楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.76 【市場創造は「ニッチ」から始まる!事例紹介】
そんなモノはAppleマニアしか買わない!
NTTドコモモバイル社会研究所が2024年1月に実施した「携帯電話所有動向調査」によると、国内の携帯電話所有者のスマートフォン比率は97%に達しています。調査を開始した2010年は4%でしたから、14年前は「たった4%のイノベーター」しか持っていなかった訳です。そのスマートフォンの歴史は、2007に発売されたAppleの初代「iPhone」に遡ります。
当時、日本の大手携帯端末メーカーが、マーケティングの定石に沿ってきめ細かな市場調査から顧客の声を聞き出し、その結果を論理的にフィードバックして製品開発していたのが、いわゆる「ガラケー携帯」でした。しかし既に成熟化していた携帯端末は、私たち顧客から見ると、些細な差別化や、使いこなせないスペックなど、今考えると、メーカーのエゴだったように思います。
そんな時代にAppleのスティーブ・ジョブズが発表したiPhoneは衝撃的でした。当時iPhoneを初めて写真で見た時「何これ、携帯電話?iPod?何、携帯端末?・・」みたいに、何だか分かりませんでした。日本のメーカーも「あんなモノはAppleマニアしか買わないよ!価格は高いし、ハードウェアや機能も問題、そしてAppleがどの通信事業者と組むか課題は多すぎる。失敗でしょ!」と酷評していたのです。
潜在ニーズを掘り起こす「テクノロジー」による革新!
しかし、その後のiPhone及びスマートフォンの進化と普及は言わずもがなです。テクノロジーの進化は著しく、iPhoneの場合「こんなモノがあれば便利だし、面白いでしょ!」というスティーブ・ジョブズの理念とユニークなコンセプト(顧客価値)、それを可能にしたテクノロジーが、私たちに今までに無いワクワクする価値を生み出したのです。
スティーブ・ジョブズは「市場調査が大嫌い」だった話は有名です。「ニーズ」を発見することがマーケティングの出発点。それを見つけるための市場調査ですが、そこから明確に分かることは、顧客が明言出来るニーズ、つまり「顕在ニーズ」が殆どで、顧客がなかなか気付かない「潜在ニーズ」を発見することは容易ではありません。
このような現状の問題点、そして人類未体験の「人生100年時代」のビジネスは、感性を生かして「こんなモノやサービスがあれば、こんな人たちをワクワクさせることが出来る!」という瑞々しいコンセプトとテクノロジーの融合から生み出されると思います。
注目される「Femtech【フェムテック】」
Femtechという言葉が浸透して来ました。Femtechとは「FemaleとTechnology」をかけ合わせた造語で、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決するモノやサービスを指します。
そのジャンルは、月経や不妊治療、出産、育児、子育て、婦人科系疾患、女性向けケア、セクシャル・ウェルネスなど多岐に渡ります。こうした女性の「体や性に関する悩み」は個人差があり、誰かに相談することが出来ない「タブー視」する傾向から、我慢する女性が沢山いました。
また医学の進歩は、主に男性の体への影響を図る実験を通じて集められたデータをもとに作られてきました。その理由は、女性だと実験中に妊娠した際の胎児への悪影響などリスクが大きいと考えられていたためと言われています。
こうした背景から、欧米を中心に女性の健康問題解決に特化したサービスを開発する人や会社が登場します。その一人がアイダ・ティン氏で、彼女はドイツで「Clue(クルー)」という企業を立ち上げ「生理日を管理するアプリ」を開発しました。そして2013年頃から自分たちが手掛けるサービス産業を「Femtech」と表現するようになったのです。
人生100年時代のウエルネス産業に「ECが寄与する」か?
2012年には60億ドルだったFemtechの市場規模は、2019年に400億ドルに拡大し、2025年には500億ドル規模に成長すると見込まれ、世界の投資家から注目を集めています。
Femtech市場拡大の大きな要因は、「SNS」を介してオープンに自分の悩みや考えを発信し、共感されるようになったこと。そしてECです。これまで抑圧されてきた女性達の声が表面化し、気軽に対面でなくとも買えることで、一気に市場価値が高まってきたと言えるでしょう。
日本国内の市場規模は、2023年で前年比107.0%の744億円で、まだまだニッチな市場です。そんな中でFemtech が期待されている分野が「更年期」です。従来から更年期障害という言葉があり、また更年期を過ぎると女性の価値が下がるという、日本人ならではのネガな固定観念がありました。
しかし、人生100年時代と言われる現代社会は、50歳を過ぎて後半戦人生を「自分らしくワクワク生きる」女性達が増えています。年齢や性別という「属性」、そして「従来の価値観」で市場を定義してビジネスを行う人、特に男性から見ると「Femtechは所詮ニッチ市場、高齢になっても美を意識する女性は少数派」と思うかもしれませんが、SNSを介した「口コミ」で、本当に人間にとって価値あるモノやサービスは、売り手側の仮説をはるかに超越して世の中に支持され、新たなマーケットやビジネスを創造します。
テクノロジーの進化を生かすには「感性を磨き、人間の行動を目撃する」ことが大切だと痛感する今日この頃。「すべてのイノベーションはニッチから」スタートします。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント