楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.70 【新しい時代のリサーチの在り方とは?】
環境分析を明確に行うための市場調査
マーケティングを行う際、最初に行うのが「環境分析」です。環境分析のフレームワークの一つは、自社を取り巻く世の中の環境を把握・予測する「PEST分析」で、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)という4要素から現状を把握します。そしてもう一つは、自社を取り巻く業界の環境を把握する「3C分析」で、市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)という3要素から現状を把握します。
この過程で、現状把握が十分でない場合、特に重要な「顧客理解」を深める場合には「調査してみよう」ということになります。調査を通じて、変化・進化を続ける市場や顧客を捉え直すためです。しかし調査をしようとした時に「どういう調査をするか?」という問題を抱えるケースがあると思います。
調査には目的と仮説が必要
環境分析を行う際には、先ずは「二次データ」と言われる、内外にある既存の様々な情報や資料、データなどを用いて現状を把握します。特に現在ではデスクリサーチと言われる「インターネットの検索」で、かなりの外部情報が手に入ります。
それでも十分に現状把握が出来ない場合に「一次データ」と言って、あらゆる調査手法の中から「実態調査」を行います。
「どこにチャンスがあるのか?」「何故、最近売り上げが低下したのか?」など、実体調査を行う前提は様々ですが、実施する時のポイントが「目的と仮説」です。例えば既存商品の売り上げが低下しているという事実がある場合、直面している論点として「拡販を図るには、価格の引き下げが必要ではないか?」ということで、調査の「目的」を明確にします。
そして次に「仮説」です。上記の例であれば、現時点で仮説として想定される最適解は「10%の価格ダウンでA社との競争に勝てるのではないか?」という具合です。調査の目的と仮説を明確にした上で、それに適した調査手法を選択します。
定量調査と定性調査
調査には「定量調査」と「定性調査」という大きく分けて二つの調査手法があります。先ず「定量調査」は、一定のサンプル数(調査対象者)の中での割合を基準に、「量的な分析」を実施する調査です。ある商品カテゴリーの所有・購入実態や購入重視点、ブランドへの認知・好意度・イメージなどを「数値」で把握するために行います。「実態把握型」の調査と言えます。
最近では「インターネット調査」がメインになり、早くて安く実施することが可能です。その他にも「郵送調査」「訪問調査」「電話調査」などがあります。5年に一度の国勢調査は、非常に大規模な定量調査です。
そして「定性調査」です。定性調査は数値化出来ない情報や、顧客の潜在ニーズを抽出する際など「質的な分析」を実施するための調査です。
定性調査は、顧客の評価・態度・行動などの「非数値」なものを把握します。隠れた心理・感情といった「インサイト探索型」の調査です。端的に言えば「顧客の生の声」が聞けることが最大の利点です。
具体的には「グループ・インタビュー」と言い、モデレータと呼ばれる司会進行者が、小集団に対して実施するインタビュー形式の意識調査方法や、一人一人に調査し、深層心理を抽出する「デプス・インタビュー」があります。
成熟社会・健康長寿社会の日本で有益な調査とは?
昨今ではマーケティングもデジタル化の恩恵で、あらゆる角度から「数値化」が可能であり、インターネット調査による定量調査が主要になっているようですが、成熟社会、更には人生100年時代と言われる健康長寿社会の日本市場で、顧客の価値を創造するためには、サンプル数は少なくても、リアルな顧客理解から得られる潜在ニーズや、あらゆる情報とメディアが存在するフィールドで、購入へ導くポイントを把握できるのは定性調査です。先ほどもお話ししたように、定量調査は「実態把握型」なのに対して、定性調査は「インサイト探索型」です。つまり顧客のインサイトから「チャンスの芽」を導き出すことは、大規模なアンケートやビッグデータの分析からは、導き出すことは難しいと考えます。
「10,000サンプルのアンケート調査なら信用できるが、たった5人に聞いた話で何か分かるのか?」と、良くビジネスの現場で異論として出てきます。特に上層部や経営陣には多い意見ですが、現場でマーケティングを実行するキーパーソンが、上層部への報告や経営層への答申を行う際には、「入口=調査の目的」を最初に明確化することが重要なポイントです。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント