流行りではない。普遍的で文化を深掘りする「麻布台ヒルズ」
街を作り、文化を醸成していく
もはや、街なんですね。「麻布台ヒルズ」で先日、プレス内覧会が行われて、僕はそこで、関係者の話を聞いてきたのですが、それを痛感しました。互いに店なり、ブランドなりがその価値を発揮して、新しい街として「ここならでは」の文化を作り上げていく。
でも、それは新しいトレンドに乗るというわけではないんです。感じたのは、普遍的な価値を深掘りすることで、充実した生活を作ろうとしていることです。
例えば「8ablish」というヴィーガンのお店に出会い、気づきを得ました。一見すると「ヴィーガン」というと、トレンドの要素に受け止められがちです。しかし、聞けば、同店の創業は、今から20年前まで遡ります。その言葉すら浸透していない時代です。流行り廃りを超えた価値観が、彼らにあって、それが多くの人に受け入れられただけのことです。僕らは「ヴィーガン」と聞いたら何を思い浮かべますか。「菜食主義」の人に限られる食事を連想しますよね。
ヴィーガンは人を選ばない
しかし、彼らはその逆。一貫しているのは「ビーガンは『人を選ばない』」という姿勢でした。8ablish代表 川村明子さんは「食事時によくアレルギーの確認をする時がありますよね」そう語り始めました。
「ヴィーガン」であれば、その確認の必要もありません。そう彼女は言います。安心して、食べることができるから、ヴィーガンの食事は「人を選ばない」。誰もが楽しめる食卓を作り出すという着想に辿り着き、店の立ち上げにつながります。
面白いのは川村さんがシェフではないことです。実はクリエイティブディレクターであり、全く違う畑の人。でも自身の知人のパートナーが「ヴィーガン」であることを聞いて、クリエイティブの可能性を感じました。見た目や内装など、クリエイティブが発揮されるほど、「ヴィーガン」の価値は定着する。そもそも万人に受け入れられるポテンシャルがあったから、クリエイティブで広めて、20年やってこれました。ここまでくると、飲食というよりは、文化です。
培ってきたものをアートにして文化を訴求
文化を重んじるから、ミュージアムもあります。それも普遍的な価値あることを深掘りして、僕らに気づきを与えます。僕が注目したのは、国内で唯一の「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」です。
週刊少年ジャンプも、いまやデジタルで読まれています。しかし、古くは活版印刷といって、金属板に活字を埋め込んだ版でプリントしてしていたんです。しかし、時代の流れによって、活版印刷ができる企業も1〜2社しかない。
だから、そこへの敬意を評して、その版元を探し回り、拾い上げるわけです。それを漫画の価値として尊重し、アートとして、彼らがそれを表現すれば、漫画は新たな層に訴えかけ、関心を持ってもらうきっかけになります。新しいことじゃなく、ポリシーがあるかどうか。そこに自分たちとしての使命を見出せるかどうか。
商業施設は付加価値を追うからこそ店は今
一見すると、文化的で付加価値のある要素を口にすると、富裕層向けと片付ける向きもあるでしょう。でも、そうではありません。今や多様化が進む中、ピンポイントで、奮発することだってあります。推し活がまさにそうであるように、それでいいのです。
施設側としても、価値をわかってくれる人を集めて、相互にそのブランド価値を共存させて、そのブランドとしての理念を育てていくことのほうが、企業の未来があるわけです。だから街である必要があり、それは、付加価値のあるまちづくりでなければならない。
わかるでしょうか。世の中は価格比較で勝負をする時代ではなくなっています。関連して「時代の象徴」だと思ったのが、D2C系の企業が名を連ねていること。2024年5月までですが「Mr. CHEESECAKE」が入っています。まだ創業から10年未満の会社なのに、です。
自分たちを知り正しく発信しお客様と創るD2C
社長はレストランのシェフ。提供するのは、レストランで提供するような儚いチーズケーキ。シェフの田村さんは言います。レストランでは万単位で代金を支払ってくれているのだから、そのチーズケーキだけを買いにくる人については売り場として分けたかったと。そこで着想したのがネット通販であり、こだわりと品質を守る以上、自然な流れでした。
それも特にトレンドとかではなく、案外、普遍的。そんな彼らなら、麻布台ヒルズで、それをどう派生させていくのかという広がりにつながります。儚いからこそ、チーズケーキを初めてカップに入れて、手土産テイストにして、リアルでの持ち運びを意識した高品質の進化を遂げました。
繰り返しになりますが、施設は街を作ろうとしています。その理由は、街を通して、付加価値のある場所を作ることで、価値を理解する人を定着させたいから。
でも、その付加価値のフックとなるのは、普遍的で皆が受け入れられる文化を持っているブランドや店ということになります。そういう店であり、ブランドになれるかが、長い目で見て大事になってくるでしょう。
今日はこの辺で。
JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役