2024年 年頭所感 雨宮雄一
新春を迎え、謹んでご挨拶を申し上げます。
2023年の日本においては、COVID-19の影響もほぼ感じなくなり、沢山の外国人観光客の方もいらっしゃって、街にも活気が戻っました。
一方、世界情勢としては、ウクライナ侵攻やイスラエル・ハマス衝突といった惨状も続き、更に全世界での物価高など、厳しい環境が続いた1年であったと言えます。
EC業界に目を転じてみると、経産省の2022年度「電子商取引に関する市場調査」における「物販系分野のBtoC-EC市場」は、予想通り鈍化し、近年まれにみる低成長(増加率5.37%)となりました。
一方「サービス系分野のBtoC-EC市場」は旅行・飲食・チケットがけん引して増加率32.43%と、COVID-19からの復活を感じ取れる結果となりました。
要するに、コロナ禍で「コト消費」が冷え切ってしまい「モノ消費」にシフトしたが、「コト消費」への揺れ戻しが起きた、と言えます。
2023年も様々な情報を見聞きする限りは、物販系ECの伸びはそれほどでもなく、旅行・飲食・エンタメへの消費シフトが続いているでしょう。
2024年は物流2024年問題も加わり、EC業界にとっては厳しい環境になるのではないかと考えています。
このような中で注目している動向を2つ挙げたいと思います。
1つ目は、昨年も触れましたが、D2Cブランドにみる事業立ち上げのスピードアップです。
我々が支援したD2Cアパレルのエピソードです。
2023年の初めにある著名人から、アパレルブランドを立ち上げたい、服作りのメンバーは揃っているのだが、そこからどうしたら良いのか、という相談を受けました。
そこで、クリエイティブ、販売・EC、バックオフィスの3チームを組成して5月に会社を設立しました。10月には受注会・EC販売を開始し、年末には500件の商品出荷に漕ぎ着けました。
このスピードを実現できたのは、オンライン会議やチャットでのコミュニケーション、SNSでの告知、受注会・EC販売、という事業モデルに集中したことです。
私の経験でもここまでのスピードで一定の事業規模まで到達したことはありませんでした。
もはや1年以内に垂直的に事業を立ち上げるというスピード感で勝負していかないと、生き残れないのかも知れません。
2つ目は、「サブスクリプションサービス」の拡大です。
いわゆる「サブスク」は月次単位の分割払いによるサービス利用が基本形で、○○放題としてユーザーがコンテンツ等を自由に選べる形、事業者側が見繕ったモノが届く形、というように分類されると思います。
デジタルツールは分割払いが当たり前の世界になりましたし、エンタメ(音楽・動画など)も聞き放題・見放題が主流になりつつあります。
2023年に我が社と某書店・ITベンチャーと共同で、専門書電子書籍の読み放題サブスクサービスを開始したのですが、開始当初から数千人の有料会員が集まるなど、エンタメ以外のコンテンツ分野でもサブスクニーズが明らかでした。
また、物販系でもサブスクサービスが広がってきていると感じています。
昔から単品リピート通販は一種のサブスクですが、最近ではECサイト上で販売されている商品を都度購入ではなく定期購入出来る仕組みが、当たり前のように提供されています。
これに加えて、我が家の食材調達においても「見繕い」サブスクの割合が増えており、今はクラフトビールの「見繕い」サブスクにハマっています。
AIの進化にも後押しされ、ECにおいていよいよ「見繕い」サブスクの拡大が期待されます。
上記の通りEC関連の進化はより加速しています。
以下は、毎年唱えている呪文ですが、、、
このような時代だからこそ、「基本を磨く」ことと「進化をする」ことに邁進しなければなりません。また、ショップを支えるサービス提供者側は、ショップの「本質的課題」を解決する一手を提案する必要があります。
JECCIAとしては、「基本」を大切にしながらも「進化」出来るEコマース人材を育成していくべく、引き続き努力していく所存です。
最後になりましたが、皆様方におかれましては、この一年が希望に満ちた躍進の年になりますよう心からお祈り申し上げ、年頭のご挨拶とさせていただきます。
専務理事 雨宮雄一
フォーセンス・パートナーズ(株)代表取締役
パートナー 公認会計士
元HMVジャパン代表取締役社長
元ローソンHMVエンタテイメント取締役
大手監査法人・外資系コンサルティングファームを経て2006年、経営コンサルティング会社 フォーセンス・パートナーズ設立。現場まで入り込み指導するハンズオン型サービスをモットーに、多数の大手流通企業の経営改革を支援。
2008年から3年間、HMVジャパン(現ローソンHMVエンタテイメント)の代表取締役社長を務め、同社の Eコマースシフトを主導。また、ローソンHMVエンタテイメントでは取締役としてEC・CRM・IT部門を統括。
ネットとリアルを融合させた大規模ECの運営に精通。加えて、EC事業のM&Aにも当事者・アドバイザーとして多数関与。EC領域では戦略から運営まで一貫してアドバイス出来る数少ないコンサルタント。