楽しく誰に分かるマーケティング:Vol㉙ テクノロジーの革新で可能になる、ドラえもんの「どこでもドア」
海外観光客を受け入れるインバウンドは国内の成長市場で、2019年の訪日外国人は、日本政府観光局(JNTO)統計で3,188万人。2010年は861万人でしたので、3.7倍に大躍進。ここ何年か銀座や大阪道頓堀など、中国人をはじめ海外の方の姿は当たり前の光景になりました。そして「TOKYO2020」に向けて、観光業や様々なサービス業等が投資をして来ましたが、まさかの予想だにしないコロナ禍で、大打撃を受けています。
私が20代の頃に勤務していた広告会社の先輩で、現在は旅行業のマーケティングコンサルタントをされている北川宣浩さん(66)は、コロナ禍そしてこれからのライフシフト時代の新しい旅行は、やはり「オンライン」がキーワードと言います。
そもそも旅行に出かけたくなるニーズ(欲求)とは、「非日常を求めて様々な場所に出かけ、ワクワクする時間や空間を体験したい」ことにあります。このニーズを満たすため、オンラインで出かけられる旅行企画を北川さんとブレーンストーミングでアイデア出ししてみました。
先ずは、「グルメ体験旅行」です。既にアナログ通販の頃から、様々な産直品お取り寄せが出来ることは可能な時代となっていますが、完成品ではなく、「一緒に作って楽しむ」ことをテーマにした価値を提供します。例えば日本各地の名人による「そば打ちセット」を販売してZoomなどを活用し、名人及び他の参加者と一緒にそば作りを体験して一緒に食事をします。こうした「皆で一緒に作って、ワクワクする時間を楽しむ」というコンセプトの企画を頒布会方式で毎月提供する、サブスクリプションモデルも面白そうで、他にも同じコンセプトで様々な企画が考えられます。
次に紹介するのは「女将さんご案内旅行」です。バーチャル宿泊プランにエントリーし、オンライン上で“宿に着く”と、画面には女将さんはじめスタッフが出迎えてくれます。事前にはその旅館名物の料理をクール便等で送り味わってもらいます。クール便には、料理に加えて旅館で使用しているタオルや歯磨き、温泉の素などもオマケで付けます。そして旅館が所在する自治体観光課と連携し、周辺の観光地をVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)でダイナミックに紹介する時代は、そう遠くはなさそうです。
そして「代理旅行」です。例えば、「子供の頃に住んでいた街をもう一度巡り」とか、「思い出の地をもう一度巡りたい」など、ニーズがあるけど、様々な理由で出かけられない。特に高齢化して足が不自由になり、なかなか旅行に出かける体力がない等の理由で不自由を感じるお客様に代わり、「代理ガイド」がリモートで案内します。代理ガイドは、地元の旅行会社や観光協会を定年退職したシニアです。カメラを持って依頼者と一緒に現地をたどり、映像を送りながらお客様と思い出の地を一緒に旅します。特に子供の頃に住んでいた街は、同時代を同地域で生きていた強みで、昔住んでいた家の周辺とか、懐かしい話で盛り上がるでしょう。
この企画は大手旅行会社なら全国の支店網を生かして代理ガイドと契約し、全国組織でECを活用すれば今すぐ実現可能です。
コロナ禍で様々なオンラインで行う企画やビジネスが一気に浸透しましたが、こうした企画の全ては、テクノロジーの進化によって可能となった新サービスです。
「EC」の市場が急成長し、今後は通信速度が「5G」になり、テレビは高画質の「8K」が普及して、「VR」が更に進化して、ゴーグルを付けなくてもいいくらいまで技術革新が起こると、自宅に居ながら非日常を体験することが容易になる、そんな時代が到来します。
実は北川さんは、日本テレビの「第2回アメリカ横断ウルトラクイズ」優勝者で、70年代から80年代の頃に多く放送されていた、視聴者参加型クイズ番組の優勝を総なめしたクイズ王です。デジタル機器にも造詣が深く、すでに8Kテレビを持っています。今回のコロナ禍で観光業が痛手を受けている状況と、北川さん自身の知識や好奇心から、「オンライン旅行」というアイデアを紹介頂きましたが、根底にあるポイントは、やはり「顧客ニーズ=欲求」を満たし、ワクワクを提供することです。
これからのビジネスやマーケティングで、潜在欲求を喚起する新しい「モノ・コト」を開発する場合には、仲間内で「面白い」と空想や妄想するアイデアを、後から技術的にどこまで可能かを追求する。こうした方法が早道だと思います。人間を幸せにするイノベーションは、まだまだ始まったばかりです。
えとき
ドラえもんの「どこでもドア」のように、自宅に居ながらにして旅行が出来る時代が到来する
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント