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楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.90 【「マーケティング・ジェロントロジー」人間のメカニズムを知る新しい視点】

「AI時代」の次に来るもの
前回のコラムでは、AIと人間の感性が共存する時代に、問いを持ち続けることの大切さをお伝えしました。
AIが進化し、データがあふれる今、マーケティングの“効率”は確かに向上しています。
しかし一方で、数字に現れない“人の心の深層心理”が見えにくくなってはいないでしょうか。
では、人間をもう一度深く理解するための視点とは何か。
そのヒントが、以前にもお話しした「ジェロントロジー(Gerontology)」という学問にあります。

ジェロントロジーとは「人間の本質を知る学問」
ジェロントロジーとは、ギリシャ語の「Geront(老人)」と「ology(学問)」を合わせた言葉で、日本では「老年学」「加齢学」と訳されます。
一般的には「高齢者を元気にする学問」として、従来から福祉や介護の領域で知られていますが、実は本質はもっと広く、“人がどのように成熟していくか”を科学的に探求する学問です。
人間の加齢は、20歳前後から始まると言われます。
つまり、ジェロントロジーは「老いの学問」ではなく、「生涯を通じて人がどう変化し、どう成長するか」を扱う“エイジング学・人生学”です。
この考えを日本に紹介したのが、東京代々木で山野美容専門学校を運営する山野学苑の故・山野正義氏です。
山野氏は、1975年に世界で初めてジェロントロジー学部を設置した、南カリフォルニア大学(USC)と提携し、通信教育で学べるジェロントロジー講座を日本に導入しました。
そして、このジェロントロジーを「美齢学(びれいがく)」と名付け、「美しく齢を重ねる」という新しい人生観を提唱したのです。

「美齢学」が変えた年齢観
山野氏が伝えたメッセージはシンプルで力強いものでした。「年齢に縛られず、どう生きたいかを自分で選ぼう」。
日本社会は長らく「○歳だから」「もう年だから」という年齢基準に支配されてきました。しかし、年齢とはただの年数にすぎません。
大切なのは、何歳になっても「自分はどうありたいか」という問いであり、姿勢です。
山野氏は、美容という身近な領域から「若さ」ではなく「美しさ」、そして「アンチエイジング」ではなく「アクティブエイジング(積極的で前向きな加齢)」を提唱しました。
老いに抗う、戦うのではなく、年齢を味方につける成熟した生き方。それこそが、これからの時代を生きるヒントなのです。

マーケティング・ジェロントロジーとは何か
私がこの「美齢学」から強く感じたのは、ジェロントロジーは“人間のメカニズム、つまり仕組みを発見する学問”だということでした。そして今、その知見をマーケティングに応用したのが「マーケティング・ジェロントロジー」です。
マーケティングとは本来、「人を理解し、価値を創る技術」です。ここにジェロントロジーの視点を重ねることで、“年齢”ではなく“成熟”を軸にした新しい市場が見えてきます。
従来のマーケティング発想、特にシニアマーケティングでは、「高齢者対策」「老後の備え」といった“守りの発想”が中心でした。しかし、人生100年時代のいま、特に50代や60代は、人生折り返し地点で、現役の挑戦を続ける世代です。
彼らは「老いる人」ではなく「創る人」。
自分の経験と感性を活かして、人生を再設計していく“第二のクリエイター”なのです。

成熟を価値に変えるマーケティング
マーケティング・ジェロントロジーが目指すのは、年齢を理由にした区分ではなく、「成熟」を価値として社会に翻訳することです。
たとえば、60代の女性が自身の肌や心の変化を前向きに受け入れ、ナチュラルメイクを選ぶようになる。これは“老い”ではなく、“美の成熟”です。
あるいは、定年後に地域活動を始めた男性が、自分のスキルを社会に還元する。それは“働く”ではなく、“貢献する”という成熟した行動。
このような変化を読み取り、価値として可視化するのが、これからのマーケターの役割だと思います。
AIやデータでは測れない「人間の深まり」をどう商品やサービスに結びつけるか。
そこに、マーケティング・ジェロントロジーの真価があります。

加齢を“希望”として語る時代へ
日本では、依然として「老い=衰え」というイメージが根強く残っています。しかし、加齢とは本来、失うことではなく、深まることです。年齢を重ねるほど、人は経験や感性、包容力を増していきます。
AIやテクノロジーが効率を担う時代だからこそ、人間の成熟が価値を持つ時代が来ています。
年齢を重ねることを“希望”として語れる社会へ。
その羅針盤が、マーケティング・ジェロントロジーです。

●「老い」は衰退ではなく深化である
加齢を“失うこと”ではなく、“積み重ねて深まること”として捉えよう。
●成熟を価値に変えるマーケティング発想
若さではなく、成熟の魅力を社会的・経済的価値に変える視点を持つ。
●「老いる人」から「創る人」へ
人生の後半は、受け身の老後ではなく、自分を再びデザインする創造期である。

AIが「効率」を担い、人間が「感性」と「成熟」を担う時代。
マーケティング・ジェロントロジーは、その共存の未来を描く、新しいマーケティング哲学であり、実践学です。

JECCICA客員講師 鈴木 準

株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント


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