企業の理念やそこで働く人の思い、商品についてのあれこれをヒアリングして言語化し、皆に伝わりやすくするのが私の仕事。連載のタイトルだってご覧の通りである。
だけど最近、「言語化して伝わりやすくするのが本当にいいことなのか…?」みたいな根本的な疑問がわくようになってしまった。
みんな、疲れていたりしないだろうか。または慣れすぎたりしてないだろうか。
何にって?「言語化せよ」というあまたの声に。そして「分かりやすさ」至上主義に。
言語化すべきだ。言語化が上手くないといけない。もっと分かりやすく、伝わりやすく。そのことに関する手練れは世の中(特にインターネット)にはたくさんいて、自分がわざわざ言語化しなくても、うまいこと代弁してくれたり、まとめてくれたり、効率のいいハウツーやハックを教えてくれたりする。AIだってこの上なく親切で、数秒で答えを出してくれる。
シンプルで分かりやすいまとめ。トントントーンとスムーズに流れ、うまいところに着地するプレゼン。きっぱりとして気持ちのいいスローガン。説得力のある誰かの説明。AIの出してくるかなりの「それっぽさ」。インフルエンサーも政治家も端的に分かりやすくアピールできた人が人気を博す現状。
いやいや、待ってほしい。
掲げられたその大前提、そもそも間違ってたりズレたりしてやしないか?なんとなく腑に落ちてかつ溜飲が下がるその言説、何かをまるっとスルーしてやしないか?
自分はいま「なるほどね」と納得したけど、いま言葉が出なくて気持ちを飲み込んだけど、いま「素晴らしい!」と同意しちゃったけど、それほんとか?ほんとに自分の「いまの気持ち」とおんなじなのか?
「AではないならBです。どちらも違うならCに決まり」…そういうあらかじめ用意された枠に入らないもの、分類やレッテル貼りやまとめをしてしまうとこぼれ落ちてしまうもの、実は山ほどあるんじゃないだろうか。そしてその中に、本当に大事なものが結構あるんじゃないだろうか。
いま私たちに必要なのは自分自身の「本当にそうかな?」を大事にし、出されたものを甘受せず、いちいち立ち止まることだったりしないだろうか。
2024年の朝ドラ「虎に翼」の主人公・寅子がしょっちゅうやっていた「はて?」と口にして場を一時停止する姿勢。あれが2年前よりもっともっと、私たちに必要だと思うのだ。
どんどん早くなる流れの中での「どちらでもないもの」。要約されたり編集された過程でこぼれ落ちるもの。そういった「あわい」を無視せず、むしろそこに目を向けるようなまなざし。
最近はそういうまなざしのある本ばかり読んでいる。それらは時に鋭く、時に慈しみに溢れている。その一部をここに挙げておこうと思う。
★尹雄大「句点。に気をつけろ」(光文社)
サブタイトルは「自分の言葉を見失ったあなたへ」。論理的、効率的に話すこと。きっぱりと言い切ること(=句点をつけること)。むしろそこからこぼれ落ちたところに「自分」があるのではという問いかけに溢れた本。「意識的に」「自己肯定感」「共感」「自立」…ちまたに溢れるこれらすべてに投げかけられた疑問にハッとする。
★武田砂鉄「わかりやすさの罪」(朝日新聞出版)
砂鉄さんは王様の裸を指摘する子供のようだと読むたび思う。社会のあらゆるお約束ごとやパターンの中で立ち止まって「それおかしくない?」と問う。題材がいつもしっかり「いま」なので、世間に慣らされている自分に気づく。
「納得と共感に溺れる社会で、与えられた選択肢を疑うために」と帯にある。
★武田砂鉄「『いきり』の構造」(朝日新聞出版)
こちらも砂鉄さん。今回のテーマと少しズレるかもしれないけど、この上なく「いま」を捉えて容赦なく書いている。SNSやメディアで権勢を振るいがち(=皆を納得させてしまいがち)な言葉の危うさ・無茶さがよーく分かる。
★西本千尋「まちは言葉でできている」(柏書房)
「まちづくり」という言葉には未来を感じる。きれいになるならいいじゃないと第三者は思う。でも長い間そこに住んでいる住民の言葉はどうだろう。再開発と輝かしい未来の話でスルーされる「わたし」。実際に長年まちづくりに携わってきた著者が、こぼれ落ちたものに目を向けている。
★宮地尚子「傷を愛せるか」(ちくま文庫)
著者は精神科医であり、トラウマやジェンダーの研究者でもある。
あらゆる「傷」のこと。弱さと強さのこと。「白か黒か」では決してないものをすくいとって、やさしい言葉で綴るエッセイ。
何か大きなうねりや痛快で分かりやすいムーブメントには、とにかくイージーに乗っからないことだ、と思う。一見、たいへん便利で、たいへん大義があり、そして分かりやすく正義に思えたりするもの。
でも本当にそうなのだろうか。あなたと私は、そこに進んでいいのだろうか。知らない間に、声の小さな誰かをなぎ倒したり、轢いたりはしてないだろうか。
そういうことを、いつだって考えるようにしたい。