「伝える」「届ける」が難しい時代だから。
初めまして。近藤あゆみと申します。
ふだんはコピーライターとして企業のMVV、企業サイトのコピー、ネーミング、サイトディレクションなどをしています。時にライターとして読みものも書きます。
広告会社コピーライター→ダンサー→ECベンチャー立ち上げメンバーという我ながら謎の変遷の中、ずっと「ことばまわり」にたずさわってきました。「気のきいたことばをひねり出す仕事」というより「そのひと(また企業)が持っている思いをじっくり聞いて、なるべく伝わりやすいことばや形に変換していく仕事」をしている日々です。
ことばの領域の仕事はデザイナーやエンジニアとは違い、ともすると「わざわざ頼まなくても何とかできる」と思われがち。でも昨今、特にEコマースに関しては「ことばの届け方」「思いやセールスポイントの伝え方」は以下の3つの点からなかなか難しいなあと感じています。
★数値と速さだけでいいのか
何人がクリックしたのか。実際にページを見たのか。カートにモノを入れたのか…それらがすべて「数字」として出る。それ自体は悪いことではありませんが、その数字を追い求めすぎると「本当に伝えたいこと」からは微妙にズレてゆきます。
お客さんの判断速度や飽きる速度も昔よりずっと早くなったため、こちらもつい「インパクトで惹きつける!すぐ分かる!飽きない!」を追い求めようとしてしまう。
売るための工夫は大事だけど「数字を取る」「瞬間的に注目してもらう」ことが主目的になると、結構とんでもなくなります。ネットはもうそういうものであふれてる。インパクトを狙いすぎて不快感をもよおす画像、脅しのような宣伝文句、コンテンツの最中に出現する罠のような広告。これって届ける側として本当にいいことでしょうか…?
★決めつけられない時代
「嗜好やライフスタイルが多様化した」はその通りですが、ひとは昔から多様だったと私は思います。今は個々の声が上げやすくなったこともあり「右へならえはもはや限界!」というのが実際のところ。社会状況的にも「みんなが憧れる」「ステータスを誇れる」というモノに人は飛びつかない。「アラサー女子ならこれ」のような年齢や属性でのひとくくりはもう無理。
雑なまとめ方をされることにも敏感ですから、これまでの伝え方や届け方のままだと思わぬ炎上案件になったりする。世の中がやりづらくなったわけでも消費者がめんどくさくなったわけでもありません。発信側の意識アップデートできてない、というだけです。
★存在意義と姿勢を語れるか
今は企業でもお店でも「パーパス」が必要な世の中です。直接関わるお客さまをどう幸せにするかだけでなく「社会にどう貢献できるのか」「社会の問題に対してどういう姿勢でいるのか」が問われてきている。環境のこともそうだし「差別やジェンダーギャップにどう対応するのアナタのとこは?」という問いかけに、もはや知らんぷりはできません。「モノさえ売っていればいい」を貫くのはちょっと難しい時代です。
こんな時代に、お店として、企業として、個人として、届けたい人にことばをどう届ければいいのか?何かいい方法はあるのか?
最初に逃げを打つのはずるいなーとは思いますが、私はマーケッターのようにデータに基づく理論的分析はできません。「魔法のワードでお客さまを惹きつける!」なんて必殺技もありません。ごめんなさい。
その代わり、様々な企業やクライアントとお仕事をしてきた中で学んだ「大事なこと」を挙げてみます。
・嘘をつかない。うわっつらの言葉で話さない。
・お客さまを決めつけない。脅さない。言いくるめない。
・強さよりもやさしさ。刺すよりも細部をすくいとる。
ちょっと青くさいですかね…?でもこれが実感です。
「流行りや煽りに乗ろう!」「大安売りで大量消費Yeah!」みたいな売り方買い方に双方疲弊しているからこそ(そういえばドンキホーテも、激安→驚安と変えましたね)、売る理由や意義、買う理由や意味をきちんと見せる。どデカい主流からこぼれ落ちるものこそすくい取る。それは企業自身の本音かもしれない。社員の悩みかもしれない。お客さまの迷いや変わった嗜好かもしれない。多分ヒントや光明はそこに隠されています。聞きづらい小さな声、ふだん見えにくい思いってとても大切なのです。
確実に売れる宣伝文句があるわけでもなし、耳ざわりのいい美辞麗句がカタチをよく見せてお客さまの心を動かすわけでもなし。何かを伝えたいと思ったら、じっくり聞いて、正直に語る。「一斉に瞬時に」ではなく、時間はかかるけど、届けたい人には必ず届く。そういう時代でもあると思います。
コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。