楽しく分かるマーケティング:その⑭ 顧客を理解し人を幸福にするマーケティングの本質
マーケティングは「ニーズ」の解釈と読み解きが第一歩
本コラムでは一貫してマーケティングは俯瞰的に流れで読み解き、中でも「ニーズ」の大切さ、それを満たす「STP」の重要さをお伝えしてきた。(※図①②)
私は1981年に広告会社にデビューして約40年間マーケティングの現場を歩いてきたが、アナログ時代はもとよりデジタル化した今日こそ、改めてこの本質を認識して事業戦略やマーケティング戦略を構築することが極めて重要であると痛感している。その理由とはビジネスもマーケティングも勿論Eコマースも、それを実行する目的は「人を幸せにする」ことに尽きるからである。
デジタル化による3つの恩恵とは?
デジタルマーケティングと言われて久しいが、今日EC事業者や通販事業者のみならず、多くの企業はインターネットやデータベースを基軸としたビジネスを大なり小なり行っている。その利点と恩恵は大きく三つあり、一つ目は「顧客個々にコミュニケーションが出来る」こと。二つ目は「データに基づく意思決定が出来る」こと。三つ目は「安価でスピーディーに出来る」ことである。その結果として「ビジネスの成功確率が高まる」ことである。
一方でデジタル化の落とし穴とは?
先ほどお伝えした3つの利点と恩恵は、理解と使い方を誤るとそのままネガティブに反応することが「デジタル化の落とし穴」と感じている。
マーケティングは顧客ニーズを満たすためSTPを明確にして「コンセプト=誰にどんな価値を提供するのか?」を構築することが重要であるのに、そこを組み立てないですぐにプロダクトである「ECサイト」を作り、売り場である「サイト誘引」のプロモーションを行う事で、売り手にとって独りよがりの、買い手にとって価値が少ない価値が伝わりにくい、そんなビジネスが行われることほど不幸なことは無い。(※図③)
こうした要因は通信販売業界のEC化が急速に進み、「安価でスピーディーに出来る」ため、以前よりも物理的な参入障壁が下がり、今や個人でもECでモノが売れる時代になったからである。
「顕在ニーズ」はもとより「潜在ニーズ」を掘り起こし新規需要の創出を!
ニーズとは「欲求」であり簡単に言い換えると「不の字」とお伝えしてきた。不の字とはお困りごとであり人間のお困りごとには必ずビジネスがある。顕在ニーズとは不の字が明確に意思表示出来る状態であり、「最近この化粧品の肌のノリが不満!」だから化粧品を買換え、「重い飲料を買って運ぶことは不便!」だから通販やECサイトで飲料を購入する。
いわゆる「悩み解決」である。このマーケットは既に顧客が意思表示しているため「不の字探し」で判断が付きやすい。そしてもう一つの潜在ニーズとは、言われなければ困りごとは無いけど「こんな便利なものが出来た!」とか「こんな面白いことがある!」と知ると、今よりハッピーになる、つまり今の状態が不の字と感じる訳で、そこに大きなビジネスの可能性が秘めている。それは「不の字創り」と言える。(※図④)
今から約10年前には何処に居ても通話とメールでコミュニケーションが出来る携帯電話に不便を感じてはいなかった。ところがアップル社のスティーブ・ジョブズが2007年に「アイフォーン」を発表し顧客はそれを知ることで、「何だこれは?、こんな便利なモノで暮らしが豊かになるんだ!」と誰もが納得しスマートフォンは普及した。分かりやすい例であるがアイフォーンは「今までにない提案で人間の暮らしを幸せにした」、そして「新しいビジネスを開拓した」ことは確かである。
人間のことは最終的には人間でないと分からない!
AI化が進み将来的には多くの雇用までが無くなるのでは・・?と言われるが、私は最終的には人間のことは人間しかわからないと思っている。ビックデータでその人のプロフィールが全て明かされ「不の字探し」は出来ても、これまでにない価値である「不の字創り」はやはり人間でないと分からない。
例えば私がA子さんのことが好きで口説きたいため、AIロボットに聞いてA子さんのプロフィールを全て知って口説いても、その時のムードやタイミング、そして「感情」の部分は実際にその時でないと分からない。人間は本当は「黒い」と思っていても、その時には何らかの理由で「白い」と、自分の本当の気持ちとは異なることを意思表示する動物であるから。
令和の時代はアナログとデジタルの化学反応の時代!
事業戦略やマーケティング戦略は人間の幸せな人生をサポートするためにある。そのためには今まで以上に人間が人間を観察するフィールドワークからニーズの本質を探り、どうしたらもっと人は幸せになれるのか人間のリアルな体験や気づきである「アナログ」な考えと行動に加えて、日進月歩で革新される「デジタル」の様々なテクノロジーが融合することで新たな価値が創造される。
昭和までの「アナログ(右脳)」発想に、平成で形成された「デジタル(左脳)」技術を融合して令和の時代では「劇的な化学反応」を起こし、今まで想像もつかなかった「人生100年時代」の真のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)時代を実現する「ワクワク・ドキドキ・ハッピー」を感じる時代にマーケティングをシフトしたいと感じている。
※次回Vol⑮は、「戦後日本経済とマーケティングの変遷」と題して、今日のデジタル化が起きた背景をお伝えする。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント
マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視したマーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。