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自店を選んでいただく/自店で買っていただく必然性

■ECやデジマが当たり前の時代
 少し前のことだが、とあるビジネスの会合に参加した際、個人でカジュアルウェアのセレクトショップ(リアル店舗)を営んでいる方と知り合いになった。ECにも力を入れていて、複数の通販モールに出店しているとのことだった。SNSも積極的に活用していて、入荷した商品の紹介や、着こなし・コーディネートの提案、メーカーの展示会での(次シーズンの)商品の紹介など、とても上手に情報発信しているように見受けられた。個々の小売店・リアル店舗がECのチャネルを持ち、またデジタルマーケティングを積極的に行うのが、もはや当たり前の時代になった。

■メーカー、小売店、お客様の関係が変わった
 「いつでも、どこ(から)でも、(買える)」のECのめまぐるしい発達は、「メーカーや輸入元」「小売店」「お客様・消費者」の関係を大きく変えた。
 ひと昔前は自身で小売りを行っていなかった「メーカーや輸入元」が、いまではダイレクトマーケティングの名のもと、自社ECショップを当たり前のように持ち、デジタルマーケティングを積極的に行い、全国のお客様と直接繋がっている。大手通販モールへも積極的に出店し、その多くは「各地の小売店のECショップ」と競合関係にあることだろう。当たり前のことだが、メーカー・輸入元だけに品揃えや在庫は圧倒的に豊富で、アフターケアも万全、信頼性も高い。メーカー・輸入元にこれをやられると、並みの小売店では太刀打ちできないだろう。
 お客様・消費者も変わった。ネットやECがここまで発達する以前は、主導権は小売店にあった。お客様は、小売店が選んで仕入れた商材・店頭に並んでいる商品の中からしか選ぶことができなかったし、商品にまつわる情報も小売店・販売スタッフのほうが圧倒的に多く持っていた。いまやお客様はネットやECを駆使して「どこからでも買える」し、商品について販売スタッフよりずっと詳しかったりする。下手な説明を受けるくらいなら、Amazonのレビューを読んだほうがよほど購入の判断材料になる。お客様の「お買い物技術」は、小売店・リアル店舗を置き去りにしてしまうほど進化してしまったと言えるだろう。

■小売店・リアル店舗の課題
 欧米ほどではないとはいえ、EC化率は徐々に、そして確実に高くなってきており、小売店やリアル店舗は、その役割を見つめ直す時期がきているように感じる。
 「どこからでも買える」というのは、例えば、最寄りの小売店(リアル店舗やそのECショップ)でも、楽天市場のどこかのECショップでも、Amazonでも、メーカー・輸入元の自社ECショップでも、「ポイントやサービスに多少の違いはあれど、どこからでも同じ商品が買える、という選択肢の多さ」という、お客様・消費者にとっての利便性の高さ・メリットである反面、他店・他チャネルでも販売している商材を多く取り扱う小売店・リアル店舗にとっては本当に厄介な問題で、「自店を選んでいただく理由/自店で買っていただく必然性をどのように生み出すか」という問題を避けて通れない。そこにしか売っていない/そこでしか買えないという「以外」で、明確に自店の優位性を示すのは決して簡単ではなく、これはショッピングセンターや百貨店等も含めたリアル店舗・リアル商業全般に通ずる課題・問題であると言えるだろう。

■自店を選んでいただく/買っていただく必然性
 もちろん、いますぐに小売店・リアル店舗(やそのECショップ)が立ち行かなくなるとか、なくなるとか、そういう話ではない。そこにしか売っていない/そこでしか買えないという「以外」で、明確に自店の優位性を示せる要因には、どんなものがあるだろうか。
 「実物確認や試着」はどうだろうか。ファッションアイテムで言えば「素材感の確認や、試着によるサイズ確認が必要」な場合も少なくないし、それ以外にも「実物を見ないと買いにくい」商材も多いことだろう。お客様にとって最寄りの小売店・リアル店舗であるという優位性は、間違いなく存在する。しかし、それ自体の必然性・優位性と「実際の購入(決済)チャネル」は必ずしも一致しないのが残念なところで、この点だけでお客様に時点を選んでいただくことは難しい。また、テクノロジーやECの進化によって、近い将来ある程度解消されていく可能性も高い。画像認識やビッグデータ、サイズデータベース、VRなど、あらゆるテクノロジーが、この「実物確認や試着」という小売店・リアル店舗の必然性・優位性を奪いにくるだろう。
 「接客」という要素も、小売店・リアル店舗の必然性・優位性として語られることが多い。接客を受けるのが好きでないお客様もいるし、昔ほど情報の非対称性がない(逆にお客様のほうが詳しい)というのは上述の通りだが、それぞれのお客様に合わせた提案やアドバイス、おもてなしができる点、なにより面と向かってのやり取りや人と人との繋がりなど、有効に作用する場合に限るものの、接客は必然性になりえるだろう。広い意味で「帰属意識」と言ってもよいかもしれない。「他のどこで買っても同じだが、同じ買うなら、ここで買いたい・あなたから買いたい」という「仲間意識・ファン意識」みたいなものだ。

■帰属意識は一番の必然性
 冒頭の、知り合いになったカジュアルウェアのセレクトショップの話に戻そう。しばらく経ったある日、その店主のSNSのとある投稿に惹かれた。ECでの注文商品(その時の商品はウール・ナイロンのアウター)をお客様へ発送する際、梱包前に「丁寧にアイロンがけをして、しわ・折り目を取っている。着じわは良いが、たたみじわは嫌だと思うから。」というのだ。メーカーや輸入元のECショップで商品を購入した場合、生産工場からの納品時や倉庫での保管時に付いたと思われる「たたみじわ・折り目」などが付いたままになっていることがほとんど。着用しているうちにしわが取れてきたり、着じわと交ざって気にならなくなったりするわけだが、最初からないほうが気分が良い。小さな点かもしれないが、こうした「心配り」は、メーカー・輸入元や、効率にこだわる大手のECショップは総じて苦手だろう。小売店ならではの魅力だと言える。
 私はこの投稿を見て、このショップのファンになった。個人的に知り合いであるということももちろんあるが、帰属意識が芽生えたと言ってもいいかもしれない。残念ながらまだ購入したことはないのだが、この手のアイテムを欲しいと思った時、またはこのショップで取り扱っているブランドや商品を欲しいと思った時、AmazonでもZOZOTOWNでもなく、このショップで買いたいと思うだろう。遠方なのだが、出張や旅行で近くに寄ることがあれば、リアル店舗を覗いてみたいとも思う。「同じ買うなら、ここで買いたい・あなたから買いたい」こうした帰属意識は、ポイントが付くとか送料分安いとか、そういう単純な損得ではなく、またその瞬間だけのものでもない。

 あなたのショップでは、どのように帰属意識を高められるだろうか。

JECCICA特別講師 唐笠 亮

karakasa

株式会社パルコ・シティ シニア・コンサルタント。数々の専門店・ショッピングセンター等を背景とした大規模ECの構築やシステム連携のプロジェクトマネージャーを務める。

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