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「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.28 お行儀よくまとめると、伝わらない。

「まとめないで!散らかしたままにして!」

これは私が企業へのヒアリングでよく叫びがちな言葉です。

企業理念、ステートメント、会社HPの文言…。あらゆる「組織のことば」を作る時、私の場合はまずトップにロングインタビューをします。代表の思いというのは、真ん中に通る背骨のような、あまたの草花が育つ土壌のようなものなのでいちばん大事です。
次に経営陣や社員にもヒアリングをします。一人一人が難しければアンケートという形で質問に答えてもらったり、社員で話し合ってワードを出してもらったりします。それを担当の方が私に渡してくれるのですが、その際に冒頭の言葉をしつこく言うことが多いです。

もちろん、大量の意見を読みやすく整理して制作者に渡してくれるのはとても誠実なやり方。本来は悪いことではありません。特に近頃の若手社員の方々はとても真面目できっちりしています。なのでスプレッドシートなどで見事な一覧にしてくれたり、皆の意見をキュッと端的なワードにしてくれたりします。

でもそれだとあまりにも「まとまりすぎる」んですよね。

ある企業で「自分たちの強みや魅力」についての意見をまとめてもらった結果、「信頼とテクノロジー」というものすごく集約された言葉になって出てきたことがありました。
それは確かに間違ってはいないと思います。でもな…ううむ何て言おうかな…。そう迷っていた時に、社長さんが「これ、ウチじゃなくたって言えることだよ」とひとこと。そうです、そうなんですよね。

現場での話し合い(ブレスト)の時や、個人で「何て書こうかな…」と思いをめぐらせている時。そういう時はきっと、細かくて具体的なあれこれが出てきていたと思うのです。でもそれを「読みやすく、ビジネス的にそれらしく、ひと様にお見せできる体裁で」まとめようとすると、往々にして没個性でつまんなくなってしまいがちです。

この連載の第一回目でも同じようなことを書いたのですが、
「真面目なまとめ」はとことん一般的な言葉に収束しがちです。
「チームワーク」「信頼」「実績」「誠実」「感謝」「効率」「ソリューション」「社会貢献」「未来創造」「技術革新」…。
これらの言葉は、とても「まとも」です。でも果たしてその言葉に「ウチらしさ」があるでしょうか?読んだひとに他社と違った独自の印象を残すでしょうか?
「真面目なまとめ」は大変もったいないのです。

例えば「10年20年愛用しているお客様がいる」「オンラインだけでなく直接訪問してサポートする」ような状況を「信頼」のひとことでまとめてはもったいないし、誰のためのどんな「未来」をどうやって「創造」していく野望があるのかを、細かく伝えなくてはもったいない。

もちろん、冗長な資料を「結局何が言いたいのか」とまとめるのはよいと思うし、そういう時にAIの力を借りて要約するのもアリだと思います。

でも想像してみて下さい。あなたが面接でも婚活でもマッチングアプリでも、とにかく出会いの場で「この人に自分の個性を知ってほしい」と思ったとします。その時の自己紹介が「私は明るく誠実な人間です」や「趣味は読書と映画鑑賞です」だったら、あまり印象的には残らないですよね。
明るいってどう明るいの?誠実って何に対して?具体的エピソードがないと伝わらない。読書と映画鑑賞?自己啓発本が好きな人、ミステリーばかり読む人、昔の日本文学を好む人。任侠映画ファン、マーベルシリーズ大好きな人、A24が製作する作品ばかり観る人。それぞれ全然違ってきますよね。

組織のことばもそれと一緒です。
誰かの口からスルッと出た素直なもの。まとまらない思い。具体的かつ個人的なエピソード。整理する時に削られてしまう余談。
「真面目なまとめ」からはみ出し、こぼれてしまうようなそれらの言葉の中にこそ、その組織の個性や「本当に言いたいこと」があったりします。だから、でっぱりやへっこみ、トゲやこぶみたいなものを、削ってならして磨いて、つるんとしてお行儀のいい言葉にしてしまわないでほしいのです。
一般的な言葉になればなるほど、ひとの耳も目も素通りしてしまうし、どこか「嘘っぽさ」が漂うのです。決して嘘ではないのに嘘っぽくなってしまうのは、いやですよね。

だから私は何度でもしつこく言います。出てきた言葉を、意見を、思いを、どうかまとめないで。まとまらないまま、散らかしたままで私に投げて下さい。何ならそれが言葉ではなく、絵でも図でもいい。数はあればあるほどいい。その「散らかり」自体がその組織の個性です。そして、それを(お行儀よくなく)まとめてひとつのことばにするのは、コピーライターの仕事です、と。

みなさんも、社内でことばづくりをする際、どうも魅力的なものに仕上がらないな…と悩んだ時は、「まとめずに散らかす」「それっぽいワードを使わず表現してみる」を、心がけてみて下さいね。

JECCICA客員講師

コピーライター 近藤あゆみ

Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。


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