「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.19 夜道を照らす松明は、借りるより作れ。
「その提案はあくまで主観なので、根拠となる客観的データが欲しい。『こうしたら売れた例がある→ゆえにこの提案が有効』という数値や過去事例を出してくれないか」
先日そう言われて思わず「ハ??」と声が出た私です。読者の皆さんにはこういう経験はありませんか。それとももしや「客観的データをくれ」と言う側のひと…?
コピーライターという仕事柄か、私ははなから数字アレルギー気味ではあります。それにしてもアイデアを「主観(独りよがり)」、データを「客観(公正な拠りどころ)」と二極化するのは何か違うやろ!と思うのですよ。
そりゃあアイデアは私の脳から出てきたから100%主観でしかないよ。でもデータってそんなにも頼れるもの?全体重をかけても揺るぎない柱なの?
★前例に倣えば永遠に後追い
データや過去事例は「どう読むか」「どう活かすか」が腕の見せどころではないでしょうか。それをただ人気投票のように見たり、そのまま絶対的な指針にしたりするのはいただけません。
例えば他社や巷の人気アイテムなど「グラフの一番大きいところ」を拾ってばかりいると、「ウチでそれを売る理由」「お客さまがウチで買う理由」という大事なものを見失いがちです。
追うべき人気者、お手本にする背中を探すクセがつくと、自分たちの個性や売りというものは育たない。そうなると永遠に先導者を超えることはできません。
そもそも、あっちで売れたものをそのままこっちに持ってきても売れるとは限らない。「どこでどんなふうに売ろうがゆるぎなく強い商品」なんてめったになく、大抵はその売り場の空気、語り口、セールス方法、タイミングなんかに大きく影響されますよね。
それでもやっぱりデータを見てから売るものや企画を考えたい。そんな時、私なら「少数派」や「その他」に注目します。このわずか数%の人はなぜこれを選んだのか。たった1票しか入っていないコレ、興味深いな。そもそも枠外にいそうな(データを取られてすらいない)層に注目したら面白いのではないだろうか?
「誰も注目してこなかったところ」には金脈やアイデアの種が眠っています。それをうまく花開かせると、自社の唯一無二の個性に育つかもしれません。
★少数派は熱烈なファンになる
例えばキングジム「ポメラ」の開発ストーリーがそうですよね。
ポメラはネット接続のない、テキストを打つだけのデジタル機器。開発者が役員会議で提案したとき、当然ながら「そんなもの誰が買うんだ」という声ばかりでした。しかし15人いた出席者のうち、たった1人の社外取締役だけが「値段はいくらでもいいから欲しい」と言ったのです。多数決では完敗だけど、1人の熱烈な「欲しい」があった。こうしてポメラは商品化、今でも根強いファンを持つロングセラー商品になりました。ニッチは濃くて強いのです。
今はなおさら「皆が買うなら私も買う」「安けりゃ買う」が起こりにくい時代。お客さんの嗜好が多様化していて、選択肢の幅もものすごく広い。ならば、データの見方も変えてみる必要があります。
★主観はビジネスの宝物
「客観と前例がないとダメ」派に私が言いたいこと。それは「どうか自分(や周り)の感想や思いつきを信じて、無下にはしないで」ということです。
そういや「それってあなたの感想ですよね?」が口癖のネット界有名人もいますが、感想で何が悪い??個人の頭に浮かんだ感想や思いこそ、人の営みに大切なのです。
例えば道行く若者を見て「最近の若いやつはこういう服が多いな」と思う。レストランに入って期間限定メニューを見てオッとなる。スーパーやファストフードの無人レジの画面が分かりづらくて「もっとこうだったらいいのに」と思う。お子さんの好きなゲームやYouTubeの話を小耳にはさむ。自分のお腹の脂肪が気になるが、同世代のアイツはなぜあんなにスリムなんだ…。
こういう「なにげなく心に浮かぶよしなしごと」を主観と呼ぶのなら、まさに主観ばんざいです。自分のビジネスとはまるで無関係に見えても、一度結びつけてみれば、そこにはたくさんのヒントやアイデアが埋まっているのですよ。
売り手も買い手も、ひとは皆「生活」をしています。その生活とビジネスは不可分です。ならば自分自身の毎日の生活と、お客さまの生活には、必ず共通項があるのです(お城に住んでロールスロイスで出勤していない限りは)。自分のくらしの半径5メートルを見つめることは、お客さまを見つめることに他なりません。
個々の顔の見えないデータに依存するくらいなら、自分と周囲の人々の「主観」ってやつをいちど丹念に拾ってみた方がいいと私は思います。「35〜49歳女性」という角の取れたのっぺらぼうなデータより、周囲の女性何人かに、ラフに自由に語ってもらってみて下さい(グループインタビューという場を設定すると「ふだん」が出ないからダメ)。その方がきっと面白い結果になりますよ。
メンバーの主観はもっと活かす。データはちょっとナナメに見てみる。既にある正解を探すのではなく、自分たちで新しい解を作ってみる。そうすると行き止まりだと思っていた暗がりに、新しい道が見えてきたりします。ぜひ試してみてくださいね。
コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。