楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.86 【日本は何故「閉塞感」が漂う国になったのか?③】
【マーケティングに必要なのは「右脳的な感性」と「自分なりの問い」】
「ロジカルでなければ認められない」「データと根拠がなければ、発言しても意味がない」。私たちがビジネスの現場でそう思うようになって久しく感じます。もちろん、論理的に考えることは大切です。
しかし、あまりにロジック一辺倒になると、本来のビジネスの出発点である「人間の気持ち」や「生活の中の違和感」が、見えなくなってしまうのも事実です。そこで今回は、いま私たちに必要な「右脳の力」について考えてみたいと思います。
【「右脳の力」とは何か?】
ビジネスにおける「右脳の力」とは、決してスピリチュアルな話ではありません。それは、「自分の感性で、日常生活にある目の前の現実を見つめること」「問題意識を持ち、自分なりに問いかけてみること」に他なりません。
たとえば、日常の中でこんなふうに感じることは、たくさんあると思います。
●なぜ、今の若者はテレビを見なくなったのか?
●なぜ、この町のカフェには女性客ばかりが集まるのか?
●なぜ、自分の母親は新しいモノを欲しがらなくなったのか?
こうした日常に転がっている素朴な問いは、どれも「右脳の力」から生まれてきます。数値やデータに裏打ちされたものではないけれど、ビジネスのヒントや新しい価値の出発点は、このような問いの中にたくさんあります。
【検索でわかる時代の落とし穴】
私たちは今、何でも「検索」すれば答えが出る時代に生きています。さらに、ChatGPTのような「生成AI」を使えば、調査レポートも要点もすぐに手に入ります。しかし、その情報を「どう解釈し、何に活かすか」は、あくまで使う側の人間次第です。
たとえば、あるテーマについて環境分析(現状認識)をするため、検索やAIを使って情報を集めると、たくさんのデータや事実が出てきます。しかし、自分の問題意識や仮説がなければ、どの情報を選び、どう解釈すればよいか判断できません。結果として、「情報過多で前に進まない」「結局、何が正解かわからない」という“マーケティングの樹海”に陥ってしまいます。だからこそ、情報を扱う以前に必要なのが、「自分は何に違和感を持っているのか」「何に疑問を感じているのか」といった、自分なりの“問い”=「仮説思考」を持つことなのです。
【マーケティングの本質は「問いを立てる力」にある】
本来、マーケティングは「売れる仕組みをつくること」ではありません。
それは結果であって、本質ではないのです。
マーケティングとは、「人間理解の技術」であり、「気づきをカタチにする思考法」、そして「解決策を組み立てる道具」だと、私は考えています。
そして、その出発点には、必ず「問い」があり、「仮説」があります。
●なぜこの人はこの商品を選んだのか?
●なぜこの街でこのサービスが流行っているのか?
●なぜ自分はこれに心がワクワクしたのか?
こうした問いが仮説を生み、行動につながり、結果としてビジネスのアイデアへとつながっていきます。「右脳の力」とは、まさにこの“問いを立てる力”であり、“仮説を立てる感性”だと言えるでしょう。
【私たちは「右脳」で生活しています】
ビジネスパーソンにマーケティング研修やコンサルティングを行うと、「私は左脳派で、クリエイティブなことは苦手です」とおっしゃる方がいます。では、日常生活で物事を決めるとき、「ロジカルシンキング」を使って、いちいち判断しているでしょうか?
実は、私たちの日常生活は「極めてクリエイティブな毎日」です。自分の直感・感情・気分・好き嫌いなどで物事を決めて行動しています。時には失敗もしますが、自分で考えて行動し、失敗して学ぶことで、次は失敗しないよう成長していきます。つまり、私たちの右脳は、日常の中で実はものすごく冴えわたっているのです。この右脳を、もっと仕事に生かしていきましょう。
たとえば、何気ない通勤電車の中の様子、スーパーで買い物する人の動線、カフェでの他人の会話。こうした「雑音」の中に、ヒントが潜んでいます。そして、感じた違和感や発見を、自分なりに「主観的に考える」ことが必要です。
●なんとなく、最近の20代はお金を使わないな・・
●なんで、あの店はオシャレなのに、誰も入っていないんだろう?
この「なんとなく」を言語化してみる。その主観の中に、他の人が見えていない視点があり、それが「ユニークなビジネスと価値創造」の第一歩である、「自分なりの仮説」に繋がります。ロジックやデータは、あくまでも仮説を検証するための道具にすぎません。
仮説が先、データは後。この順番を間違えると、マーケティングが使えなくなる。それが、私の実感です。
【「正解」ではなく「自分の視点」を持とう!】
「マーケティングを学んでも使えない」と感じている人は多いのではないでしょうか。その原因は知識不足ではなく、「自分の視点=軸」がないことにあります。正解は、誰も教えてくれません。むしろ、これからの時代に必要なのは、「正解のない問いに向き合う力」です。
●自分は何を面白いと思うのか?
●なぜそれが気になるのか?
●人生100年時代、世の中はどう変わっていくのか?
こうした問いを、誰かに“正解”を聞くのではなく、自分で「考え続ける」こと。それこそが、右脳の力を育てる一番の近道です。
【右脳を開き「生活者視点」に戻ろう!】
「ロジカルであれ」「根拠を出せ」——それは一見正しく聞こえますが、そのままでは多くの人の感性を閉じ込めてしまいます。
●右脳の力を取り戻すとは、「生活者としての自分の視点」で考えること。
●自分の感じた違和感に気づき、自分なりの問いを持ち、自分の言葉で語ること。
●そして、その仮説をもとに、ロジカルに整理していくこと。
これからのマーケティングに必要なのは、「左脳だけでも右脳だけでもない、自分の頭で考える力」だと、私は強く思います。
次回は、こうした「右脳×左脳」を活かした実践的マーケティング思考や、日常生活の中で「問いを立てる力」を磨くためのヒントをご紹介します。

JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント