楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol㉗
顧客が育む新たな文化とブランディングとは?
【SNSは顧客自身の媒体】
インターネット、とりわけ「SNS(ソーシャル・メディア)」が普及したことで、この10年で大きく世の中が変化したと感じます。一言でいうならば、SNSは「自分の放送局を持つ、自分の新聞・雑誌を持つ」イメージで、顧客自身が能動的に情報発信することが簡単に出来ます。「インスタ映え」という言葉も、すっかり世の中に浸透し、インスタグラムに掲載する見栄えのよい写真を撮り、顧客自らが自身の体験した価値を世の中に発信しています。
「SNS」は、顧客がモノやサービスを選ぶ際に有効な情報とする口コミ媒体として、インターネット上で重宝されていますし、広告でモノが売れないと言われて久しいですが、私の周囲のABS世代にアンケートを取ったところ、モノ・コトを買う際に参考にする情報は「口コミ・SNS・ネット検索」が上位に躍り出て、若い世代と変わらない購買行動が見てとれました。
SNSは若い世代のみならず、シニア予備軍のABS世代も積極的に活用しています。SNSを発信する根底にある欲求は、「承認欲求」です。まさに「イイね」を受け取り、人に認められる、人の役に立つ。これは大きなポイントですが、バブル期の体験が大きく影響するABS世代は、生まれ育った時代背景から、承認欲求が強い人が多いことは見逃せません。
【アンテナショップから発信するブランドの世界観】
昨年のジェシカ定例セミナーでも事例紹介がありましたが、私の友人でニューヨーク在住のクリエイティブディテクター、ワタナベカツアさんの話でも、ニューヨークにはインスタ映えする「ブランドのアンテナショップ」が人気を博しているそうです。その目的は、販売することよりも、「ブランドの世界観を体験」してもらい、同時に「SNS映えする写真」を顧客自ら情報発信させることにあります。
アンテナショップ自体は昔からあるプロモーション手法ですが、広告媒体も変化する中、従来の広告で知らせるだけでは、なかなか購買行動やブランド育成に繋がらない今、改めて「リアルに体験してもらう」ことの重要性が再認識されています。
【リアルとオンライン融合のブランディング】
例えば、ABS世代に向けてサプリメント販売を行うメーカーが、東京都心にアンテナショップを構え、そこで、人生100年時代のライフスタイルにおけるヘルス&ビューティーの情報を、体験型プログラムで「面白く・楽しく」発信したとします。従来のシニアイメージではない「カッコイイ・可愛い」演出を施してSNS映えする体験を促し、更にはそのショップ限定の商品を先行販売して、顧客自ら広告媒体となってもらうのです。その後ショップで話題になった商品を、広くECで販売することで、より話題になりそうです。
また1970年代後半を中心に、渋谷の「公園通りやスペイン坂」などオシャレな街づくりと、新たな若者カルチャーを発信した「PARCO」のように、様々なアンテナショップが軒を連ねる、各ブランドとライフシフト時代の文化を発信する商業施設も面白いと思います。
【知ることよりも体験することの重要性】
リアルな「ブランド体験」は人間をワクワクさせ、「瞬間の感動」をSNSでシェアする。人間は「知ること」よりも「体験すること」の方が、はるかに自身の記憶に残ることは大きなポイントです。こうした手法が可能なことも、スマホやSNS、そしてECを使うABS世代ならでは。今までのシニアマーケティングとは全く異なるアプローチが可能になり、ビジネスやマーケティングに効果をもたらすのです。
インターネット普及以前は、ブランド育成と言えばマス広告、特にテレビCMの影響は大きく、私が若い頃は「広告は文化を創る」と言われました。これからは、こうしたアンテナショップのように、リアルで体験出来る「時間や空間」を顧客に提供し、そのユニークさとブランドの世界観を、顧客同士のコミュニケーション手法を通じて発信する「顧客が育む新たな文化」が生まれそうです。
その先の売り場として、ECとの連動を図るといったコミュニケーション戦略やブランディング手法は、大手資本でなくても、ECを活用することで、販路開拓や店舗を構えることなく、そして多大な広告投下なく可能な時代になると感じています。
■ABS世代 昭和30(1955)年から43(68)年生まれで現在51歳から65歳の、若者時代にバブルを謳歌した世代。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント
マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視したマーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。