楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.87 【右脳×左脳で鍛える!マーケティングに効く“問いの力”】
実践的マーケティング思考と、「問いを立てる力」の鍛え方
前回のコラムでは、「右脳的な感性」、つまり違和感や直感、主観から生まれる問いや仮説の重要性についてお話ししました。今回はその右脳的な気づきを起点に、「左脳の力」とどう手を組ませるか。つまり、「右脳×左脳」を活かした実践的マーケティング思考法と、日常生活で“問いを立てる力”を磨くヒントを、具体的にご紹介します。
「右脳×左脳」=ひらめきと構造化の組み合わせ
マーケティングにおいて、右脳と左脳は対立するものではなく、むしろ協働するパートナーです。
・右脳:主観、感性、共感、直感、ひらめき
・左脳:論理、分析、構造、説明、精緻化
たとえば、右脳で「なんとなく違和感がある」「最近この商品、売れてない気がする」と感じたら、それをまず仮説として立ててみる。次に左脳で「それはなぜか?」と要因を分析し、データや過去の事例と照らし合わせて検証してみる。
つまり「右脳で気づき、左脳で整理し、再び右脳で提案する」。この循環が、最も実践的マーケティング思考のプロセスです。
ステップ①:「気になる」を見逃さない感性を育てる
・「最近、家族で外食する回数が減った」
・「なんとなく、電車の中で見かけるアプリが変わった気がする」
・「カフェで耳にした会話が、妙に印象に残った」
こうした日常の違和感は、すべてマーケティングの入り口です。しかし多くの人は、「そんなの自分のビジネスに関係ない」とスルーしてしまいます。
しかし、こうした“気になる”を放置しない習慣こそが、「問いを立てる力」の第一歩。小さな違和感に「なぜだろう?」と向き合うだけで、右脳の感度は確実に高まっていきます。
ステップ②:「問いのメモ帳」で発見をストックする
「問いを持て」と言われても、頭の中に留めておくだけではすぐに忘れてしまいます。そこでおすすめなのが、「問いのメモ帳」を持つこと。手帳でも、スマホのメモ機能でも構いません。
「ふと気になったこと」「変化を感じたこと」「最近よく目にするもの」などを、“疑問形”で記録しましょう。
・なぜ、コンビニエンスストアは現金派がまだ居るのか?
・なぜ、昭和の曲がTikTokで流行っているのか?
・なぜ、中高年男性は「肌ケア」を恥ずかしがるのか?
こうした“問い”がストックされてくると、俯瞰したときに「共通項や全体の空気感」が見えてきます。これが、右脳の観察力と左脳の整理力が手を組んだ成果です。
ステップ③:「仮の答え」で頭を柔らかくする
問いが整理できたら、次は「仮説」を立ててみましょう。ここで大切なのは、正解を求めすぎないこと。むしろ「ちょっと偏っているかも?」くらいが、「ユニークなコンセプトのベース」となりちょうどいいのです。異なっていれば、修正すれば済むわけですから。
・TikTokで昭和歌謡が流行るのは、“古くて新しい”が若者の好奇心をくすぐるから?
・男性が肌ケアを恥ずかしがるのは、“清潔感=努力”と見られるのが面倒だから?
自分なりの“仮の答え”を出してみます。それを起点に、「本当にそうか?」と再検証していく。このプロセスこそが、マーケティング思考の筋トレです。
ステップ④:雑談やブレストで仮説を磨く
ひとりで考えていると、どうしても思考が自分の枠に閉じがちです。だからこそ、仮説は人に話すことが重要です。たとえば、、
「最近、若い子って昭和の曲好きだよね。なんでだと思う?」
と問いを投げてみると、自分では思いつかなかった視点や体験談が返ってきます。
・自分が知らない時代のアナログ感が、新鮮なんじゃない?
・親の影響で、結構小さい頃から聴いていたんじゃない?
それをヒントに、仮説をアップデートしていく。この繰り返しが、実践的マーケティング思考の筋肉を鍛えるのです。
日常を“マーケティングの実験場”にしよう
マーケティングは、どこかに正解が書かれている「学問」ではありません。むしろ、毎日の暮らしそのものが「実践版教科書」であり「実験場」です。
たとえば──
・スーパーでの買い物の順路
・SNSでシェアされやすい投稿の共通点
・街中のポスターで気になった言葉
こうした日常の中に「なぜ?」を重ねていくことで、マーケティングセンスは確実に育っていきます。特別な訓練は不要。生活を“問いの宝庫”として見る視点があるだけで十分です。
右脳×左脳で、“考える力”を取り戻そう
閉塞感のある今の社会、そしてAIが普通に使われる時代で求められているのは、「正解を出す人」ではなく、「問いを立て続けられる人」です。
右脳で気づき、左脳で整理し、再び右脳で表現する。この循環を生活の中で回すことで、マーケティング、更にAIは“使える道具”になります。
そしてこの思考のトレーニングは、「自分の軸」を取り戻すプロセスにもつながります。大量の情報や他人の意見に流されず、自分なりの問い・仮説・感性で世の中を捉える力。それは、ビジネスだけでなく、「自分らしく生きる人生」そのものを豊かにするはずです。

JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント