謎のブランド「Temu」は新たな黒船か?
「てむ?」「てぃーむー?」は新たな黒船か?
春ですね。お手元のスマホで「白いシャツ」と検索してみるといかがでしょう。筆者の画面では謎のブランド「temu」が「お上手」に表示されます。お上手というのは、単に上位で画面占有するのではなく、1万円代の上質なシャツ通販会社がチラリホラリと表示される中で、「1,500円」「レビューほぼ満点」と同程度ともとれるシャツで勝負をかけています。ショッピング広告なら、ワンクリック1位で150円くらい、3位でも80円が予想される激戦区です。ユーザ層も、アッパーからロウワーまでと幅広く難しいエリアでもあります。そのような中、謎のtemuさんは日々「白いシャツ」でこれだけ朝から晩まで連日掲載し続けているとは、相当な広告費を投入しているご様子と伺えます。ちなみに正しくは「テム」と読むのことです。
※筆者がtemu本社にメールにて確認。2023/11/ 23
サイトを訪問すると、怪しさ爆裂・即離脱のはずが・・・
とにかく、サイトを訪れると、このようなスロットが登場。いわゆる「日本っぽくない」色づかいなどからローカライゼーションが今ひとつですが、そんなことを気にするユーザは2割として、残りの一般ユーザ8割は「え!さっきのシャツが無料になるの!」とスロットゲームを始めるのがこうしたケースの一般的データ数値です。ということで、筆者も一般ユーザに変身してスロットに参加。スマホもセキュリティテスト用の実機に持ち替えて、やる気満々でスロットを回すと、なんと100%割引をゲットできました!無料?
アプリダウンロードありきのコンバージョンシナリオ
無料で商品を購入させて頂くには、このアプリをダウンロードしてインストールせよ、と。ん〜、もうこれは怪しすぎる。ただほど怖いものは無し、が、こちらは屈強なセキュリティ・テスト機、迷わずインストールです。すると、apple公式サイトに移動し、ダウンロード画面へ。
億万長者気分でお買い物、そりゃそうです。6,000円だった商品がゼロ円で買えるワケですから。さらに「日本全国『無料配送』」とのこと、どうなってる?(漢字8文字を連続させているあたり、もう少しお勉強した方がいいけどね)ま、とりあえずクリックです。
ステマ規制もバッチリ
ダウンロードを待っている間に、念のため、「temu 怪しい」 で検索。SNSやネット上の声をリサーチです。一般ユーザとして。すると検索結果の画面は「いいえ、ひとつも怪しくないですよ〜、むしろ、スゴっくおトクなサイトなんですよ〜!」と、甘い勧誘記事で埋め尽くされます。これでようやく一般ユーザも「あぁ安心!」と先ほどのダウンロード画面に戻ってインストールでしょう。しかし我々のようなウスラ汚れたマーケターは、ひと目見て報酬目的のインフルエンサーによる案件記事だな、とその臭いを嗅ぎ分けてしまいます、と同時に「ん?2023年10月1日から施行されているステマ法規制には対応しているのか?」という親心も杞憂に終わります。各紹介記事にはしっかりと※本サービス内ではアフィリエイト広告を利用しています。と、ごくごく薄〜い色ではありますが、報酬記事であることは明記されています。しかしこれは、相当なコストをかけないとそうそうカンタンにできる事ではありません。広告にせよアフィリエイトにせよ、またSEOにせよ、採算度外視で、できることはすべてやり尽くしています。いわば、あなたと同じ業態に、100円均一ショップが突如登場して、広告をかけまくっている、という状態というわけです。
謎のブランドの正体は、グループ会社に「SHEIN」を持つPDD
この巨額の資金源、ただ者ではありませんね。実はアパレルの改革者「SHEIN」シーインを傘下にもつ、PDDホールディングスが親会社の「Temu」テム、いわばSHEINの雑貨版といったところでしょうか。既に昨年、アメリカではアリババを追い抜き、アマゾンのアプリダウンロード数すら追い抜いています。しかも、実際に使って見ると、機械学習での行動トラッキングの精度が高く、サイトに訪れた途端、自分の好きな色やカテゴリにマッチしたイチオシ商品が、見つかりやすく、しかも共同購入精度で安い、スロットなどのゲーミフィケーションで楽しいEC体験もできる。SHEIN同様の自社製品だから、コストカット分、品質も高いしアイデア商品もある。ちょっとテム、侮れませんよ。
JECCICA客員講師 宮松 利博
得意分野/Eコマースの立ち上げ・販売拡大
1998年に公開したフリーウェアがヒット。その知見で開発した商品が大手ECコンテストで12部門受賞、3年で年商20億円に(現ライザップ)。上場と同時に保有株を売却し、ECコンサルティング会社を立ちあげ、業界No.1クライアントを多数抱える。日本イーコマース学会専務理事。
RIZAPグループ社創業時の商品開発とマーケティングを手がけ3年で年商20億円に成長、上場と同時に保有株を売却し、Webコンサルティング株式会社ISSUNを設立。日本イーコマース学会を立ち上げ、産官学連携にも取り組む。