楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol⑰ディスコで気づいたABS世代の「アクティブエイジング」とは?
気づきの切っ掛けはディスコ通いから
前回お伝えしたABS世代に与えた3大インパクトである「雑誌JJ、POPEYE、映画サタデー・ナイト・フィーバー」の影響で、1980年前後の学生の頃に、ディスコに通い音楽が大好きだった私は、39歳(1999年)から遊びを再開しました。ちょうどその頃は世の中でディスコカルチャーが復活し始めた時期ですし、一方で私は若い頃は地方から出てきてお金もなく、消化不良のような感じで青春時代を終えてしまったため、そのツケを取り戻すような感覚がありました。
それ以降20年通い、最近お客さんのすそ野が拡がってきていることに気が付きました。私はマーケッターとして「なぜディスコに再び人が集まっているのか?」と興味を持ち、人間観察を始めました。その結果わかったことは、ダンスや音楽が本当に好きなマニアは私のような少数派。多くのお客さんはディスコに来ることで違う価値を求め、ニーズを満たすために来ているのです。(※図①)
ニーズの正確な理解と洞察する意味合い
これまでのコラムで何度もお話しましたがニーズとは「欲求」です。「炎天下の砂漠をさまよう汗だくの男性」にとって「一刻も早く喉の渇きを潤したい」が「ニーズ=欲求」であり、水は「ウォンツ=手段」なのです。この理解が無いと「ウォンツ=手段」である商品特性を説明するコミュニケーションを図って売れない状態を作ります。ディスコの場合であればダンス好きな人にお店の特徴を広告で訴求しても、ごく少数の人しか行かないニッチマーケットでしょう。つまり「どんなニーズを持つ顧客に、どんな価値を伝えて、ハッピーにするか?」と言うコンセプトを創造し、同質なニーズを持つ層に伝えることがマーケティングの真髄なのです。
復活ディスコは女性が多いですが、50代という年代的に子育てが終わり、お孫さんがかわいいという方も多数いらっしゃいます。彼女たちは「社会的役割をいったん終えた、一人の人間・一人の女性」として、若い頃に行ったディスコに再び出向き「ドキドキ・ワクワク・ハッピー」な体験と感動で、「自分の年齢を忘れ、気分が高揚して楽しい!」と言うニーズを満たしているのです。この様子をSNS(主にフェースブック)で共有する人も多くいます。その結果として、これからの人生の楽しみや生き甲斐があることを、ディスコと言う時間と空間で認識するのです。孫の前では「おばあちゃん」でも彼女たちも一人の自立した「女性」なのです。
ディスコでは、若い頃に聞いた音楽で最初は懐かしさを覚えますが、決してノスタルジーに浸っているのではありません。ディスコの空間に入ることで脳内からドーパミン、通称「ハッピーホルモン」が分泌されることで心身ともに高揚するのです。(※図②)
ABS世代のキーワード「承認欲求」を満たせ!
ABS世代の女性は若い頃、雑誌「JJ」を読み、オシャレをして遊びに出かけ、ユーミンの曲を聴きながら彼氏のクルマで海やスキーに繰り出したという人が少なくありません。男性はこうした女の子にモテようと雑誌「POPEYE」をマニュアルにしてお金を使ったのです。そしてバブルの頃のディスコには「お立ち台」がありました。これこそが、「承認欲求」が他の世代よりも高いABS世代の価値観の象徴です。
このように考えると、「ドキドキ・ワクワク・ハッピー」の本質的なニーズを満たす価値の提供、市場の創造に「ABSマーケティング成功のカギ」が必ずあります。
ABS世代提言の根拠「ジェロントロジー」とは?
ABS世代に対するこれからのマーケティングは、私たちが生まれ育った時代背景とこれまでのマーケティングを照らし合わせたのと同時に、私が40代から20年間プライベートで様々な同世代の人に話を聞いて、自分の目で見た実体験から確信を抱き理論体系を整理したのですが、そこには既存の調査から出る有益なエビデンスがなかなかありません。シニア調査は前回もお話ししたように、人間の固定観念からくる昔のシニアイメージから仮説を組み立て調査設計された結論が出るので、相変わらずシニアは「旅行と健康に関心が高い」と言うレポートが非常に多く見られます。
そこで私が注目したのは「ジェロントロジー」です。老人を意味するギリシャ語のgeronに学問を意味するlogyが連結した言葉で「老年学・加齢学」と言われています。20歳から始まる人間の老化の仕組みを知ることで、逆に老化を遅らせて健康寿命を延ばし、生活の質をいかに高めるかと言うテーマを、医学、生物学、脳科学、社会学、心理学など学際的に捉えて学ぶ学問で、欧米では数多くの大学に学部があります。
私のABS世代マーケティングの背景には、ジェロントロジーが学術的な根拠となっています。私が学んだのは、世界で初めてジェロントロジー学部を設置した南カリフォルニア大学(USC)と、日本の山野学苑が協業して作成された通信教育プログラムです。山野学苑創設者の山野愛子さんは、真の美しさを「美道五大原則」として理念に掲げました。「健康美・精神美」に、外見美である「髪・顔・装い」の5つとしたのです。
つまり心と体が健康ならば外見も美しくなる。この考えがUSCと山野学苑の間で合意し、協業して作成されたジェロントロジーを山野正義総長は「美齢学」と名付け、我々日本人が誰でも気軽に学べるようにしたのです。(※図③)
「アクティブエイジング」が人生100年時代の生き方キーワード
私がこの美齢学ジェロントロジーにとても共感したのは、アンチエイジング(抗加齢)より上位概念で一歩進んだ「アクティブエイジング」というコンセプトです。その内容とは人間が毎年必ず一歳年齢を重ねる、そして死亡する確率は100%である。この二つの運命を深く認識し、「いかに老化を遅らせて、心身ともに美しく豊かに年を重ねることができるか・・」、これがアクティブエイジングです。
私は常々思うのですが、日本人が捉えているアンチエイジングは「若さが正義」という前提で、見た目も考えも若いことが良いと言う固定観念が強い気がします。確かに寿命が短い時代は若い世代が世の中を動かすことが当たり前であり、若い世代に向けたビジネスやマーケティングが中心でした。しかし今の日本は50歳を境に下世代と上世代の人口が「約半々」なのです。欧米の文化を見ると例えばフランスはマドモアゼル(未婚女性)よりマダム(既婚女性)の方がカッコいいと言う観念で、大人の文化が確立されています。そういう意味では日本も十分に成熟した先進国であり、若い世代のみならず50歳以降の世代ならではの「文化・働き方・消費・暮らし」があると思うのです。これまでシニアライフを語る際には多分に「お金・健康・孤独」の3大不安を中心に、負の側面を語る傾向があります。しかしジェロントロジーは加齢を人生の後退プロセスではなく、前進させる「生涯発達」としてポジティブにとらえ、高齢化を前向きに受け入れることを基本としています。
これからのシニア市場とECビジネスの大きな可能性
これからの日本は「生きるほどに美しく」、成熟した真のオトナが更に活躍する場が必ずあります。ABS世代のみならず全ての人間が年齢を重ねるほど「心豊かに、カッコよく」自分自身の価値を最大限に活かして人と人がコミュニケーションを図り、「ドキドキ・ワクワク・ハッピーな体験と感動」で、笑顔が絶えない、そんなQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を、顧客自身が創造すべき時代が来たのです。そしてこうした社会を可能にしたのは「デジタルテクノロジー」の進化は極めて大きいと言えます。そう言った意味でもスマホを普通に使い、ECで買い物をし、SNSで情報を発信拡散する、次世代シニアABS世代に、ECが提供出来る価値は今後無限に拡がると思っています。
こうした将来の可能性は、ABS世代とジェロントロジーの考え方に加え、心理学者アブラハム・マズローの5段階欲求説上位の「承認(尊重)欲求・自己実現欲求」や、「デジタルのニューウェイブ・感動と体験」を提唱するフィリップ・コトラーのマーケティング4.0とも一致します。これらの解説は次回お伝えします。
「アラ還」のABS世代には「シニア・高齢者」はNGワード
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント
マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視したマーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。