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Amazonによる処方薬販売開始についての考察

7月23日アマゾンジャパンは、オンライン服薬指導および処方薬の自宅配送サービスである「Amazonファーマシー」を開始しました。同社のプレスリリーによると、アイン、ウエルシア、クオール、トモズ等、合計で約2,500の薬局において服薬指導が可能と発表しています。

米国では2020年11月に開始されていますので、3年8か月後に日本でも同様のサービスが始まったということになります。今回のコラムは、このアマゾンジャパンの取り組みについて私なりに考察してみたいと思います。

まだまだ低い電子処方箋の普及率
Amazonファーマシーの利用には電子処方箋が必要となります(※ChatGPTで調べると紙の処方箋でも場合によっては利用可能な方法があると出てきますので詳しくは各自お調べください)。では電子処方箋はどれくらい普及しているのかですが、デジタル庁発表のデータによれば、2024年6月時点での電子処方箋の導入状況は、病院1.7%、医科診療所3.3%、歯科診療所0.2%と極めて低い状況です。一方で薬局では37.7%と比較的導入が進んでいるようです。

とはいえ、医療機関がこのような状況ですので、利用のハードルは高そうです。ただし、電子処方箋は2023年1月にスタートしたばかりですので、まだ普及率が低い状況は理解できます。これから先普及率が上昇すれば自ずとAmazonファーマシーの利用率は上昇するかもしれません。

国内の薬局数は増加傾向
厚生労働省発表のデータによれば、2022年度(令和4年度)の全国の薬局数は62,375と前年比で0.9%の増加となっています。過去の数値を見てみると、1989年(平成元年)の薬局数は36,670です。なんと23年間で1.7倍に拡大した計算になります。ちなみに日本フランチャイズチェーン協会発表のデータによれば、国内のコンビニ数は2024年2月時点で55,657店なので、コンビニよりも薬局数が多いことになります。

日本はもともと薬局に限らずリアルチャネル網が充実しているのが特徴的です。それが理由でEC化率は10%未満と諸外国よりも低い状況です。薬局も同様に数値だけ見るとリアルチャネルが充実していると考えられるため、Amazonファーマシーの普及にあたっては、このような状況が足かせになる可能性が想定されます。

一般用医薬品のEC市場規模は?
遡ること10年前の2014年、改正薬事法の施行によって一般用医薬品のネット販売が可能となりました。そう考えれば10年を経て処方薬のネット販売にまでたどり着いているということは、医薬の世界もスピードはともかく着実にネット化が進行しているということでしょう。
一方で処方箋が不要の一般用医薬品のEC市場規模がどうなっているかですが、参考となるデータを基にした私の予想では、2024年時点で約500億円程度、EC化率は数パーセント後半と予想します。食品、アパレル、家電などのEC市場規模は軒並み2兆円を超えています。それらと比較すると、一般用医薬品のEC市場規模の絶対値は必ずしも大きいというわけではありません。他のカテゴリーと比較し想定されるEC化率はそれほど極端に低いわけではないですが、とはいえ10年で10%に到達していません。処方薬のネット販売の普及スピードを考える上で、一般用医薬品の普及速度は参考になるかと思います。処方薬のネット販売がいきなりEC化率10%を超えるほど急速に拡大するということは予想が難しく、当面の間徐々に利用が拡大すると考えるのが適当のように思えます。

シチュエーション考察
ヒトが薬を欲しているシチュエーションを想定すると、当然ですが体調が悪い時です。処方薬の場合は病院で診察が前提となりますので、どうしようもなく体調が悪いケースが多いでしょう。そして診察を受けた後に、直ぐにでも薬を飲んで1秒でも早く症状を改善させ体調をもとに戻したいと考えるのが普通です。

そう考えると、処方薬のネット販売の場合手元に薬が届くにはタイムラグがどうしても生じてしまうと思いますので、その点をどう捉えるかがポイントとなりそうです。一般用医薬品の場合は解熱剤や総合感冒薬など予め欲しい薬が分っていて、買い置きする等の消費行動が想定できます。しかし処方薬はそうはいきません。一方で、シチュエーションを考えると処方薬のネット販売が適しているケースは、症状改善のために継続的に投薬してもらっているケースが考えられます。このように、全てのケースでニーズがあるというわけではなく、特定のケースでは確実にニーズはあると思われます。

まとめ
電子処方箋の普及状況、実店舗としての薬局数の状況、一般用医薬品のEC市場規模、シチュエーション考察を基にすれば、処方薬のネット販売の普及拡大には時間を要すると言えそうです。こう書くととてもネガティブな言い回しに聞こえるかもしれません。しかしながら、私個人としては今回のアマゾンジャパンの取り組みについては頑張って欲しいという前向きな見解を持っています。

アマゾンジャパンも私が本コラムで記した事項については理解していると思います。その上で踏み切ったわけですので、勝算はあるものと推察します。新しいことに踏み出すのはエネルギーを要します。アマゾンという巨大なEC企業がその一歩を踏み出したことについては敬意を表したいと思うと共に、今後の展開を見守りたいと思います。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 本谷 知彦

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役


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