、一つひとつが深い内容であり少し分かりづらいかもしれません。上述以外にも書ききれないことがマダたくさんあり、何かの機会にもう少しきれいに整理して文章化してみたいと思っています。オムニチャネルの既存の議論はややオペレーショナルな要素が強い気がしているのですが(私だけかもしれません)、それを補足する上で以上のことを書いてみました。いずれにしてもオムニチャネルの議論は非常に広範囲かつ深いものであり、単なるバズワードで終わらないことを切に願っています。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 本谷 知彦

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役


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