「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.26 あの頃の会議、いまの会議。
★しんど会議メモリー
私には、会議にまつわる2つのちょっぴりしんどい思い出がある。
ひとつは、新卒で入社した広告会社での会議だ。ディレクター、CMプランナー、デザイナー、コピーライターが集まり、広告案を煮詰めていく大事な会議。令和では考えられないが、会議は真夜中近くから始まり果てしなく続いた。煙草の煙がたちこめる会議室で、決定権を持つクリエイティブディレクター(CD)の求める答えにたどり着くまで皆が種をまく。黙って腕を組み長考する彼が何を求めているのかは全く見当がつかない。誰かが発言しても「うーん…」という呟きに吸収されて終わってしまう。大先輩方が余談で語るカルチャーの話は高度すぎて20代の私にはひとつも分からず、自分は無知を恥ずかしく思いながら、ひたすら時が経つのを待っていた。
もうひとつは、アラサーで入社したITベンチャーでの会議。
私よりずっと年下の社長と副社長の会議に呼ばれて着席する。「これってどうかな」「いいねそれやろう!あとこういうのはどうだろう?」二人は目の前でどんどんアイデアを出し始める。そして「近藤さん何かいい案ない?」と振られ、私はポカンとする。「次回までに新たな案を考えてくる」方式に慣れていた身としては、えっ?いまこの場で!?とおののいた。
「すいません…すぐには思いつかなくて」という答えを繰り返すうち、自分がひどく無能で役立たずに思えてきて凹み、焦った。
これじゃダメだと思い、その場で頭をフル回転させて意見や案を言う訓練をした。やっとそのペースについてゆけるようになった後は後輩たちにも練習してもらい、「とにかくその場で意見を出し合い、決定まで持っていく」が会議の常となった。
★オンライン会議の難易度
そして今。クライアントやプロジェクトのオンラインmtgに参加すると、出席者(特に若手)の喋らなさにムムッとなってる私がいて、過ごした年月の長さを感じたりする。
そもそもオンラインmtg自体が活発な会話に向いてないのだ。発言がかぶることを避ける傾向があるので、相手の発言に軽くツッコんで膠着した空気を動かしたり、恐る恐る出た意見に「いいねえ!」と言って前に進む空気を醸造したりが、大変やりづらい。
だから発言は「発表」になりやすい。プレゼンターやスピーカーがいて、あとは聴衆。「私は聴きに徹します」のマイクオフ表示が当たり前の世界だ。
私でさえ発言しづらいのだから、新卒からこの形式になじんできた若手なんかはより一層、発言しないだろうなと思う。
本当は、会議ではもっとガチャガチャ話し合いたい。収束は最後でいいから、どんどん拡散してゆきたい。大体みんな、最初からまとめようとしすぎ。散らかることを恐れすぎてる。そうすると「いいアイデアや意義ある意見じゃないし…」と発言を引っ込めたり「いったん持ち帰ります」となったりするじゃないか。
★会議における若手の存在意義
沈黙する若手は、まるであの頃の私のようだ。気持ちはめちゃくちゃ分かる。好きなことを言い合い、雑談ばかり横に広げていくおじさんおばさんの会話を鬱陶しく、非効率だと感じていると思う。
でも、今なら分かる。若手には誰も最初から卓越した意見なんて求めてないし、議事録係でいてほしいとも思ってない。だから遠慮せず思ったことをスッと口にしてほしい。「不慣れな者」の良さは、素直と勢いと脱線と突破口だ。例えて言うなら、M-1準優勝のバッテリィズのエースみたいな存在。
(彼は「常識や知識を知らないので話されている内容が分からない」というキャラだけど、決してアホなんかではないと思う。「その角度からくる!?」みたいなモノの見方、気付き方にいつもハッとさせられる)
経験や知識がないということは、会議において特にマイナスにはならないのだ。あの時の私と今の若手に言ってあげたい。
★黙らず、こねる、ふくらます
どんな会議でも、やっぱり「沈黙」がいちばん禁物なのだ。世間話や余談、議題に何の関係もなさそうな会話は、実はジョギングと同じなのかもしれない。こり固まった場とそれぞれの頭をほぐして血をめぐらせる役割がある。
冒頭で「ほぐす」、真ん中では「交わしまくる」、そして最後に「決める」。この流れがあるのが、私の思う「よい会議」。みんなの頭も口も、ぐわんぐわん、動いて回っている。
空気をかき混ぜて、こねまくって成形する。何だかパンづくりみたいだけど、似てるかもしれない。よくこねないと、膨らんでゆかないのはパンも会議も一緒だから。
この先、オンラインが主流になるのか、それとも「やっぱり顔つき合わせた方がいいよね」とコロナ前に戻るのかは分からないけど、どのみち会議なんてのは人と人との化学反応なんだから、もう少し自由で血の巡ったものになったらいいな、と思ってる。

コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。