楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.71 【新しい時代のリサーチの在り方とは?②】
調査結果は理解出来るが自身が魅力を感じない?
前回のコラムで、定量調査は「実態把握型」なのに対して、定性調査は「インサイト探索型」であり、顧客のインサイトから「チャンスの芽」を導き出すことは、大規模なアンケートやビッグデータの分析からは、導き出すことは難しいとお伝えしました。今回は私が関わった仕事で、興味深いお話をお伝えしましょう。
某メーカーの50歳くらい女性幹部社員の方から、こんな相談を受けました。「人生100年時代に、50歳以降のセカンドライフとは、どんな生き方、暮らし方で、それを満たす美容や健康領域のモノやサービスとは何か?女性を対象に調査を行い、そのヒントを知りたい。」と言うのです。確かに人生100年時代は前例が無く「ヒント」を導くのは難しそうです。依頼者が言うには「幾つかのグループインタビューやアンケートを行ったが、論理的な正解で数値的根拠もあり理解できる一方、その回答であるモノやサービスを自身が欲しいかと思うと魅力を感じない。」とおっしゃいます。
潜在ニーズを掘り起こすには?
例えば50代女性の悩みで「更年期」の話が出てきます。であればそのソリューションに「更年期のサプリメント」を発売するとなると、既に世の中にそのような商品は販売されていて、玉石混交の「レッドオーシャン」なサプリメント市場に導入することになります。
更には、その調査からは「漠然とした老後の不安」が多く発言されています。
私は「調査対象者」を聞いたところ、いわゆる中間層とも言える、市場規模が大きいセグメントに属する方でした。
それを聞いて私が感じたのは、大手メーカーさんは大きな売り上げを上げたいため、大きなセグメントを狙いに行きます。しかし、今回の「人生100年時代のセカンドライフ」というテーマは、普通の方からはなかなかユニークな発言が出にくいテーマです。
そこで私が提案したのは、インフルエンサーにヒアリングをする定性調査です。若いインフルエンサーは多くの企業が注目していますが、50代や60代にもInstagramに発信する女性たちはたくさん居ます。彼女たちは自身のライフスタイルを「自分で学習し、自分で実践して発信し、多くのファンに支持されている。」方であり、潜在ニーズを掘り起こす「チャンスの芽」を発見する期待が出来ます。
ZOOMで行う座談会
そして私が提案したのが「ZOOM座談会」です。定性調査では、如何にして顧客の本音を引き出すか、インサイトを洞察するかが大きな課題です。そこで女子会のような雰囲気で、何の忖度もない自由な発言が出来るように、私が知っている50代から60代前半のインフルエンサー女性を6名集め、あえてオンライン上で120分の座談会を行いました。同様の座談会を他の3名のブレーンにもお願いして、合計4グループ、24名のインフルエンサー女性にヒアリングを掛けたのです。
結果は狙い通りでした。先ずは定性調査で最初に行う「ラポールの形成(参加者の関係構築)」が不要です。参加者は私の友人・知人ですし、インフルエンサーだけあって外交的性格で、インターネットリテラシーも比較的高い方です。最初から最後まで120分間、本当に女子会のような活発で前向きな発言が多い座談会でした。
年齢を重ねることを肯定的に捉える
今回のテーマが「50歳以降のセカンドライフ」であり、一般的にはシニア世代に関する話です。しかし年齢を重ねた多くの生活者は「年齢を重ねることは、先細って行くこと・・」と捉えがちで、大なり小なり「お金・健康・孤立」の3大不安を抱えています。しかし、インフルエンサー女性は「自分らしく生きる、大人の暮らし。」を実践していたのです。
先ほどの「更年期」の話題も当然出てきましたが、その体験談や解決方、またユニークなモノやサービス、ビジネスのアイデアまで「ビジネスチャンスの芽」が豊富でした。
調査レポートを納品し、報告会を実施した際には、メーカーの依頼者女性の目が輝き「私自身がワクワクする内容で、買ってみたい、行ってみたい!」と大きな衝撃を受けていらっしゃいました。
今回の調査はあくまでも「24人」の女性の意見です。事前リスクを少なくしたいのであれば、座談会の結果を基に仮説を整理して、答えやすい設問の大規模アンケート調査を実施すれば良いと思います。自分自身では気が付かなくても「こんなユニークなモノやサービスがあったら?」と具体的に分かりやすくアンケートを行えば回答しやすいはずです。
新しいテーマや市場創造は、最初はニッチから始まります。既に顕在化されている分かりやすいニーズを満たすモノやサービスは、既に各社が市場参入して競争になっています。
前回お伝えしたように、現場でマーケティングを実行するキーパーソンが、上層部や経営層に対して「入口=調査の目的」を明確化することが重要なポイントです。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント