テックの上にリアルが成り立つ新・コンビニ「ローソン」
コンビニも今転換期
我々にとって身近な存在のコンビニエンスストアも、今、変革の時を迎えています。先日、僕は三菱商事、KDDI、ローソンによる記者会見に行き、それを痛感しました。
そこには、時代の流れがあります。三菱商事の場合で言えば、資本業務提携に始まり、子会社化していく時代、サプライチェーンマネジメントの大事さが叫ばれていたわけです。つまり、商品調達の部分におけるインフラを盤石にして、他社との差別化を図ろうとしていました。ところが、2020年前後になって状況が変わってきた。というのも今度は売り方の部分で、リアルそのものが限界を迎えてきたのです。いくらPontaカードがあって、そこでポイントがたまっても、そこでのデータが細かく蓄積されているとは言い難い。個々のお客様に最適な購買体験を提供できていなかったわけです。だからKDDIの存在が徐々に大きくなって、先日、三菱商事とともに2社で、ローソンを子会社化することになりました。その部分で新しいコンビニエンスを模索しようというわけで、会見の影の主役はKDDIといった感じでした。
今まで培った通信での財産をリアルに活かす
では何をするのか。これがよくできているなと思うところです。
そもそもKDDIは長らく、通信事業を推進してきて、継続顧客を多く抱えています。だから、継続に値するだけの信用がある。これが最大の強みなんですよね。だから、彼らはその通信に、金融商材をセットで提案するなどして、ARPUを上げるように努力をしてきたのです。現にKDDIの決算を見れば、それが奏功しています。ただ彼らもまた、それはデジタルの中でしか、その相乗効果を見込めません。
ゆえにローソンの価値に着目しているわけです。そこでその連携における根幹部分となるのが「Ponta」になります。KDDIはローソンを傘下にする前から、自らのサービスを利用するほど、Pontaポイントが貯まるようにしており、これがその土台となります。つまり、既にKDDIのヘビーユーザーはPontaを連携させて、かなりの金額に相当するポイントが蓄積されています。だから、それを日常で使う流れができています。大事なのは、そこで通信を土台としていること。ふらりとくるローソンのお客様とは違い、ある程度の属性は把握できていて、分析するに値する情報は得ているわけです。
要するに、ある程度、顧客情報が特定されているPontaの利用者を土台にして、更に、その付加価値を、リアルのローソン店舗を巻き込んで、求めていく。すると、今度はリアルの行動が、その顧客情報に上書きされて、よりデータの精度が高くなるわけです。
コアユーザーをローソンへと送客し、リアルデータを盤石に
KDDIは、そこを更に盤石にするために、それまで通信のヘビーユーザーに月額548円で提案していた定額制サービスプラン「スマートパス プレミアム」を「Pontaパス」へとリニューアルしました。特典の幅をローソンにまで広げるわけです。具体的には、毎週600円分のローソン各店で使えるクーポンが手に入るなど、定額料金の金額を超える特典を用意して、コアユーザーをローソンへと引き込むわけです。その狙いは通信で培ったコアなお客様のデータがより、リアルとネットの垣根を超えて蓄積されるようになっていくからです。
一方、KDDIは最近、BtoBに力を入れており、AIなどのテックを通してローソンのフランチャイズの店長に向けた支援も行っていくわけです。既にリアルタイムで、値引きのタイミングを決めたり、仕入数などでサポートする「AI.CO」というAIを使ったソリューションは導入されており、店長からの評判も良い。
さらに、それらのテックはお客様の利便性にも向けられていきます。先ほどから言っているように、今後は、よりローソンに通う人のデータが深掘りされた状態で、来店する可能性が高くなっています。だから、パーソナライズデータを駆使して、よりお客様のニーズに合ったものが提案される。スマホなどでレコメンドをすることで、自然と購買を触発するなどして、売上が上がっていくわけです。
通信網の上に成り立つテックがローソンで活かされる
ここまで書いた通り、KDDIが強みとする通信網をより盤石にすることで、その共通化された上に、それらのソリューションを存在させていきます。それらは、共通化されていますから、それぞれの課題に効率よく対処できるわけです。勿論、そこでの柔軟性とコストを抑えられることは、ローソンにもプラスに働く。
改めて、ECが云々という時代ではないことに気付かされます。リアルの店舗は、ECのようなデータに基づく、お客様へのアプローチを続けていくでしょう。そのとき、ECはそこへの備えとして、何ができているでしょうか。
今までであれば、それがネットで買えること自体が差別化要因になっていたり、ネットのテクノロジーの恩恵で購買が生まれていた部分もなくはありません。そういう形で購買が奪い取られていくとすれば、ネットの伸びは限定的になるのではないかと思います。
今のうちからリアル、ネットに関係なく、店自体がどんな付加価値を提供し、誰に対して、どうアプローチすることがベストなのか。それを真剣に考え、経営の中身を徐々に転換していくべきときに来ているように思います。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役